北門の守護者シリカ
お前、さっきのノックは尻尾でやったか?
よく扉を壊さなかったなぁ。
「ええと、どういうご用件でしょうか?」
まあ、扉をノックするぐらいの知能を持っているのなら、言葉を話せないというわけではないでしょ。
普通のドラゴンなら問答無用で火を吐いて家を焼き尽くしたんだろうな。
こう、人間みたいに人の扉をノックしてるってことは何か用件があるってわけだ。
つまりこいつは恐らく、上位龍だ。
「我は北門の守護者と呼ばれておる存在だ。名はシリカ」
やはりこのドラゴンは人の言葉を話せるな。
しかし、声が大きくて耳に痛い。
人間の姿がないのかな?
「で、そのドラゴンが何の用ですか?」
「貴公は【龍の末裔】に選ばれた者だ。確かにその魔力量は圧倒的なものだけど、貴公の実力を知りたくて勝負に挑む為に我はここに来たのだ」
あれ?
【龍の末裔】って今言わなかったっけ?
ずっと本から取得したスキルや新たな種族だと思っていたけど、違ったらしい。
「この【龍の末裔】とやらは一体なんなんだ?」
「それは勝負に勝っていたら教えることよ。貴公1人で。エルフの娘達は参加出来ぬ。どう? 受けるのか断るのかどっち?」
そう、獲物を睨みつけているようなその鋭い視線で俺を見つめながら言うシリカ。
なるほど。
私が知っている情報を知りたいなら勝負を承諾して勝つってことか。これは戦うしかないな……。
「わかった。やってやろうじゃないか」
「良かろう」
「お兄ちゃん、戦うの?」
あ、そういえばお前はまだいたのか?
「うん、まあちょっとな。別にお互いを殺そうとしてるというわけじゃないから心配はいらないよ」
そう、アリスの頭に手を乗せながら慰める。
「アリス、見てもいい?」
あ、そうか。
別に心配してるわけじゃないな。
ただ見たいだけだ。
「もしよかったら、私も見てみたい」
それを言ってきたのはルシアナだった。
お前、料理は?
「今シチューが煮えているので」
そして俺の質問に答えるように、ルシアナが言う。
まあ、別に見てもいいんだけど、結界魔法覚えているのかな。
と、そんなことを思いながらステータス画面を開いて魔法画面に移る。しばらく下にスクロールすると強そうな結界魔法を見つけた。
これを使えば大丈夫かな。
やってみないとわかんないな。
「うん、別にいいけど、シリカは? 観衆がいても平気?」
「我は構わぬ」
そうか。ならいいんじゃん。
「だってさ。ほら、家から離れよう」
そう、俺が提案すると、納得を得て俺たちは家から離れただだっ広いところまで移動した。
◇
俺はこっそりと【鑑定】を使ってシリカのステータスを見る。
─────────────────
シリカ Lv 90 職業:北門の保護者
性別 女性
年齢 3000+
種族 上位龍
RANK:A
HP 10000/10000
MP 10000/10000
STR:?
INT:?
AGI:?
DEX:?
スキル
【表示する】
─────────────────
おかしいなぁ。
【STR】【INT】【AGI】【DEX】の4つのステータスは無表示になっている。
これ、どうゆうことかな?
とはいえ、今は考える暇がないよな。
とりあえず、今から行われる勝負に集中しないと。
「始める前に、他に条件とかがあるの?」
そう、俺が聞くと、シリカは暫く考え込んだ挙句、返事してくる。
「相手に致命傷を負わせる以外なんでもあり、かしら?」
だってさ。
「わかった」
手加減はしない。
というのをすげぇ言いたいところだったけど、言ったら嘘になるね。
手加減はしない﹦高級魔法使用可能。
高級魔法使用可能﹦不可避死。
出来るだけ、こいつを殺したくない。
相手も殺す気で戦わなさそうなので。
つまり低級魔法と中級魔法に限られている、か。
それでもまだ充分だと思うけど。
「では、始めるとするか」
そう言うシリカ。
そしてドラゴンの言葉に、俺は頷いただけ。
と、その前に。
(結界・強)
これでルシアナたちは無事だ。
「我々ドラゴン族の救世主になる資格があるかどうか、それを確かめる為に、北門の守護者と呼ばれておる我、このシリカ、貴公と戦うのである!いざ、参る!」
そう、大声で叫ぶシリカ。
すると鱗状の翼を広げて、強く羽ばたいて空へ飛んでいく。
刹那。
シリカの巨大な身体が太陽を遮って世界を真っ暗に染めていた。
やはりデカいなぁ。
俺の何倍も大きいんだ。
一見してこの勝負に勝つのは無理そうに見えるが、生きとし生けるものとして弱点は1つや2つはある。
弱点といえば……まあ、人間の弱点は計8つもあるが。
その中、心臓、肺、脳、喉元、そして頚静脈が一般的に知られているだろ。
しかし残念ながら、相手を殺そうとしているというわけじゃない。もし生死勝負だったら話は別だけど。
でもこれは生死勝負じゃないから我々生き物が共通している弱点を狙う必要がない。
