山賊団の滅亡(7)

「臭っ」


山賊団のアジトに侵入すると、はじめに鼻孔に入ってくるのは酷い臭さだった。

漂う悪臭を嗅ぎ付けると、思わず小声で不満を呟いた。

鼻にしわを寄せざるを得ない。それに、流石は山賊だけあって床にはゴミが沢山散らかされている。

衛生という言葉をご存知ないみたい。


とりあえず、周囲を確認しよう。

ひとまず漂っている悪臭を無視し、俺は周りを見回す。

部屋のあっちこっちには背の低いテーブルと岩壁に並んでいる本棚が幾つかがある。

本棚とはいえ、本の1冊すら見当たらない。

じゃあ、何のための本棚やねん?


代わりに、幾つかの物が入っている。

靴下とか紙屑とか割れた剣の柄とか、本当にろくでもない物が沢山入っていて、それはもう床に零れるほど多いのだ。

背の低いテーブルの上に、恐らくこの世界であろう酒類的なものが置いており、ところどころトランプみたいな物も見える。

暇つぶしでトランプをやるなんて、山賊っぽいなぁ。


他に言う甲斐があるモノを強いて言うなら、部屋の片隅にはベッドが2つあり、その上に山賊であろう人物の2人が寝ていることぐらいかな。


【気配察知】を使わずとも、【瞬間移動】を使う為にロックオンした奴らの2人なのだということがすでにわかっている。

すやすやと寝息を立てながら呑気に眠ている。

ってかお前ら扉の見張り番じゃなかったんか?

随分と余裕に仕事をサボってんなぁ。


それはそれとして、それでもここってかなり広いよな。

100人くらいを宿せるスペースだから、そりゃそうだわ。

俺の位置から、15m離れているのは恐らく他の山賊団のメンバーがいるであろう大きな穴が開いている。


確認する為に【気配察知】を発動する。

俺の近くにはさっきの2人の山賊の反応があり、目の前の穴から80人の反応がある。

そして下に、残りの10人の反応。

下に反応が?

………もしかして、人質なのかな。


体内に流れる魔力の活発からすると、全員起きているようだ。

もし、本当に人質のならば、恐らくこいつらが寝ている間に脱出しようとしているだろ。


【瞬間移動】を使えばすぐ村に戻れるかな。

いや、そりゃ無理だろ。


【気配察知】の気配察知と【瞬間移動】の移動範囲は1000m。

ここから村まで、そんなに離れていない。

恐らく400、500mかな。


村長さんは多分、ここからそれ以上離れているところにいるだろ。つまり【瞬間移動】を使ってすぐ村長さんのところに行けないってわけだ。


村なら行けるけど。しかしそれができるのは、門兵のところに【瞬間移動】を使って移動しないといけない。

そしてあいつらの係属を考えれば、多分、よくない選択なのかもしれない。


まさかここで、スキルポイントを使って【気配察知】の気配範囲と【瞬間移動】の移動範囲を広げるとはな。

ここは敵陣だよ?

でも、それはしかたない。

みんなが寝ているし。

素早くスキルポイントの割り振りをしようか。


そう言うと、久しぶりにステータス画面を開いた。


─────────────────

■カエデ レベル 112


■体力:650/650

■魔力:9000/9000


【100】STR(筋力)

【101】VIT(耐久力)

【110】AGI(敏捷度)

【100】DEX(器用度)

【125】INT(知力)

【30】LUK(幸運度)


ステータスポイント:2500

スキルポイント:1500


■職業:賢者、龍の末裔、冒険者

■ランク:ランクB

■称号:無し

■装備

頭【空欄】

体【魔術師のバトルセット《ローブ》《黒》】

右手【空欄】

左手【空欄】

足【魔術師のバトルセット《ズボン・革靴》《黒》】

武器【黒薔薇の刀】


装飾品【空欄】


■魔法

【表示する】


■スキル(34/∞)

・【魔術の心得】【頭脳明晰】【魔術分析】【魔術分解】【火魔法】【黒火魔法】【闇魔法】【雷魔法】【水魔法】【氷魔法 】【土魔法】【風魔法 】【光魔法】【時空魔法操作 】【付与魔法 】【超級剣術】【鑑定】【縮地】【錬金術】【賢者の権能】【超加速】【接近戦の達人】【超級格闘】【見切り】【柔軟性強化】【気配察知】【素早さUP】【敏捷性UP】【近接武器の達人】【創成者】【万能創成】【想像顕現】【書き直し】【盗賊の達人】【話術】【開錠】【掏摸】【隠密UP】【短刀の達人】【アイテム発見率UP】【忍び足】【全属性自在操作】【召喚魔法】【古代破壊魔法】【古代幻惑魔法】【古代召喚魔法】【魔力量UP】【瞬間移動】【傲慢の権能】【強欲の権能】【嫉妬の権能】【憤怒の権能】【色欲の権能】【暴食の権能】【怠惰の権能】

