山賊団の滅亡(8)
「なんか息苦しいなぁ、ここ」
どこかで水の滴る音が響き渡る。
俺は周りを見回す。
壁に沿っていくつかの檻が並んでおり、その中にはボロボロの服装を着ている人は計10人いる。
【気配察知】で感じ取った人だろうな。
その人達は呆気に取られたか、何も言わずにじっと俺を見つめてくる。
なんかちょっと気まずいけど、その反応を想定していた。
もし俺がこの人達の立場に居たら同じ反応をしていに違いないから。
「だ……誰?」
誰かの声を聞いて、俺は振り向いた。
そこに檻の中に立っているのは、ガリガリな女性だった。
ボサボサの黒い髪の毛に、雪を思わせる肌。
何ヶ月もここに閉じ込められたか、今にでも気絶しそうに見える。
「俺? 俺はBランクの冒険者である宮崎楓。あ、楓は名前だけど。お前らを助けに来た」
そう、俺が言う。
するとその発言を聞いた人は、大きく目を見張いた。
さっきまで死んでいた目には篝火が灯されたかのように希望が映り出され、今にでも死んでしまいそうな人達までは反応を見せたのだ。
「今、助けに来たって言わなかったっけ?」
それを言ったのは、茶髪の男子。
見た目からして俺と同い年のように見えるが、違うかな?
栄養不足でだいぶ体重が減ったから、俺より年が上という可能性も充分にある。
「うん。そうだけど。イマゼンの冒険者ギルドでこの依頼を見つけててさ。で、これほっといたらヤバいじゃねぇ? って思って受けたんだ。昨日この村についた。村長さんと話してて計画を立てて、彼が山賊団のレーダーを捕まえることになり、俺が山賊団のアジトに侵入し、人質を救ってここにいる山賊団のメンバーを殺ることになった。で、ここまで至った…と」
そう、俺が説明すると、人質はさらに目を大きく見開いた。
「でも、私たち……どうやって脱出できるんですか?」
それを聞いたのは、金髪碧眼が特徴な、かなり可愛い女の子。
肌は青白くて、耳は人間のと違って尖っている。
エルフかな。
その隣に座っている、女の子と同じ外見をしている幼い少女もいた。
少女は恐らくお姉ちゃんであろうエルフを抱きしめながら俺を希望に満ちた視線で見つめている。
って、そういうものの、よく見たらここに揃っている人達全員は少女と同じ視線をこっちに向けている。
人気者になった、とは言えないが、もしかして俺がこの人達にとって救世主みたいな対象になったのかな?
下らない思考だけど。
「それを俺に任せて。檻から解放したら【瞬間移動】という俺のスキルの1つを使って村長さんのところにみんなを移動させる。アジトに侵入したときも、ここに現れたときもどっちも【瞬間移動】を使っていたんだ。かなり信頼性の高いスキルだ」
言うと、みんなは呑み込んでいる息を発して、やっと落ち着きを取り戻した。
さて、さっさと解放しようか。
なんか、前は言わなかったと思うからここで言おう。
【開錠】を取得してよかった。
地下にいるというものの、【黒薔薇の刀】で次々と錠を切り裂いて開けるのが聞こえたらヤバかったな。
【想像顕現】を使ってヘアピンを召喚する。
別に、針金の切れ端を召喚してもいいんだけど。
ぶっちゃけ、錠に入れるものだったら何でもあり。
少なくとも俺がそう思う。
こういうことをやるのがはじめてだから、もちろんその細かいことは知らない。
でも確かに映画とかで主に使用されているのはヘアピンだから、正直に言ってそれを元にして召喚したんだ。
するとそのヘアピンを使用して、錠を全部開けた。
檻から次々と出てくる人質。感謝で俺を抱きしめたり、または握手したりした者は多かった。
俺はその注目に対して苦笑をしながらただ返しただけ。
コミ障の俺にはハードルがかなり高い。
本当に異世界に来たら無くなったと思ったんだけど、そう簡単に無くすことじゃないよな、それ。
「さて、そろそろここから脱出しようか」
俺がそう言うと、体内に流れる魔力を呼び起こす。
これ、できるのかな?
俺はいつも【瞬間移動】を使う時は1人なんだ。
俺を含めて10人を【瞬間移動】で移動させるのが可能か不可能か、それがかなり不安なんだよな。
失敗したら俺だけでなく、この人たちにも及ぶのだろう。
まあ、失敗しなければそれはそれでいいんだけど。
で………でだ。
これ、どうやってできるんだ?
【瞬間移動】を使う時は魔力が全身を包むように動かす。
そうすると一気に集めた魔力をひり出し、スキルを発動する。
それは今までやってきた方法で、多分正しい方法でもある。
しかし、こんだけの人数でまだ使えるかどうか?
それが問題なんだ。
普通にまだ使えると思うが。
ほら、よくアニメで【瞬間移動】を使うキャラもやってるし。
しかし自分以外の人を移動させるには、普段手とかを繋いだりしているだろ。
それに普通に1人ずつに。
もしかして、あれか。
全員を包むように自分の魔力を動かせばどう?
そうしたら恐らく、普通に【瞬間移動】を例え大勢の人と一緒に居ても使えるんじゃねぇ?
とりあえずやってみるとするか
そう決めると、思い通りに魔力を全員を包むように動かす。
これで、フェーズ1クリア。
次は全身を包んでいる魔力をひり出すことと同時にスキルの発動。
それを上手く出来たらフェーズ2クリアだな。
ひとまず気を散らすことなく、集中しよう。
集中、集中、集中。
これが間違いなくとんでもない魔力量を消費しているだろ。
幸いなことに、俺の魔力量は9000。
充分だ。
そして、しばらく集中したら、何かを感じた。
妙な感じだ。
何かを無くしてしまったかのような、それでいて何かがはち切れたかのような、そんな感じだった。
準備ができた、という合図なのかな。
だったらスキルを発動するときは今だ。
そう、良心を固めると、【気配察知】を発動して村長さんの魔力を感じ取る。
心の目で、村長さんがとある家の外に立っている。
目の前にはパジャマ姿の中太りで背の低い中年男性がとても不満そうな顔をしながら村長さんを睨みつけている。
その後ろには男の2人がおり、中太りな中年男子の腕を抑えながら村長さんに質問を聞いているようだ。
もしかして、あいつが黒幕なのか?
随分と無様な格好をしているが、時刻は恐らく1時に迫っている頃だし、しかたない。
溜息をつき、後ろに視線を向ける。
そこに待ち焦がれる人質の10人。
その光景を見ると、思わず笑みを浮かべる。
これで、お前らは自由だ。
「行くよ」
そう、俺が警告すると、【瞬間移動】を発動する。
村長さんの魔力量にロックオンしているから、もちろんその移動先は村長さんの元だ。
─────
これ、10まで行けるかな。
ここまで読んでくださって誠にありがとうございます。
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