出発、そして………
「本当に、感謝しております」
そう、恭しく頭を下げながら礼を言う村長さん。
山賊団を殲滅してから10時間がすでに経過した。
翌日……ではないが、山賊団を殲滅して宿に戻って寝て、起きて朝食を取ってから出発の準備をしていた。
そしてここまでに至ったっと。
山賊団の殲滅が発表されたら案の定、村は大騒ぎだった。
どうやら山賊団を追い出される為に他の国との貿易を完全に封印したらしい。
何故かと言うと、まあそれは食料品とか、そういうのがないとアピールしたら山賊団が去ると思っていたから。
山賊団を寄生虫扱いしていた、っていうわけだ。
それはつまり、寄生虫の食料源が無くなったら食べ物を探す為に寄主から離れるという強いて言うならかなり愚かな計画。
まあ、愚かな計画とはいえ普通に寄生虫を追い出される為に利口な退治方法だと思うけど。
問題はここは貿易に繁栄する村ということなのだ。
言い換えれば、他の村や国に頼って食料品や衣料品を入手するところ。必需品の入手先を早計に切るということによって、この村に更なる負担をかけた。
きっと別の方法はあったが、正しいと思っていたことをやっただけだと思うから責められない。
間違いは誰でも犯すものなんだから。
「しかし、こんな早い時間に帰るなんて…数日滞在してもいいって言ったのに」
村長さんがそう、残念そうな顔をしながら言う。
「滞在したくないというわけじゃないが、ただいろいろ、イマゼンでやらなきゃいかないことが多すぎるから」
家の建築とか。
……とはいえ、普通に【想像顕現】を使えば建てられるが、なんかちょっと……もっと自分の好みに合う家が欲しいなぁ。
それに、置く場所も決めないといけない。
確かに前は森を言ったが、大地を買う手もある。
森か自分の大地を買うかどっちがいいのかな。
こんだけのお金があればきっといい大地を買えるが、と同時にこんぐらいのお金が足りているのかどうか、という2つの決定路の境にいる。
「そうか。本当に残念ですね。いつでも訪れてもいいって言うまでもないが、去る前にちょっとキミにあげたい物がある。ほら、アズサス。儂のところに来てくれぇ」
「はい」
あ、アズサスさん。
久しぶりだな。村長さんの家まで俺を連れた日以来全然見なかったな。ってかその日は昨日だったか。
じゃあ昨日ぶりだ。
アズサスさんは村長さんに何かを手渡す。
そのものを確認すると、村長さんはひとつ頷くと、視線をこっちにやる。
「まずはこれ、受け取ってくれ」
そう言うと、村長さんは俺に手に持っている物を渡す。
俺はその物を受けると、
これは、ペンダントだよな?
「見ればわかると思いますが、それはペンダントです。しかしただのペンダントではありません。デーマン村の仲間として認められる象徴です。そのペンダントがある限り、デーマン村で貴族のように扱われます。それに、ここにも屋敷とかも土地とかも、購入可能になります」
これ、ただの冒険者の俺が受け取れる物なのかな?
なんかちょっと、とんでもない物を貰った気がするが……
「そして、これも受け取ってくれ」
これは?
「それはI.O.U的な物として扱ってもいいよ。ペンダントに比べて、そんなに価値が高いとは言えんけど………」
「いや。むしろ、こっちのI.O.Uもペンダントに等しい価値があると思うよ」
「そうか? 正直に言って、物足りないと思いますけど、カエデさんがいいと言うならそれはそれで有難いです」
そう言うと、微笑む村長さん。
その後、俺は集まったみんなに別れを告げると、イマゼンへの帰り道についた。
◇
【???の視点】
外は気持ちいい。
空は高く、風は肌に当たるとバクバクしている心臓を落ち着けさせてくれた。
雲がゆっくりと流れ、どこからか鳥の囀りが聞こえてくる。
見回すと、木々がいっぱいある。
山々も幾つか背景に並んでおり、遠くにも広い海が見える。
最後に外に出たのは、いつぶりでしょ?
