山賊団の滅亡:サイド(9)
正直に言って、迷ってたんですよ。サイドでもあり、山賊団の滅亡編の続きでもある。次回は山賊団の滅亡編を終わらせようかな、と思いまして。内容は今の時点で全く何も考えていないのだけれどw
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【???の視点】
彼は突然、そこに現れたの。
黒ずくめの服装を身に纏っている男。
年齢はわたしと同じく18歳なのでしょ?
少なくとも、彼の見た目を見てわたしはそう判断したの。
「なんか、息苦しいなぁ、ここ」
そう、周りを見回しながら言う男。
しかし、わたしは聞こえた。
彼のその口調に潜んでいるほんのりした嫌悪感が。
わたしたちを見くびっている…というわけではないでしょ。
被害者はわたしたちであることを知っているに違いない。
ここに居たいという理由で居るわけない。
彼はきっと、それをもう知っている。
もう、何ヶ月も外に出ていない。
暗闇に閉ざされている日々が止まることなく続いていく。
それは、頭がおかしくなるでしょ。
一瞬にして、彼はわたしの幻覚に過ぎないとそんなことを確かに思っていた。
しかしどうやら、他のみんなも彼が見えるようだ。
幻覚でも幽霊でもなく、わたしたちみたいな血肉でできた……まあ、人間とは言えないが、そういう類の存在だということなの。
それにしても、なんで、彼はそもそもここにいるのか?
それにどうやって山賊の奴らを起こさずにここに来たのか?
頭の中で響き渡る、答えのない質問。
そしてわたしは思わず隣に座っている妹に視線を投げる。
彼女はただただ、ここにいるみなさんみたいに地下牢の真ん中に佇んでいる青年を見つめているだけ。
しかしその目に映っているのは、明らかな希望なの。
もしかして、わたしたちを解放してくれるのかしら。
なんの理由もなくここにいるわけがない。
ってことは……わたしたちは救われる?
そんな可能性を考えると、心臓の鼓動が激しくなる。
そして身体の中に、何かが湧いてくる。
………この人、本当に信用してもいいのか?
ふと、そんなことを思った。
しかしわたしの思考を他所に、聞き覚えのある声が聞こえた。
「だ…誰?」
向こうの檻に閉じ込められている、ナシという名の女性の声。
本当に、弱々しくて、今にでも居なくなりそうな声音が残響のように大きく耳に響いた。
もう、何日も何も食べずにわたしたちはここにいた。
普段、わたしたちが生きるくらいの量の食べ物を配ってくる。
と言っても、本当は食べ残しなんだけど、ないよりマシというのがわたしのお気に入りの格言。
弱く感じるのが当然のことわよ。
すると彼は、
「俺? 俺はBランクの冒険者である宮崎楓。あ、楓は名前だけど。お前らを助けに来た」
Bランクの冒険者。
ミヤザキ・カエデ。
助けに来た。
頭の中で、彼がそう言った情報が止まることなく繰り返された。
特に「助けに来た」という部分が、より大きく影響を与えた。
永遠に木霊する、その唯一のフレーズ。
受けた衝撃があまりにも大きすぎて、正直に言って今でも続いている会話を聞き流した。
さっき、何を言ったのかまるで全然わからない。
わたしが聞きたい質問だけが頭の中を支配していた。
「でも、私たち……どうやって脱出できるんですか?」
ふと、わたしはそうそれを口にした。
すると微笑みながら彼はこっちに視線を向ける。
深淵を覗き込んでいるかのような瞳がわたしを見据えている。
黒色の目に、目と同色の髪の毛。
手に持っている黒鋼の剣と今着ている黒ずくめの服装と相まって、本当に死神のように見える。
「それを俺に任せて。檻から解放したら【瞬間移動】という俺のスキルの1つを使って村長さんのところにみんなを移動させる。アジトに侵入したときも、ここに現れたときもどっちも【瞬間移動】を使っていたんだ。かなり信頼性の高いスキルだ」
そう彼が言うと、剣を納める。
そうした次の瞬間、手のひらを広げた。
一体その手で何をするの?
と、そんなことを言おうとした矢先に、眩しい光がその手のひらの中で生まれた。
眩しいけど、目を離させるほど眩しくなかった。
しばらく光り輝く、彼の手のひら。
するとやっと、その光が弱まった。
その代わりに、か細い金属みたいな物が手のひらにあった。
それで、何をするの?
そう、頭の中で自問する。
するとわたしの質問に答えるかのように、彼は自分の位置に1番近い檻に行って、鍵穴にそのか細い金属を入れる。
しばらく金属を動かすとやがてカシャリ、という音とともに、檻が開いた。
そしてそれを目撃したわたしは、やっと彼が何をやっているか、なんとなく理解していた。
【開錠】をしてくれている。
鍵の代わりにか細い金属を使用することができるということを前もって知っていたら、もうとっくにここから出ていったんでしょね。
妹の簪は金属でできているから。
彼が使っている物と違ってそんなに細くはないけれども。
妹の簪を使って出られたんでしょうかね?
それとも失敗に終わったのか?
どっちにせよ、彼のやっていることに気づいたわたしは、心の底から、感謝の気持ちを感じられた。
わたしたちは救われる。
ここから出られる。
……自由になれる。
いや、彼がここに来た瞬間、わたしたちはすでに自由だった。
そう、わたしは自覚した。
これが、わたしたちにとって第2人生の始まりだ。
未だ世界について何もわからない罪のない我が妹と、世界の困難を体験していたわたしたちのあらたな人生のはじまり。
この男のお陰で、この機会があるのよ。
必ず、この恩を返す。
例え世界の果てまで行くとしても、この恩を返す為にわたしたちはあなたについていく。
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