■所持アイテム

・世界地図

■所持金 ・5000000E

─────────────────


スキルポイントは1500個もある。

スキルを1回上げる為にスキルポイントの10個を使わないといけない。

スキルのMAXレベルは10までってことは、スキルポイントの100個が消費される。


しかしスキルの2つをMAXまで上げたいから計200ポイントを使う羽目になる。

1500から1300までスキルポイントが低下するか。

こんだけのスキルがあればマジで足りないと思うけど、スキルポイント。まあでも、それはそれでいい。

正直に言って、スキル欄に書き記されているスキルを全部使わないと思う。

絶対に使うやつだけにスキルポイントを割り振ればいい。

そして今の時点で使いたいスキルは【気配察知】と【瞬間移動】のみ。


【気配察知】の画面を開いた。


─────────────────

気配察知(Lv1)


半径1000m以内にいるモノを察知する。


≪≪レベルアップ可≫≫

レベルアップにはスキルポイントの10個が消費されます。


─────────────────


続いて【瞬間移動】の画面も開く。


─────────────────

瞬間移動(Lv1)


知覚圏内、又は半径1000にいるモノの位置に移動させる。



※半径で移動させるには、移動先のモノやコト、または自分の位置からどれくらい離れているメートルを知らないといけません。相当な魔力量も消費されます。



≪≪レベルアップ可≫≫

レベルアップにはスキルポイントの10個が消費されます。

─────────────────


【気配察知】のスキルに10ポイントを割り振って、そのレベルを1から10まであげたのだ。


これで大丈夫かな。


試しみに【気配察知】を発動する。

………やはり、気配範囲が広げられたんだ。

ここからでも村長さんの気配も感じられるようになった。


再び【気配察知】の記述画面を開く。



─────────────────

気配察知(LvMAX)


10マイル以内にいるモノを察知する。


≪≪超越可≫≫

スキルがMAXになると、【超越】が可能になる。

スキルを超越するには、20個のスキルポイントが必要となります。


─────────────────


10マイル以内にいる全ての生き物を察知することができるようになったみたい。

それに【超越】というのも可能か。

はじめてスキルをMAXまでレベルを上げたから、そういう機能が存在しているとは思わなかった。

あとでこの【超越】とやらについてもっと詳しく調べる。

今は依頼に集中しないといけないのだ。


ってことは、次は【瞬間移動】のレベルをMAXまであげようか。

そう決めると、【気配察知】と同じく【瞬間移動】のレベルを1から10まであげた。

その後にも【瞬間移動】の画面を開いて確認する。


─────────────────

瞬間移動(LvMAX)


瞬間移動のレベルをMAXにあげることによって条件が二つ追加されました。


■ どんな距離でも移動することができるようになった。

■マークすることが可能になった。

※場所をマークすることで、どれくらいの距離であろうがなんの国なかろうが、【瞬間移動】を使って移動することが可能になった。


≪≪超越可≫≫

スキルがMAXになると、【超越】が可能になる。

スキルを超越するには、20個のスキルポイントが必要となります。

─────────────────


これ、マジで強そうだな。

これからも結構役に立つと思う。

まあでも、それはそれとして。

これでやっとスキルポイントの割り振りを終えた。


次にやることは……まあ、正直に言って山賊全員を○りたいけど、その前にここにいる人質を脱出させたい。

考えれば、それが1番いい選択だ。

ここにいる人質を救って村長さんのとこまで【瞬間移動】を使って移動させて、ここに戻って依頼を終わらせる。

こんな流れでやればあっという間に依頼を果たすことができるだろ。


できると思うが、もしできないのならば、まあ、それもそれでいい。


とりあえずやってみるか。


そう決めると、【気配察知】を発動する。

近い未来に、増やされたこの距離察知範囲に慣れないといけない。

モノやコトにロックオンするのがかなり難しくなった。

それにもかかわらず、しばらく集中すれば、ロックオンがまだできる。


地下にいる恐らく人質であろう人物の1人の魔力にロックオンする。

そうすると、前みたいに体内から魔力を引っ張り出して全身を包むように動かした。

やはりこれもかなり難しくなったが、しかたない。

なんとなく全身を包むように動かしたら、息を整える。

そして、やはり全く前みたいにその場から姿を消して、次に目を開いたら地下にいた。




【???の視点】



「お姉ちゃん、ここからいつ出られる?」


言ったのは、幼い少女だった。

見た目を見ると、恐らく10歳だと思う人は沢山いるのだろ。

着ている服装はボロボロで、肌も汚れだらけなのだ。

それに、耳は人間のものではなく、よくファンタジーの小説に出てくるような、エルフの特徴な尖った耳だ。

その彼女は、強く隣にいる人に抱きしめられながら、寒さで震えている。


「もうすぐ。きっと、誰かが来るわよ。だからもう少しお姉ちゃんの為に頑張ってくれるのかしら?」


それを聞いた隣のお姉ちゃん──幼い少女のようにボロボロの服装を着ており、同じくエルフの特徴な尖った耳を持っている少女がそう言う。


そして幼い少女は頷いた。


「うん、頑張れる」


ここに連れ込まれてから、何ヶ月がもう経ったのだろ?