あのところに何ヶ月も閉じ込められたせいで時間の知覚をまるで失ってしまったようだ。
こんな綺麗な景色は見たことがない。
本当に心に響く、清澄な景色だった。
「お姉ちゃん、どこ行くの?」
もっとこの清澄な景色を味わえてみたいという気持ちは確かにあったが、今やらないといけないことがある。
妹を引っ張って、私は急いで「彼」の後についていく。
長距離からついていってるので、恐らく私たちの存在にまだ気づいていないのでしょ。
しかしこの距離だと、追いつけないわ。
私たちの事情をちゃんと説明したいが拒否される恐れがある。
怖くないなんて言ったら嘘になる。
実は今は凄く怖い。
しかし、それでもこの恩を返したい。
正直に言って、どうやって恩を返せるのかわからない。
特に「この」恩。
彼は私たちの命を助けてくれた。
命より大切なものは無いじゃない?
それでも………
「心配しないで、アリス。お姉ちゃんを信じて大人しくついてきて」
そう、妹であるアリスに告げる。
妹はまだよくわからなさそうな顔をしていたが、それでもまだお姉ちゃんの私についてくる。
いい子だわ。
「はい」
と、それだけを言うと、アリスは黙り込んだ。
彼女も絶対に久しぶりに見たこの外の景色を味わえたいね。
キョロキョロしている目からしてそれくらいのことがわかる。
後でゆっくりと味わえてもいいよ、我が妹よ。
しかし今は、やるべき事がある。
それは彼に追いついて、事情を説明することなのよ。
そうすると……そうすると…………
そうするとなんだ?
本当に、物の弾みで決めたことなのだ。
何を言えばいいのか?
私たちの命を助けてくれたお礼であなたについていきます、て?
なんてバカバカしい発言なのよ。
でも、恩返ししたいという気持ちは本当なのだ。
本当だけど、やはり言うことがない。
で、何する?
諦める?
ここまで来たからには、そう簡単に諦めるわけにはいかない。
私は必ず、この恩を返すなんてことを誓ったでしょ。
誓ったからこそ諦める訳にはいかないのよ。
と、そんな決意に至ったところで、彼は急に立ち止まる。
なんだ?
何があったのか?
そう思った瞬間だった……
「出てきてもらえるかな、キミたち」
と、そんなことを言うと、後ろを振り向き、私たちが隠れている遮蔽物に目をやる。
あ、バレたようだね。
◇
「キミらは確かあのときの……」
山賊団のアジトにいた2人のエルフ少女だろう。
一緒にいるってことは、友達?
いやでも、見た目はそっくりだな。
つまり姉妹かぁ。
で、確か村長さんに預けたんだか、なんでここにいるの?
もしかして、後についたりした?
だったら何のために?
「え……えっと」
おや?
顔真っ赤だけど?
人見知りか? しかし妹の方が全然平気そうに見える。
まあ、姉妹とはいえ、見た目みたいに性格も一致しているとは限らないよな。
心理学の基本の基本……多分。
「えっと………そのっ……」
めっちゃそわそわしているんだけど?
言いたいことが相当言い難いか?
まあ、ここまでわざわざ来たんだから、ほっといておくわけにはいかないな。
空を見上げる。
村を去ってから2時間が経った。
とりあえず、お昼取ろうか。
「まあ……もうこんな時間だし、お昼にするか?」
そう、俺が提案する。
「いやいや! そこまではしなくてもいいですから!!」
しかし、少女は慌てて否定する。
そうか? なら……と、そのときだった。
「グルル……グルル」
腹が鳴った。
俺のじゃない。
少女の2人だ。
「お姉ちゃん、わたしお腹がすいた」
そう、お姉ちゃんの袖を引っ張りながら言う幼い少女。
その一方で、お姉ちゃんの方がバツが悪そうに目をキョロキョロさせている。
身体の震える頻度があがり、真っ赤な頬が更に真っ赤に染っていて、真っ赤っかに進化した。
そのシーンを見ると、微笑まずにはいられない。
可愛いなぁ。
「ほらな。腹が減ってるだろ? 俺、食材持ってるからなんか軽いものを作る。少し待ってて。話は食った後にしようよ」
そう、俺が更なるプレッシャーをかける。
すると、ミニ少女は明るい表情で、
「本当?! お兄ちゃん、ありがとう!」
と、そんなことを言う。
本当に、無邪気な子だな。
頭をなでなでしようか?
