理由

朝食を食い終え、ルシアナはアリスを連れて街に行った。


つまり家にいるのは、俺とシリカの2人だけ。

もう、そろそろだな。

そう決めると、俺は口を開いて語り出す。


「で、なんでお前がここに来たわけ?」

「【龍の末裔】の紋章」


俺が聞くと、シリカは答える。

【龍の末裔】の紋章。

俺がこの【龍の末裔】の紋章とやらを持っているからここに来たってわけか。


「さっきお前が言った…【龍の末裔】の紋章に選ばれた者ってどういうこと?」

「我が国では、【龍の末裔】の紋章に選ばれた者は救世主と名付けられている。10年前に、父老様が救世主の到来を予言していた。ここら辺に現れるって言って、我々龍族の事情を伝える為に王家の血を引く者が出迎えるべき、って決めた。で、当然、現在の国王陛下の娘としてわたしが選ばれたってわけだ。あんたが来る日を待ち、わたしはここに近い街【イマゼン】と山を超えて辿り着く村【デーマン】を交互に見張っていたんだ」


あれ?

つまり俺が種族の救世主ってことなのか?

いやいや。

意味がわからない。


確か【闇喰らいのシス】を吸収して付けられた職業だろ?

偶然、………では無いかな?


「闇喰らいのシスって知ってる?」

ふと、そんなことを聞くと、シリカは強ばる。

なにその反応?

「なんでシスジジイ知ってるの?」


お前のジジイか、シスって?


「たまたまお前のジジイについての本を見つけたんだ。あの本を読む前にこの【龍の末裔】の紋章はなかったよ?」

そう、俺が説明すると、シリカは目を閉じると、神経を落ち着かせるかのように溜息をする。

「今まで、出鱈目だと思っていたんだけど」

「何が?」

「ジジイが突然居なくなったとき、母上にその理由を聞いたんだ。で、母上が何を言ったのかと思う?」


何も言わなかったらシリカが続けた。


「『私たち龍族を護る為に本に意識を封印した』って言ってきたんだ。もちろん、そんなことを一切信用していない。当時子供だった私でも、どれほど非現実的なことなのか、知っていたからだ」

「本に意識を封印した? 」


もしかして、【封印魔法】とかが存在しているの?

なんか便利そう。


「ひょっとして、」


と、そう思いながらシリカが突然言い出す。

随分とぎこちなさそうだ。


「まだ持っているの、あの本?」


来ましたなぁ。

これはどうするか?

真実を言ったら殺されそうだからできればしたくないなぁ。


『あ、実は【賢者の権能】というスキルを使って内容を一瞬にして覚えたよ?ちなみに。このスキルを使うときは本が絶対に発火して無くなっちゃうの♡』


なんて。

絶対に殺される。

でも………


「すみません、持っていない」


俺が言うと、シリカはがっかりしているような顔をする。


「そうか?」


凄い、残念そうな顔だ。

でも、俺には何もできない。

真実を言ったらさらに落ち込むでしょ?

逆に嘘を言ったら罪悪感に押し殺されそうになる。

まあでも、なんかしないとな。

このままだと気が済まないから。


「実は森の中に廃れた建物が建てられたんだ。そしてあの廃墟には本が沢山あっててさ。それはもちろん、シリカのおじさんについてのあの本も。俺にはとあるスキルがある。スキルは【賢者の権能】という。あのスキルを使って、建物にあった本の全冊の内容を覚えた」

「便利そうなスキルね」

「うん、自分に言われせればめっちゃ便利」


と、そんなやり取りをすると、また真剣になるシリカ。


「それで、」


「はい。建物を出たあとしばらく森を彷徨うと、突然ドラゴンに襲われた」


そこで、シリカは驚愕しているような表情を浮かべる。


「ドラゴンだって?」

「うん。鱗が赤いやつ。見るところ、おそらく体長は10メートルありそうなサイズだったなぁ」

「【龍の末裔】の紋章に選ばれたあんたに襲ったってことは、恐らくあいつがはぐれドラゴンだった。龍の神であるイシンさまの聖教に楯突いた者。それで、何をした?」

「もちろん、身を守る為に殺したんだけど、俺が攻撃する前にあいつが先に動いた。炎の吐息でお前んじさんの本があった建物を破壊してしまった」


話の約99%が真実だった。

残りの1%は嘘だ。

しかしそんなに真実から程遠い割合ではない。


「まあ……しかたないことなのだ。そもそも目的は、おじさんの遺物を探し出すことではない。あんたに我々龍族の近況を教えることだ」


「そういえば、そうだったっけ? それで?」


そう、俺が促すと、シリカは頷いて語り出す。


「物心ついた時から、我々龍族は絶えぬ戦争に巻き込まれている。あんたが戦った、イシンさまの聖教を捨てた《はぐれドラゴン》との戦争だ。物事に対して不満を抱き、はぐれになったドラゴンは伝統をバカにして、王国を出た。最初はそんなに気にすることではなかったが、時がたてばたつほど、《はぐれドラゴン》がどんどん大胆になり、今は大問題になってる」


「つまり、何を言おうとしているの?」


とは言っても、彼女の言いたいことがなんとなくわかった。

ただ、彼女の口から聞きたいだけだ。


「言わなくてもすでにわかっているでしょ? 【龍の末裔】の紋章に選ばれた者として、我々龍族を救うことが義務付けられている。あんたを【龍の大陸】に連れる為に、私が派遣されたのだ」

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