幼い少女を抱きしめているお姉ちゃんはそう思い馳せる。

親の介護から無理やり拉致されて、少女とその妹は奴隷として売られた。


言うまでもなく、奴隷としての生活は宜しいものではない。

仕事ばかり押しされ、なんの理由もないのに懲戒され……嫌なことにされることもあった。

何年間に渡って奴隷として働いていたら、幼い少女にお姉ちゃん呼ばわりされた少女は妹と一緒にあの家から脱出することにしたのだ。

元いたところはまるで領主が住むみたいな大きな場所だった。

門は1つしかなかったけど。

そしてその門を見張る門兵は2人いた。


幸いなことに、門兵の2人は凄く怠惰で、ろくでもないことをやる為によくどこかに行ってなんかの遊びをやる。

何年間も門兵の動きを観察してきた少女はそう気づいたのだ。

仕事をサボって何をやっているのかはもちろんそこまでは知らなかった。知りたいと思ったことはないのだれども。


だからある日、門兵の2人が消えたときに、少女は妹を連れて、あのところから脱出したのだ。


これで自由だ!!

と、確かに脱出した際に少女はそう思っていたが、彼女はまだ知らなかった。

これがただ、全ての始まりだ、ということを。


一文無しのまま脱出したから宿に泊まるお金はなく、食べ物を買うお金もなかった。

それに、自分はエルフだけど、魔法すら使うことができなかったんだ。

その為に戦いで主に弓矢を使用していたが、当然、あのところから脱出した際、着ている服装とその妹以外何も持参していない。それは食べ物も、武器も、普段この世界で必要とされているものを含めている。

途方に暮れ、少女は森をさまよっていた。


食べ物は見つけた山菜……だけとは言えない。

時々、運が良ければ木の実も見つけて食ったんだけど、2人分を用意するのがかなり難しかった。

それにしても彼女はガッカリともせず、前向きに妹と一緒に日々を送っていた。

妹の為に全力を尽くし、妹の為にその笑みを崩さずに生きていたんだ。

妹の愛さえあれば、わたしはOKという感じで。



しかしある日──

見つけた洞穴で日々の疲労から身を休みながら、あるものの匂いが鼻孔に侵入してきた。

その匂いは肉のものだ。

しかし肉だけではない。

焼けたパンも果物の特徴な匂いも、沢山の美味しそうな匂いが鼻孔に入ってきて、その奥深くを擽っていた。

少女はもう何日間も何も食わずに過ごしているから、最初は幻覚だと思っていたが、その匂いがやってくる方向に視線を投げれば、通り過ぎている荷馬車を見たのだ。


幻覚ではない。

本物だ。


そう、気づいた少女の腹はドラゴンを思わせるような咆哮を上げた。もう、この空腹に耐えられない。

なんかを食いたい。


そう、飢餓感に促され、少女は寝ている妹をほっといて、荷馬車を追うことにした。

自分には武器などはなかった。

その代わりにいいサイズの棒を拾った。


例え襲うことになるのだとしても、今感じているその猛烈な空腹感を抑える為にやらないといけないことなのだ。

だから静かに、少女は荷馬車を追ってその後ろにある物を全部盗むことにした。


しかし彼女はしらなかった。

それが罠だったということを。


2人のエルフ少女がその主から逃げたというニュースが山火事のように広がっていて、そしてそれを偶然と耳にしたブラッディ・スカルと呼ばれる山賊団であった。


最後に少女たちの姿が見かけられたのは森の付近。

そういう情報が入っていた。

そしてその情報を追い、山賊団が現在、女の子たちの状況を察して罠をかけた。




それは、唐突のことだった。

静かに荷馬車を追う少女。

しかし、突然に、痛みが後頭部を襲う。

反応するより早く、少女の身体が崩れ落ちる。

そしてその視界が真っ暗に染まる。


体を自由に動かすことができなくなり、言葉を発することもできなくなった少女だったが、それでも彼女は自分の状況を気にせず、ずっと妹のことを心配そうに思っていたのだ。

そのとき、少女は意識を失った。


そして次に目を開いたときに、妹と一緒に、とは言っても周りを見回せば他の女の人と、少ないけれども男の人と一緒に檻の中にいたのだ。


こうして、新たな地獄の始まりであった。

そして妹を護る日々の続き。

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