旅立つ
纏め終わったルシアナとアリスの荷物を【インベントリー】に仕舞うと、外に出る俺たち3人。
「【龍の大陸】はあそこの山を超えば辿り着けるの」
言うと、遠く離れている西の山に指さすシリカ。
「山の上で吹雪が常に吹き荒れているので環境が相当厳しいが、一応山の中を通せるように通路が作られた。ただ、飛行するよりそっちの方がかなり遅い。安全だけど」
なるほど。
別に急いでいるわけではないが……
「みんなはどうする? 子供がいるから………」
「子供じゃないもん………」
と、アリスに遮られた。
いや、子供でしょ?
そんな背の低い大人見たことないんだ。
「ま……まあ、アリスがいるから山を超えるのが危険そうだけど、一応【加護】という魔法を覚えている。あれを使えば割と安全そうに山を超えられると思うが、みんなは?」
聞くと、シリカはすぐ答える。
「私はもちろん早く着きたいんだけど?」
「アリスも!」
続いてアリスが言う。
2人は急いで着きたい、と。
じゃあ、ルシアナは?
視線をルシアナの方に見やると、ルシアナは複雑そうな顔をしていた。
なにを悩んでいるでしょ?
そう考えつつ、ルシアナは口を開いた。
「カエデさんがそう言うなら私はどっちでもいいよ」
だって。
「俺も別にどっちでもいいが…シリカ、山を超えることにしたら、【龍の大陸】にいつ着けるの?」
残念ながら、俺の魔力は無限ではない。
確かに他の人と比べると相当多いけど、俺でも魔法を1日中休憩もせずに維持できるというわけではない。
数時間だったら行けそうだと思うけど。
「そうね……龍の姿で行くとしたら、恐らく30分に着けるとと思うの」
あ? それなら余裕ッス。
「わかった。山脈に着いたら30分休憩を取った方がいいと思うよ?吹雪の中、疲弊や空腹で倒れるのよくないし。これでみんなが賛成なのか?」
聞くと、頭を頷く3人の女の子。
それを見ると、俺は頷き返す。
「さて、そろそろ出発しようか」
シリカが言う。
それから返事を待つことなく、魔力を練り始める。
もちろん、それを知っているのは自分だけだけどな。
魔力が全身を包むように動かすと、彼女の姿が変化し始める。
背中からドラゴンの特有な、皮のような翼が生える。
その色は相変わらず空の色に匹敵するような水色だった。
人間の肌も鱗になり、小柄な身体も巨大化していた。
一瞬にして、銀髪が特徴の女の子がいなくなり、威厳なオーラを放っている水色のドラゴンに取って代わった。
シリカはしばらくその鋭い目で俺らを見つめると、俺たちが乗せられるように地面に体を低くする。
「乗って」
と、それだけを言う。
言われるがままに、俺たちはシリカの背中に乗る。
乗ったらシリカはすぐ姿勢を正すと、翼を広げる。
「みんななんか掴んでくれ。日がまだ沈んでいないうちに着けたいと思うので、ちょっとスピードを出しちゃう」
そう言われてもなぁ。
日が沈むまでまだ充分に時間が残っていると思うが、まあいい。
シリカはそんなことを言うと、強く翼を羽ばたかせる。
1回、2回、3回、4回……4回くらい翼を羽ばたかせると、気づいたら俺たちはもう地面に立っておらず、代わりに空中に浮かんでいた。
吹き抜ける風が強く顔面に当たる。
なんかちょっと息苦しさも覚えていたが、いずれ慣れるでしょ。
と、そんなことを考えつつ、シリカの声が聞こえた。
「さて、行くわよ!」
と、それだけを言うと、俺たちは南の山を目指して、飛んでいくのであった。
◇
すると30分後。
俺たちはなんとか無事に山脈に辿り着くことができた。
地面に着陸し、俺達はシリカの背中から降りる。
そうするとシリカは人の姿に変えた。
見回すと、1面緑色の世界だった。
目の前には木々が広がっており、後ろには穴が開いている。
恐らく【龍の大陸】へと繋がっている山道だ。
中は暗いが《光》を使えば照らせると思う。
「ここで休憩するの?」
アリスが聞く。
そして彼女の質問に、ルシアナは頷いた。
「そうよ」
なでなで、なでなで、とアリスの頭を撫でるルシアナ。
アリスはそれに対して露骨に嫌な顔をしているが、ルシアナの手を止めようとしていない。
そしてそれを黙々と見ている、龍の少女であるシリカ。相変わらず「話しかけるな!」オーラを纏めている。
彼女を見るだけで威嚇される者が多いと思うなぁ。
いつもそんな暗い表情をしているからかな。
多分、そんな理由で友達が作れないと思う。
もちろん、それを口にする度胸が俺にはないので何も言わないことにした。
とはいえ、頑張って友達を作ろうとしていたが作れなかった前世の俺には失礼だと思うなぁ。
………やべぇ。
急に気分が滅入ってしまった。
「何、暗い顔をして? なんか嫌なこと思い出しちゃった?」
聞いてきたのは、シリカだった。
因みにルシアナはアリスを抱きしめながら頬を自分の頬で擦っている。
可愛がっているみたいだ。
やはり相当妹思いな、お前。
「お前こそなんで、「近寄るな!」っていうオーラを全開してるんだ? なんか嫌なことでも考えてる? 」
言い返すと、シリカは「はぁ〜」と溜息をすると、視線をまた姉妹に向ける。
「まあ、ちょっと…な」
あ、やばい。
地雷に踏んで……いなそうだが、もうこれ以上話を続けるな、という気持ちをシリカの仕草を見るだけで伝わってくる。
「……それよりさ、なんか食いたい」
話を変えようとする俺。
するとシリカは「感謝してる」と言わんばかりの顔
「そうだな。何持ってきた?」
「冷蔵庫にあった全部の食べ物だ」
シリカの質問に俺が答えると、シリカは呆れたような顔を見せる。
「全部って?」
うまく聞こえなかったようだ。
いや、聞こえたな。
ただ耳を疑っているだけ。
「うん。だって、どれくらいお前らと一緒に【龍の大陸】に滞在するか知らないしな。消費期限を考えれば最良の選択だった。ほらな、食べ物はすぐ腐るんだから」
答えると、彼女は頷く。
これで納得したか。
「それは………そうだな」
「まあ、それはそれとして……休憩時間は30分。何か軽い物を作って食べようか」
聞くと、彼女は「うん」と頷いた。
大丈夫かな、こいつ?
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