いやでも、俺らは赤の他人だし、たぶんよくないと思うなぁ。
とりあえず、我慢。
しかし、俺の悩みを他所に俯きながら少女は
「あ……はい。もし、問題ではありませんでしたら。ありがとうございます」
そう、小さい声で言う。
多分、今朝何も食わずにここに来ただろうな。
じゃあ、飯をいっぱい作ろうか。
とは言っても、食材は肉しかない。
朝食に肉かぁ。
なんか外国っほい。
とはいえ、ここはもう地球じゃないな。
「あ、そうだ。別に敬語、使わなくてもいいよ。キミ、18歳だろ? 俺と同い年だよな?」
「あ、はい。なんでわかるんですか?」
敬語使わなくてもいいって。
「そりゃ見りゃわかるだろ」
「そう…ですか?」
「そうだよ」
「あ、そうそう。俺は宮崎楓っていうんだ。名前は楓だ。キミは?」
そう、俺が言うと、少女は頷いた。
「名前、知ってます。助けてくれたとき、言いましたから」
あ、そう言えばそうだったな?
忘れた。
「あのとき、助けてくれてありがとうございます。本当に、感謝してます……正直に言って、今、私が感じているこの気持ちを「ありがとう」だけで示せないと思いますんで、えっと…つ……ついてきました。私にできることなら貴方のために全力を尽くしてしますので、どうか!」
……ふむ。
名前はまだ言っていないが、まあ、俺についてきた理由がやっと明確になった。
つまり、恩返ししたい! と、思ってるよね?
「別に、他意があるからキミらを助けたというわけじゃない。なので、恩返ししないといけない、なんて思わなくていいよ」
「それでも……あなたのおかげで、私たちは人生で第二のチャンスを与えられました。この恩をどうお返しすればよいものか私には知りませんので、私自分自身をあなたに捧げることにしました」
何たることだ!?!?
「……お前、自分の言ってることがわかってるの? それはつまり、また奴隷になるつもりなのか?」
「あのとき、奴隷じゃなかったんです。人質でした………いやでも別に、奴隷になりたいと思ってるというわけじゃありません。私のことを、忠実な仲間として思ってください。魔法は使えないけど、弓矢なら使えます。それに、料理も掃除もできますので…………」
忠実な仲間?
つまりあれか?
命令を聞いて忠実に従う仲間っていうやつ?
なんだそりゃ?
っていうかさ、エルフなのに魔法が使えないってどういうこと?
魔力回廊が壊れているってことなのか?
それとも、普通に魔法が使えないってことなのかな?
それにしても、
忠実な仲間の発言。
魔法が使えない。
頑固。
人見知りなのに積極的………
頭がごっちゃごちゃになりそうだな。
「ダ……ダメ……ですか?」
そう、少女が聞いてくると、お…おい!
やめろ!
そんな顔するな!
秘術:つぶらな瞳!
子犬のような目をすることによって、異性の言動を完全に支配させる秘術なのだ。
……そんなの、ずるくねぇ?
「え……えっと」
ク……クソっ!!
神様!
なんでお前が全女性にそんな強力な秘密兵器を与えたんだろ!?!
「ダメ……じゃないが」
そう、俺が言った矢先、さっきの少女の泣きそうな表情が明るいものに変わった。
………演技だとわかっていても、自分の弱さにガッカリせざるを得ない。
「じゃあ、決まりましたね! 今後ともよろしくお願いします、ご主人様!」
「ご主人様はやめろ! ってかせめて名前を教えてよ名前」
「あ、忘れました。私はルシアナと申します。そして隣にいるこの子は私の妹のアリスです」
ルシアナにアリスか?
