山賊団の滅亡(10)
【村長の視点】
溜息をすると、商業ギルドのギルドマスターを連れて門兵とともに刑務所へ向かっている。
「あのカエデくんってば」
本当に、唐突のことじゃった。
商業ギルドのギルドマスターを拘束しているところで、突然、カエデさんが現れた。
門兵を揃えて、商業ギルドのギルドマスターの家に行った。
この時間だと、商業ギルドにいないということがもうわかっていた。
幸いなことに、この村に住んでいる全住民のお住いの居場所を知っている。
ギルドマスターが扉を開けた瞬間、儂はすぐ門兵に「拘束しろ」という指示を出した。
カエデの言う通り朝に門を見張る門兵を連れてきた。
念の為にな。
あとで儂の権威に敢えて逆らうやつらにバツを下すと、そう決めた瞬間に、カエデさんが突然、儂の隣に現れた。
本当に突然のことで、一瞬心臓が止まるかと思っていた。
しかし何となく失った冷静を取り戻し、儂は不満を伝える為に目を細め、カエデを睨みつける。
けれどカエデは何気なく儂を見つめてくる。
「よう、村長さん。黒幕を捕まえたみたいだな」
そう、何気なく言うカエデ。
口調は相変わらず冷静なものじゃった。
「あぁ。まあ、そうですね。カエデさんのお陰で逮捕しました。捕まえた山賊団のメンバーも手伝ってくれた」
「つまり?」
「見かけによらず、儂は尋問がかなり上手い方ってわけじゃ」
そう、自慢げに宣言する儂じゃったが、カエデは動じることなく、儂を見つめていた。
何じゃ?
顔になんかついておるのか?
「なるほど。村長さんはそういう仕事もしたんだね」
まあ、隠しているというわけじゃぁ無いが、
「それで、カエデさんの後ろにいる人は誰ですか?」
「人質。山賊団のアジトで見つけたんだ」
人質か。
まあ、その身なりを見りゃわかるじゃろうな。
キョロキョロしている目、ボロボロの服装、ところどころ肌についておる汚れ、強ばっている体勢。
それに、全員は栄養不足のように見える。
正直に言って、どうやってまだ生きているのか儂にはわからん。
その生きる意欲が強いっていうことがわかっとった。
「僕はもうそろそろアジトに戻って依頼を果たさせる。村長さん、この人達も任せたな。それに」
と、ここで、カエデは儂だけが聞こえるぐらい声を小さくして、
「出来れば、念の為に相談者を雇ってほしい。もう何ヶ月もあのところに閉じ込められていた。何が起こったのか、言うまでもなく村長さんがもうわかっているでしょ? この人達のメンタリティを再構築させる為にな」
そう言った。
確かになぁ。
もちろん、最初からもうそれをやるつもりじゃったが。
「言わせんでわかっとるよ。それにしても、本当にありがとうございます、カエデさん」
もう何回も言ったか知らないのだが、儂は本当に感謝している。
「この村は、永遠にカエデさんの恩を忘れやしない」
「依頼を受けた他の誰でもは間違いなく同じことをするでしょ」
そう確信めいた口調で言ってくる。
そして、
「そんじゃ、僕はもうそろそろ行くからな。前はもう言ったと思うが、後は任せた」
「確かに前も言いましたね」
と、そんなやり取りをすると、カエデは目の前から消えた。
……やっぱ怖いなぁ。
そんなふうに現れたり消えたりすることができるなんて。
◇
村長さんのところに人質を連れておいた後、俺はまた【瞬間移動】を使って山賊団のアジトに戻った。
もうそろそろだな。
人質を解放したからアジトにいる人の気配が減った。
前は80人だった。
人質を含めて90人もいた。
それに、村を襲いに来た山賊の人数は10人。
つまり、100人がいたんだ。
計算通りだけど、正直に言って人質の可能性を考えなかった。
愚かなミスだ。
しかしまあ、80人は確実にいた。
村を襲いに来た10人が捕まえられたからその数が70人に減った。
100人じゃないが、70人もかなり多い。
それはそうと、
人質が全員解放されたってことで、殲滅方法が結構増えた。
