山賊団の滅亡(6)

「カエデさん? こんな時間に何が用なのかねぇ?」

「山賊団のメンバー、捕まえましたよ。まあ、全員ではないが……」


俺が言うと、後ろに立っている視線を山賊達に投げる村長。

山賊は動けない。

金縛りにかかっているから。

しかし口をまだ動かすことが出来る。

つまりまだ情報を教えられるってわけだ。


「詰問を頼む。俺は今からこいつらのアジトに向かってこの依頼を終わらせるから」

「ち…ちょっと! 何勝手に…」

「ん? 俺、詰問することができないし、2箇所に居られるわけでもない。商業ギルドのギルドマスターの逮捕と投獄を頼む」


そう言うと、踵を返す俺だが、また村長さんに引き止められた。


「アジトの場所は? あと商業ギルドのギルドマスターはなんの関係があるの?」


「まあ、アジトの正確な居場所は知らないが、恐らく水の近くにあるはず。どんな人間でも水を取らないと死ぬ。だから水源のある場所にあると思う。そしてここの唯一の水源は俺が知る限り村を取り巻く海だから、まあ、言ってることがわかるでしょ?恐らくあそこら辺にアジトがある。念の為に、アジトの居場所を聞き出してくれ」


とは言っても、【世界地図】を使えばすぐアジトの居場所がわかるよな?

あのとき、ロリババアの弟子がどこにいるのか知らなくて世界地図を開いたら【???】というのが表示された。

あっちに向かって裏路地についたんだ。

しばらく裏路地を歩くと、突然行き止まりにあった。

とは思っていたんだが、【気配察知】をすぐそうではないことに気づいた。


ここまで来たっていうことは、【世界地図】を開ければ恐らくあのときと同じように【???】が表示されるだろ?

そんなことを考慮すると、【世界地図】もとんでもないチートアイテムだとわかった。


まあ、どうせ仮に真実を教えても俺の言っていることを信じてくれないよねぇ〜

もう、別にいいけど。


「あと、商業ギルドのギルドマスターの話だけど、あいつが黒幕だ。こいつらがそう言ってくれたんだから。ただ、証拠がないと信じてくれないと思って、直接コイツらの口から聞いた方がいいかなぁって」


俺がそう説明すると、村長さんは頷いた。


「わかりました。では、ワシは門兵を呼びます……」


「あ! そういえば、言い忘れたことがあったんだ。村長さん」


「はい?」


「朝方に門を見張る門兵を呼んだほうがいいよ。今夜コイツらの到来を待ってると、ついたら門兵は問答無用で通してあげたんだから。多分、商業ギルドのギルドマスターによる指示だと思う」


「……ワシの門兵までか」


村長さんの額にしわが寄ってくる。

本当に、老人だな。

っていうのを実感していたときだ。


溜息をつき、顳顬を揉む村長さん。


「いろいろありがとうよ、カエデさん。心の底から感謝しております」

「いや、仕事ですから。では、俺はそろそろもう行くから後は任せたな」

「うん、よろしくお願いします」


そう言うと、俺は踵を返して、今回は歩き去った。



やはり。

【世界地図】を開いたら【???】というマークが表示された。あそこは恐らく山賊団のアジトだよな?

村長さんの家を去ってから既に5分が経って、時間は恐らく0:30に迫っているだろ。


そう言えば、確か次のクエストの目標は黒幕と対面することだったよな?


クエストの画面を開いて確認する。


─────────────────

目標

◆宿屋で情報を収集する

◆商業ギルドで情報を収集する

◆村長に報告する

◇黒幕と対面する

◇山賊団を殲滅する

クエストクリアの報酬:

・デーマン村の人口の中で評判を高める

・新たな仲間

・50000E


■隠れ目標

◆山賊団を逮捕して詰問する。【成功】

報酬:

・10000E


─────────────────


あれ、隠れ目標もある?

山賊団を逮捕して詰問する……か?

確かに逮捕したんだが、詰問は村長に任せた。

それでも【成功】とされている。

なんか、よくわかんないが、まあ別に良いでしょ。


で、見るところ、黒幕と対面する、という目標を飛ばして山賊団を殲滅する、という目標をやることになった。

もともとは順番通りに行こうかな、って決めたんだけど、結局しなかったんだ。

あるいは黒幕との対面を村長さんに任せてもまだ【クリア】とされるかな? そもそも報酬を貰うには目標を全部クリアしないといけないのか?