なんか可愛らしい名前だな。
こうして、俺は仲間が2人できた。
そしてやっと、この依頼に幕を閉じたのだ。
イマゼンに帰って、とりあえずゆっくりと休もうか。
面倒なことが起こらないように、と。
そう、頭の中で祈ると視線を後ろについている姉妹にやる。
「さて、イマゼンに帰るまで飯でもしようか」
─────────────────
クエスト:デーマン村に到着した。村長との話し合いの後、黒幕がいることが判明された。黒幕の正体を明らかにせよ。
山賊団を殲滅せよ。
ステータス
完了
目標
◆宿屋で情報を収集する
◆商業ギルドで情報を収集する
◆村長に報告する
◆黒幕と対面する
◆山賊団を殲滅する
クエストクリアの報酬:
・デーマン村の人口の中で評判を高める
・新たな仲間
・50000E
■隠れ目標
◆山賊団を逮捕して詰問する。【成功】
報酬:
・10000E
依頼:山賊団の殲滅「成功」
ギルドに戻って報酬を貰う!
─────────────────
◇
【とある女神の視点 ※3人称視点】
「うふふ、ずいぶんと忙しそうだね」
死後の世界・天国と地獄の間に存在する【神の間】──女神アリアの間にて。
椅子に座っているのは、1人の女子だった。
水色の髪に、それと同色の瞳。
白と青に染まっている背景に、雪を想わせる彼女の白い肌がキラキラと輝いていた。
【完璧】という言葉が具現化したかのように、彼女は圧倒的な色気と力を放っているオーラに纏っている。
気になって、アリアは最近異世界に蘇生させた、若き死んだ宮崎楓の様子を窺うことにした。
神の力は万能だ。
望む限り、何でもできる。
それは例えば、存在する幾つかの世界線を破壊させることとか、亡くなった軍隊を蘇生させることとか、………人の人生を望み込むこととか、いろいろ。
「それに、あたしのギフトも既に使いこなしてるみたいわね」
レベリング制度に瞬間学習。
アリアが楓に与えた能力である。
レベリング制度を使えば、レベルを上げれば上げるほど、どんどん力を手に入れられる。
マックスレベルを設定していないので、無限にレベルを上げられる。そしてレベルを上げることによって、
例え、彼がそう望めば、≪神≫に匹敵する力すらも入手可能。
それに瞬間学習。
【賢者の権能】の形をさせて、楓に学習手段を与えた。
「ただ……賢者の権能の《本当》の力にまだ気づいてなさそうだね」
賢者の権能。
確かにその記述は【魔法に関するスキルブックや巻物を接触すると、自動的に内容を吸収するスキル】だな。
【魔法に関するスキル】。
なのに剣士の戦い方も、盗賊の戦い方も、とりあえず魔法に関していない本も吸収ができてそれらのスキルも学んだ。
手にしている【チート】を使っているけど、その実力を発揮していないってわけだ。
「【頭脳明晰】を入手したのに、まだ気づいていないってことは、自分が手にしている【スキル】を過信していないってことわね。まあ、いずれわかるようになるでしょ。自分が持っている【神の道具】の実力が。その日が来るまで、本当にとても待ち遠しいわ〜」
と、そんなことを言うと、「うふふ」と、アリアはまた可愛らしく笑う。
「えっと………今日は6✕✕11月20日だよね。クリスマスまであと1ヶ月ね。あたしのギフト、ちゃんと届くのかしら? もし届いていない場合、まあ、直接彼に渡してもいいけどね」
そう、微笑むアリア。
とはいえ、あと1ヶ月がまだ残ってるんで、今の時点で昂る必要がないのだ。
そう、アリアは決めると、ヤナムと呼ばれる世界線からその意識を切断する。
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