全員を暗殺する手もあり、アジト自体を爆発させる手もある。
とは言っても、【爆裂魔法】なんて覚えていないな。
そんなにたくさんのスキルブックを吸収したのに。
まあ、特別な魔法という可能性もある。
取得方法は遺伝のみ…みたいな。
その他にはそうだな……まあ、火属性魔法を使って煙を生み出し、窒息させるという手もある。
しかし…どっちも窒息死という類に当てはまるとはいえ、煙で窒息死させるということよりむしろ、全員の喉元を掻っ切った方がより早くて、それにその効果率が高い。
やはり今回も暗殺者っぽくやった方がいいなぁ。
別に文句とかを言っているわけじゃないし。
暗殺者にハマっていた時期もあったなぁ。
好奇心でああいうことを検索して、暗殺者っぽい戦術や技を学んだ。
あの時期がもうとっくに終わったというのが言うまでもないが、やはりまだ検索した情報をハッキリと覚えている。
前も言ったと思うが、子供のときから物覚えがかなりよかった。もしかして、俺が最初に取得した【頭脳明晰】というスキルのお陰で強化させたのかな。
妙なことに、俺の記憶力は前よりなんかこう、とある強さっていうかなんというかを感じられる?
言っていることがわかんない。
元々説明するのがかなり苦手な方だからしかたない。
しかし確実に、前に比べてよくなったな。
多分。
まあでも、別にいいや。
とりあえず、さっさと始めるとするか。
さっさと依頼を終わらせて、さっさとイマゼンに帰る。
帰ったら少なくとも3週間ほとの休みを取るかもしれない。
お金が問題にならなかったら、な。
【黒薔薇の刀】を抜き、息を整える。
すると前みたいに体内から魔力を引っ張り出し、全身を包むように動かした。
一瞬にして【瞬間移動】を発動する。
そしてその次の瞬間、俺はまた、山賊団のアジトにいた。
……これは虐殺の始まりだ。
「え?」
そのとき、間抜けな声が聞こえた。
声がした方向に目をやると、そこに立っているのは恐らく山賊団のメンバーであろう1人の男。
男は目を大きく見開いたまま、俺を見つめている。
喉に言葉が詰まっているように見えるが、それはほんの一瞬の事だった。
その次の瞬間、口を大きく開き、警告を声の限りに叫ぼうとしていた……が、遅かった。
相手が音を発できる前に【縮地】を使って距離を縮める。
目に見えないほどの素早さで動いたからこいつの目が捉えたのは恐らく、魔力で微かに青く輝いている俺の【黒薔薇の刀】の刃だけ。低い姿勢で懐に侵入し、逆手に持っている我が刀を喉元目掛けて左から右へと刀を水平に切り払う。
………即死だった。
崩れ落ちる前に俺は、死体を支えてそっと床に置いた。
これで敵にバレずに済む。
にしても本当に、運が悪い出会いだった。
なんとか俺の間違いを綺麗に片付けることが出来たけどな。
今みたいな間違いがもう二度と起こらないように、気をつけないとな。
そう、頭の中で言うと、息を吸って、吐き出す。
鮮血の臭いが鼻に入ってくる。
魔物と人間の血液は同じ匂いがするので、そんなに動じていなかった。それに人の命を奪ったということが分かっていても、やはり何も感じていない。
まあ、俺の目には山賊っていうのがもはや人間じゃないから多分、何も感じなかっただろ。
それを何回も繰り返すと、バクバクしている心臓が落ち着いて、とある冷静さを感じさせた。
血管を流れる血液が氷のように冷たく感じた。
これで、準備が整った。
この村を解放させるというのをもう決めたんだ。
そしてそれをできるのは、ゴブリンみたいなコイツらを殺さないといかない。
人の命に対して何も感じない、コイツらの殲滅。
まあ……
仕事は仕事だ。
さっさと終わらせよー
そう決めると、俺は動き出した。
言うまでもなく、ここにいる全員の山賊があの世の者になったまで、俺はアジトを出らなかったのだ。
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