で、ここまで来たからには、これからどうすればいいのか考えないといかない。
問答無用、ドラゴンと比べると、俺の物理力はかなり貧弱なものだ。
できればあんまり接近したくない。
もちろん、隙とかがあったら刺さってみようとするが、それ以外は遠距離で対応する。
となると魔法で戦うことになるなぁ。
相手はドラゴンだから当然のように火耐性を持っているだろ。
確かにあのときのドラゴンを火で焼き殺したんだけど、それは恐らく威力が高い高級魔法を使ったからだ。
こいつを殺したくないから低級魔法、もしくは中級魔法に限られている。恐らく高級魔法の【殲滅の猛火】みたいな中級魔法はないだろうな。
ないと思うから、とりあえず【火属性魔法】はダメってことなのだ。
次は【雷属性魔法】だ。
【雷属性魔法】の場合だと、普通に行けると思うが、間違いなくあの大きな翼で竜巻とかを呼びおこせるだろうなぁ。
雷は風に弱い、ということは確かにネットでどこかで読んだことがある。
雷=プラズマ。
だから風属性の中に雷が含まれてるってことなのだ。
風の力を使えば、下位属性の雷、つまりプラズマを増大させるのも消滅させるのも思いのままみたいな感じだ。
ってことは雷もダメだ。
残っている、“行けそう”な選択なのは強いて言うなら【氷属性魔法】だな。
氷には水分が含まれているので、火を尽くせるだろ。ちなみに、水属性魔法が効かない理由はドラゴンの鱗のせいだ。
やはり考えれば考えるほど【氷属性魔法】しかない。【氷属性魔法】で両翼を凍らすことによって飛ばなくなるでしょ。
両翼を凍らせば俺の勝ちだと言っても過言ではないだろう。
そう成功率がかなり高そうな作戦を考えつくと、戦闘態勢に入った俺。
そしてその俺を見て、空を飛んでいるシリカは不気味な笑みを浮かべる。
俺を見下ろしながら全世界を震撼させるほどの獰猛な咆哮を上げるシリカ。
来るぞ!
そう思ったその次の瞬間に、シリカは容赦無く攻撃してきた。
口を大きく開き、白く輝いている猛烈な炎を吐き出す。それを見て、俺は反射的に右手を差し伸べると、 体内から魔力を無理やり引っ張り出して結界を張った。
目の前に透明な障壁が現れ、シリカの炎をなんとなく防ぐことに成功した。
それでも、まだ感じることができた、シリカのその熱い息を。
更なる火を追加したのか、前に比べて炎の猛烈度が強化された気がした。まるで、地獄の炎に包まれているかのような、そんなレベルの猛烈度だった。
それにもかかわらず俺は顔をだらだら流れていく汗を無視すると、反撃を開始することにした。
「散れ!」
そう、俺が言うと、炎があたかも風によって吹き飛ばされたかのように消えた。
マジック・ブレーカーと呼ばれている結界魔法の類の1つなのだ。その魔法を使うと、シリカが吐き出している炎の息を一時的に途切らせることができた。
攻撃を再開することができる前に俺は地面を蹴って後ろに退ける。自分の攻撃が早計に止められたからか、シリカは驚いているような表情を浮かべる。
「ちっ! なかなかやりおるな、【龍の末裔】! でもこの勝負はまだ始まったばかりだ」
確かにこの勝負は本の数秒前に始まったのだけれど、長引く気分じゃない。
さっさと終わらせようか。
そう決めると、一秒も無駄にせず、俺は体内を流れる魔力に集中しながら少しだけ前屈みになる。
すると後ろ腰から【黒薔薇の刀】を抜きながら空を飛んでいるドラゴンへ、全速力で走り出す。
「ほう? 向かってくるのか? よかろう! じゃあ、この我の力、拝見するがよい!」
俺の突然の行為を見て目を細めるシリカがそう言うと、もう一度口を開き、炎を吐き出そうとしていた……
が、彼女はもう手遅れだった。
俺は地面を蹴って止めることなく近くの木の枝に着陸する。
するとそのまま【超加速】を使えながら枝から枝へとシリカの元まで飛び移る。
跳ね回りながら激しく体内を流れる魔力にもう一度集中し、詠唱を紡ぎ始める。
「我が敵を永遠に凍原に閉ざしたまえ!」
光。
それは恐らく体内から溢れ出ている魔力だった。
魔力を入れすぎてるかな。
中級魔法だし、こんな光を生じることじゃないから。
まあでも、したかない。
もう攻撃を始めたし、今更止めることはできない。
とりあえず溢れ出ている魔力を全部【黒薔薇の刀】の刃に流通することに集中しよう。
決めると、目を細めて息を整える。
目の前のドラゴンは倒せないけど、両翼を凍らすことはできる。もともとそんなつもりだったたから当然のことだ。
「何?!?!」
そう、驚きを隠せずに思わずに言うシリカ。
しかし俺はそんなドラゴンの発言を気にせず、魔法を完成させる。
「凍える風!」
そう、俺が声の限りに叫ぶと、シリカの両翼目掛けて、強く【黒薔薇の刀】を振り下ろしたのだった──
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