山賊団の滅亡(4)
時刻は23:58。
夜空に浮かぶ月とそれを取り巻く星の光以外、村並みは深く闇に潜んでいる。
風が強く吹いている。
その為なのか、波が勢いとともに海辺に衝突する音がした。
今でも、嵐が来そうな兆しが見える。
でもどうしても不自然に感じた。
それはそうと、もうそろそろかな。
時計とかがないが、あと2分が残っているだろ。
月が差している淡い光の位置からしてそれがわかったのだ。
正確な時間じゃないと思うけど。
村を取り巻く門に近い裏路地で。
影に身を潜めて、俺は門と門兵の動きを監視している。
門兵の動きは……明らかに怪しい。
なんの理由もないはずなのに、そわそわしている様に見える。
それでいて、どこからかとある落ち着き感が伝わってくる。
自分の行動に対して罪悪感をまるで感じない、そんなような落ち着き感が伝わったのだ。
どうやらアズサスさんはそいつらと違っているらしい。
むしろ、仲間だと思い込んでいたそいつらの輪から省かれていたと俺は個人的に思う。お金の誘惑に揺さぶらなく、忠実に門兵としての仕事を果たしていた。
またはそもそもまだアプローチされていないかもしれない。
どっちにせよあいつはこっちの味方だとそんな事がわかった。
集まった門兵に目を通す。
妙なことに、アズサスさんの姿が見えなかった。
でも多分、あれだろうな。
朝当番だと思う。
村に着いた頃は朝だったし。
多分、それだと思う。
が、まあ、それは別に今さ、どうでもいいと思うが。
今の状況でな。
さて、敵は……
【気配察知】を発動してすぐ、反応があった。
門にアプローチしている10人の気配を感じたのだ。
距離的には、後5……いや、2分で着くだろう。
感じられる魔力は少ないけど。
多分、そんなに強くはないかな。
と言ってもな、しかし魔力量だけで人の力が判断できない。
圧倒的な魔力量に恵まれた者がいるみたいに、魔法に全然関係のない接近戦に優れている者もいる。
そして今感じている気配からして全員が接近戦を好むみたい。
にしても、Eランクの冒険者すら越えない魔力量か。
接近戦を好む連中とはいえ、【身体強化魔法】を使えるぐらいの魔力量を持てばいいと思う。
念の為にさ。
でも要るか要らないかと聞かれたら多分…要らないよな?
自然の身体能力が高くなければ要るけど。
まあ、と言ってもそれは相手次第なのだ。
溜息をつき、月が差している光の位置を見て時刻を確認する。
0:00。
続いて【気配察知】を発動して敵の位置も確認。
…あ。来たか。
◇
門に潜る10人の山賊。
女は5人、男は5人。
思っていた通り門兵は何も言わずに、山賊を問題なく門を通させたのだ。
正直に言って、計画は考えていない。
意外と数が少ないんだ。
もし一人がいなくなったらすぐ怪しくなるだろ。
とは言ってもさ。
相手は山賊だ。
山賊だから大したことは思わない可能性もある。
それでも、怠らずに行動すべきだ。
さて、情報収集だな。
見るからに、全員が弱そうに見える。
いや、言い換えよう。
全員の身体能力はそんなに高くなさそうに見える。
低い魔力量と相まって、尚更だ。冒険者ランクを指定すればFランク…いや、Eランクの冒険者が一番相応しいだろ。使用する武器は…まあ10人がいるから武器は10種類がある。
3人は鉄のダガーを、5人は定型的な短刀を、1人は大剣に、もう1人は特大剣を持っている。
鎧は俺が今まで見たことの無い革鎧なのだ。
恐らくブラッディ・スカル団特徴のやつ。
堂々とそれを村中に着用するなんて、相当度胸がある奴らだな。
バカである可能性も充分にあるけど。
いや、バカだろ。
どう考えても。
まあでも、それはそれとして。
俺はさぁ、どうすればいいのかな。
10人は山賊いる。
商業ギルドのギルドマスターが黒幕だと証するには最低1人を逮捕して詰問しなきゃいけないのだ。
でも、それをどうやってできるっていう話なのだ。
この人数だと1人を逮捕するのが無理そうだけど。
それに村中で暴れまくらせるのもよくない。
この場合だと、やっぱ暴力に訴えることしかできないよな。
頭脳戦を行うのもいいんだけど、頭脳戦より暴力でこの問題を解決するのが一番効果的だと思う。相手は山賊だし、言葉を使って戦っても多分理解しないから?
