山賊団の滅亡(5)

「誰お前? 俺様らの邪魔をする気か?」


言ったのは、大剣を持っている男。


「まあ、そんな感じかな」


男の質問に、何気なさそうに答える俺。

すると俺の返事を聞いて山賊団のメンバーばぶつぶつとなんかを呟き始める。


「何こいつ? バカにしてんのか?」

「俺たちのこと知らねぇみてぇだな」

「邪魔しに来たって言わなかったけ? 明らかに前もってわたしたちのこと知ってたでしょ?」

「どっちにせよ、アイツを分からせないといけねぇみたい。どうする? 殺す?」

「山賊だから殺すのが当たり前でしょ? まあ、素直で居られば別に、私たちの奴隷にしてもいいんだけどね」

「顔はタイプだしな」

「そうそう」

「お前らさ、もうアジトにああいう奴隷も沢山いるんじゃねぇ?」

「いや、いないよ? うざすぎてうっかりと殺しちゃったからわよ」

「マジでそれな」

「だよねぇ」

「チェ。どうでもいいだろ? ほら、あいつはまだ動いていない。運命を受け入れたようで。さっさと終わりにしよう」


結構俺の話で盛り上がっているみたい。

特に女子の方。

なんかちょっと、あれなんだけど。

気まずいっす。


「お喋りはもう終わりか? じゃあ、ちょっと提案があるんだけど………」

「お前の提案はどうでもいいんだ。さっさと失せろ。それとも、あれか? ヒーローごっこやってる? この村を救えるとでも思ってんの? ガキ1人で何ができるんだ? 後ろ腰のあれ、実は使えないだろうな 」

「…………」

人が話している時に口を出すな、っていうのが子供のときに教われていたかと思っていたが、違ったみたい。

「そう? 結構魅力的な提案だと思うが…」

とりあえず、やつの言葉を無視して語り続ける。

「どうでもいいって言ってんだろうが!」

そう怒鳴る男。

おっと。

気を悪くしてしまったみたい。


「あ、そう? だったら仕方ないな。出来れば、無駄な暴力は避けたかったが、分からせるために事例が必要みたい。残念ながら、少なくとも1人、死んでもらう人いるのかな」


そう、俺が言うと、山賊団のメンバーの10人が強ばった。

武器を取る為の動きはしなかったが、恐らく攻撃をしてもいいタイミングを計っていると思う。

なかなかいい作戦だけど、無駄っていう事実に変わりはない。


「静かになったようだ」


その沈黙を破ったのは、もちろん俺だった。


「これで提案を聞いてくれるかな?」


そう、付け足したが、やはり沈黙が出迎えられた。


「だったら言う。俺の提案は簡単なものなのだ。お前ら9人はアジトに戻り、1人は詰問の為についてきて欲しい。それだけ」


「そんなバカな提案に乗るわけねぇだろ、てめぇ」


ええええ? 意外だな。

脳細胞は少なくとも10個持っているようだ。

赤ん坊より……まあ、まだ少ないけど、理解はできるし、本心も読めることがわかった。


「わざと難しくしようとしてるな。まあいい。最初は気絶させようと思っていたんだが、俺を殺す気で来るなら俺も殺す気で攻撃する」

「脅かしかよ」

「脅かしなんかじゃねぇ。約束だ」


そう言うと、【黒薔薇の刀】の柄に手を当てる。

殺すか殺さないか、それが問題なんだ。

とは言っても、この人たちをもう救いようがないよな?


お金の誘惑に誘われ、自分は誰なのかとっくに忘れたようで。

もし、このままほっといていけば余計面倒くさくなるなぁ。

残念。

でもそれはしかたない。


息を整え、目を細める。

さて、誰が来るかな。


そう思った瞬間、動きが見えた。



はじめに動き出したのは、ダガーを持っている男だった。

俺の元へと駆け寄りつつ錆び付いたダガーを取り出す。


素早さに集中するようなタイプの人に見えるが、案外と遅い。


彼のその動きを見て、俺は反射的に後ろ腰から自分の武器である【黒薔薇の刀】を引き抜き、重心を低くして逆手に持つ。


男は距離を縮めて、素早く手にあるその錆び付いたダガーを振り翳し、勝鬨を上げながら振り下ろす。

俺はダガーの軌道を追い、黒薔薇の刀を上げて上手く男の振り下ろし斬撃を受け止めることに成功した。


その後まだ片手で刀を持っているまま、男の攻撃を制止しながら、もう片手で拳を作って男の腹目掛けてパンチを繰り出す。


男はそれを見たが、反応できなかった。

腹に一撃を食らった男は痛みで唾を吐きながら後ろへと吹き飛ばされ、かなりのフォースとともに固い地面に仰向けに倒されていた。


俺はそれを見ると、仰向けになっている男の元へと素早く駆け出す。


ここでとどめを刺す、という思考で行動したのだ。

【超加速】を使って風のように走り、恐らく1.5秒で距離を縮める。

すると憚らずに刀を持ち上げて、倒れている男の喉元目掛けてその刀を振り下ろす。



……が、



そこで、大剣を持っている男は目の前に現れる。

超加速を使って俺を追える人は少なくとも俺が知る限り今の時点でいないから、恐らく既に倒れている男に届ける距離範囲にいたと思う。

きっと相棒の命を終わらせるであろうこの一撃を阻止する為に、男は両手に持っている大剣を横に切り払う。

空気を切り裂き、かなりのスピードで迫ってくる。

それを見て俺は地面を蹴って跳躍し、空中でそのまま身体をくるっと前向きになって宙返りをする。着陸した瞬間、逆手に持っている【黒薔薇の刀】を手首を軽く動かすことによって順手に変え、そのまま80度に身体を回転させ、大剣の男の首元目掛けて水平に斬撃を繰り出す。

そして反応するより早く刀の刃が男の首筋を抉る。

刀に前もって魔力を流通して強化したからか、骨にすら邪魔されることなく、そのまま男の首が身体から断切された。


首が吹き飛んだ。


火山のように血液が溶岩の如く噴火し、コンクリートを紅の薔薇を連想させる赤色に染めていく。

全身を走る力を尽くした男は倒れ、地面に崩れ落ちる。

ころころと地面に転がる、断切された山賊の首。

その驚いているような表情を浮かんでいる、もうこの世にいない山賊の首なのだ。


それを見て、しかし意外と何も感じない俺。

どうしてだろ?

とは言っても、今はそんなどころじゃない。

人を殺さなきゃいけないっていうことを前もって知っていてこの依頼を受けたんだ。

今更後悔すれば将来に何の変化を齎さない。


そう考えると、溜息をつく。

すると血振りをし、まだ唖然と立ち竦んでいる残りの9人の山賊団のメンバーに視線を投げて話しかける。


「今のって警告だった。素直に俺に着いてきたら命だけは失わない」


そう、俺がちょうど喋り終えたら急に怒鳴り声を聞いた。


「巫山戯るな!! 俺は行かねぇ!絶対に行かねぇから、二度と」


それを言ったのは、錆び付いたダガーを持っていた男。

二度目の呼吸ができ、今は元気いっぱいに見える。

が、小刻みに身体が震えている。


怖がってるか?

俺が怖いのか?

死神でも見ているようなその目はなんだ?


色々な質問が脳内に浮かんでくるが、それらの質問を口に出さず、ただ順手に持っている刀を手首をずらして逆手に変えただけ。

冷や汗が瀧のように男の額から滴り落ちる。


動かないみたい。

まあでも、それはそれでいい。


「本当に、お前のその選択が賢明だと思っている?」

「賢明だろうがなかろうが、俺は二度とあのところに戻らない。それだけだ」

「……………なるほど」


はぁ〜

とまた溜息をつく俺。

刑務所じゃなく死に選んだか。

まあ、刑務所に送られることはしいていうなら大体死みたいなもんだ。

どっちにせよ、こいつの人生はここで終わる。


錆び付いたダガーを手に、男は突進してくる。

喉元を狙っているみたい。

そんな弱い攻撃、絶対こっちに届かないものなのだ。

男もそれを知っているに違いない。

それでも攻撃を続けていた。

距離をある範囲に縮めたらダガーを突き出し飛び込んでくる。


首を傾げて余裕に男の突き攻撃を躱す。と同時に左手に持っている刀を斜めに上げて、男の胸を切りつける。


「……があ!」


と、男は変な声を出したがそれを気にせず、攻撃を続ける。

空中で斜めに上げられている【黒薔薇の刀】を、そのまま手首を軽く動かして順手に変えると、左側へと水平に刀を、喉元目掛けて切り払う。


浅く、俺の刀の刃が男の首筋を抉った。

それも男を殺す為の、充分な傷跡だ。そのままほっといていけばいずれ自分の血液で窒息死する。

そんな愚かな攻撃をしてきたから、こうなったのだ。


……静まり返った、闇の影に覆われる通り。

俺はまた溜息をすると、死んでいる男の死体からまだ生きている山賊の残りの8人に視線を戻す。

顔は恐怖に歪んでいる。

まるで身を守れる人に出くわしたことがないような、そんな表情をしているのだ。


まあ、実際はそうかもしれないが。

確かこいつらが主に狙っていたのは無防備の、冒険者すらじゃない人だろ。あと護衛を雇わなかった商人とかも。

要は弱い人。


「さて。他に抗うやつらはいるか?」


と、俺が聞いたが、沈黙が続くばかりだ。

いないようだ。

それは別にいいんだが、これからどうするかな?


まあ、こんだけの人数が集まっていたから、商業ギルドのギルドマスターに対する充分な証拠を手に入れたってわけだ。

全員村長さんの家に連れていくか。

まあでも、その前に絶対逃げられないようにした方がいいだろ。とりあえず【金縛り】っていう魔法を使って身体の機能を止めさせ、【想像顕現】で紐を召喚して四肢を縛っていこう。

それを終えたら移動しやすくなる為にこんあいだ覚えた【瞬間移動】を使おう。

どうやら【瞬間移動】にいろいろな拘りがあるが、それはまだそのスキルのレベルが1だから。

あとでスキルポイントを使ってMAXまでレベルを上げるが、いまは目標に集中すべきだ。


そう決めると、俺は村長さんの家に連れていく為の準備を開始するのだ。


─────────────────

目標

◆宿屋で情報を収集する

◆商業ギルドで情報を収集する

◇村長に報告する

◇黒幕と対面する

◇山賊団を殲滅する

クエストクリアの報酬:

・デーマン村の人口の中で評判を高める

・新たな仲間

・50000E


■隠れ目標

◆山賊団を逮捕して詰問する。【成功】

報酬:

・10000E


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