すぐ主要目的をクリアすることで報酬を全部貰える?

もしかして、貰わないのか?


考えなきゃいけないことが多すぎ。

頭がごっちゃごちゃになる。

とまぁ、そんなこんなで頭を悩ませると、【世界地図】を頼りにやっと【目的地】の【山賊団のアジト】についたのだ。


海辺から恐らく100m離れたところには妙な岩層がある。

その岩層は実は山に繋がる洞窟で、中に入ってしばらく歩くと、怪しい扉を奥深くに見つけた。


マジで隠れているような、ここ。

念の為に【気配察知】を使って人の気配を確認。


数十人が洞窟にいる。

8人捕まえて2人を殺してしまった。

今感じているのは90人の魔力量。

人質の数も考えなければならない。


つまりここにも、魔法を使えないってことか。

いや、使えるけど、魔法次第。


で、どうする?

普通に【透明化】を使えば敵を暗殺してもいい。

むしろ、余計なことを避ける為に一番いい選択だ。

しかし、念の為に、他にできることはあるのかな、まずそれを考えてみたい。

ほら、暗殺するのが時間かかるし、せっかく賢者になったから今回は魔法で終わらせるという欲望もあるしな。

とは言っても、やはり今回も魔法は無理そうだな。

しかたない。


さっさと終わりにするか。


見回すと、見張りらしき人物がいないみたい。

怠惰だな。

しかし扉を見張っているやつはいるでしょ?

つまり簡単に扉を開けて入ることが不可能。


ここでも【瞬間移動】を使わざるを得ない。

【瞬間移動】を使っていたらすぐ【透明化】を発動し、影に溶ける。扉のすぐ後ろに【気配察知】を使えば10人が待ち構えているようだが、妙なことに、その魔力の活発が緩いもんだ。

ってか別の部屋にも残りの80人の魔力も緩い。

もしかして、眠ているのかな? 今日は今日だからみんなが起きているかと思っていたが、違ったみたい。

恐らく出かけた10人が戻ると、眠ている10人の山賊を起こして入れ替わるって感じかな。


そんなことだったら、意外と簡単だ。

コイツらを暗殺するのが。

後はちゃんと狙っている相手が山賊団のメンバーを確認することだが、それ以外はお安い御用なのさ。


よし、行くとするか?


そう決めると、俺の相棒である【黒薔薇の刀】を鞘から抜く。

すると体内に流れる魔力にしばらく集中する。


このレベルの【瞬間移動】には制限が二つある。


ひとつは知覚圏内にモノやコトが存在しないといけない。もうひとつは移動先の対象がどれくらい自分の位置から離れているかハッキリとわからないといけないということなのだ。

幸いなことに、俺は【気配察知】を持っている。

【気配察知】を経て【瞬間移動】の制限は正直に言ってどうでもいい。人の魔力にロックオンすることは例え見えなくてもまだ可能なのだから。

あのとき、通りから村長さんの家まで【瞬間移動】を使って移動したのは、単に【気配察知】を使って村長さんは俺の位置からどれくらいメートル離れているか判ったからだ。


マジで便利だな、【気配察知】って。

悲しいことに、【気配察知】と【瞬間移動】の気配範囲と移動範囲は今の時点でたった1000mだけなのだ。つまり、ここから【イマゼン街】に【瞬間移動】を使って移動することが出来ないっていうわけ。

恐らくレベルを上げたら気配察知の察知範囲が広がるだろ。

今までやらなかった理由は、単に必要ないと思っていたが、別にMAXまでレベルを上げてもいいんだ、そろそろ。

ついでに【瞬間移動】のレベルも。

一応、その移動範囲を広げる為に。


あとでそうしよう。

今は、依頼を果たすことに集中しないとな。

体内から引っ張り出された魔力を、全身を包むように動かす。

すると【気配察知】を発動し、ターゲットにロックオンを定める。

そうすると目を閉じ、息を整える。


そして、次に目を開いたら、山賊団のアジトであろう場所にいたのだった。

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