そんだけの脳細胞のない奴らなのだ。
だったらひとつ、できることはある。
それは、1人を残して9人の山賊を気絶させること。
タイミングもちゃんと見計らないとな。
村中の、商業ギルドのギルドマスターが見ているところでやるのが将来的にいえばよくない。
捕まえるのが面倒くさくなるから。
どこかの裏路地で、とかがいい。
確かにそれが一番理想的だけど、人生で上手くいくときと上手くいかないときがある。
それに長く待っていればこの依頼に成功する確率が激減する。
要はこの依頼を果たしたいのならば、今夜でやらなきゃいけないってことなのだ。
正直に言って、情報がかなり足りないと思う。
もっとスマートな感じで依頼を果たす方法はきっとあった。
しかし時間制限があるから深く考えずに本能のままに動いた。
もし今日あいつらが来なかったらちゃんと準備はできただろ。
まあでも、それはしかたない。
この依頼を達してさっさと帰る。
そう、獲物を静かに影でついていきながら、俺は決めたのだ。
◇
夜の闇がまるで永遠に続いているようだ。
ブラッディ・スカル団のメンバーが村に来てからすでに10分が経った。
今のところ、市場区にある幾つかの屋台で見つけたなけなしの食料品を盗んでいただけ。
食料品を茶色いボロボロの袋に仕舞い、何気ないようにお互いに話しながら歩き続ける。
通りを歩いているのは、奴らのみ。
みんながもうブラッディ・スカルの到来を予期していたか、各々の家に逃げ込んで鍵をぎっしりとかかったのだ。
恐らくドアを叩いても、声を掛けても、村長さんもしくは商業ギルドのギルドマスターじゃなければ反応しない。
それは、この村で一番尊敬されている人物の2人だから。
問題点は動じることなく、10人のブラッディ・スカルのメンバーが通りを歩いていたことなのだ。
まるで、この反応をもう予想していたみたい。
幸いなことに、かなりいい距離からグループを尾行している。
言っていることがハッキリと聞こえるのだ。
「ここマージでなんもねェんだ。そろそろ本番に入ろうよ!」
言ったのは、1人の山賊団の女。
口の利き方や態度、仕草まではあまりにも男らしくて驚いた。
残念。
見た目はかなり可愛かったな。
もし山賊じゃなかったら異性でモテたんだろ。
まあ、山賊団に関わりのない異性の人がな。
そしてまるで俺の言っていることを本当だと証明するみたいさっきから女に意味有りげな視線を送っていた奴が口を開いた。
「確かに。他の奴らが来るまで終わらせないとな。しかしさ、この村にもうなんもなんかねぇ? そろそろ移住すればいいんじゃん」
男の言葉に、ダガーを持っている1人の山賊女が言う。
「ボスはまだ何も言ってないけど」
今回は短刀を持っている女が自分の意見を付け足す。
「商業ギルドを運営してるし、忙しすぎて忘れたかもしれん」
図星だ。
金を持つ者に権力あり、か。
まさしく、それなんだような。
黒幕は商業ギルドのギルドマスター。
村長さんに教えば多分、信じられないだろ。
さっきの計画、そろそろ開始しようか。
「まあいいさ。さっさと本番に入ろうか。今夜運が良ければ女がいる家庭に出くわすかも」
そう、バカのような笑みを浮かべて言う男の1人。
それを聞いて、俺は溜息をついた。
うん、開始時間は今なのだ。
【気配察知】を発動しながら周りを見回す。
やはり誰もいない。
よかった。
出来れば、ターゲットの10人以外誰も傷つけたくもないし、この問題に巻き込みたくもない。
深く息を吐き捨てると、影から身を現わす。
俺の気配にまだ気づいていないみたい。
まあ、そりゃそうだな。
知る限り、【気配察知】というスキルを持っているのは俺とロリババアのみ。
ポケットに両手を仕舞い、とりあえず挨拶をしよう。
「よう」
そう、思っていたより随分とつまらなさそうに俺が言う。
すると俺の声を聞き、10人のブラッディ・スカル団のメンバーが立ち止まり、一向にこっちに振り向いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます