山賊団の滅亡(2)

商業ギルドに来た。

イマゼンの冒険者ギルドと比べると、そのサイズは比較的小さいが、木材でしっかりと慎ましく造り上げられて壮大な感じがする。

中に入る。

人の数は少なかった。


見えるのは受付嬢の2人と、恐らく商業ギルドに登録している商人の5人だ。


他の人を気に払わず、俺はカウンターに向かう。

ちゃんと仕事をしている「何らかの書き物」女子の邪魔にならないように、ボッーとしていた受付嬢──俺と同い年のように見える女子の元に寄る。


随分と退屈しそうに見えるな。

あまり人が居ないからやることがないだろうね。

それとも今日分の仕事をもう終わらせたのかな。


「ゴホン」

とりあえず、咳払いをして注目を引いてみる。

すると受付嬢はそれを聞いて驚いているような顔で、カウンターから両肘を上げて、まっすぐに立ち直す。


「あ、お客さんですか?」

鈴のような声が商業ギルド内に鳴り響いた。

5人の商人達はこっちを見ながら何かくだらいないことを呟いている様に見えるが、たぶん俺に関係のないことだから無視することにした。


「まあ、お客さんではないが……」

ポケットに手を入れ、その中からギルドカードを取り出して受付嬢に見せる。

困惑しそうな顔をしながら目の前に差し出されているカードを見ると、大きく目を見開いた。


「Bランクの冒険者、ミヤザキ・カエデ?」

「名前はカエデですけど。家の名前はミヤザキ」

「なるほど。イーセンの生まれですね。私たちはよくイーセンと貿易してます」

そうか?

じゃあやっぱ海を渡ればイーセンがあるよな。

心に留めておこう。


「で、なんで冒険者さんがここに居ます?」


ここって商業ギルドじゃなくて村のことだな。


「村長さんがイマゼンの冒険者ギルドに出した山賊団の殲滅という依頼を受けました。ちょっとなんかをやる前に情報を集めようかなって思いまして」


そう、俺が説明すると、しかし受付嬢がよくわからないと言わんばかりの表情が変わらなかった。


「でもなんで商業ギルドですか?」


あ、商業ギルドのことだった。


「それはもちろん、情報収集の為に来ましたね。イマゼンの【商業ギルド】で集められる情報の豊かさは半端ない。ここも同じかなぁって思いました」


ちなみにこれは嘘です。

いや、本当かもしれない。

イマゼンの商業ギルドに行ったことないから。

そもそもあるかどうかは知らんけど。


「そうですか?」


疑わしい顔で俺を見つめている女子。

しかし女子の質問に、俺は頷いただけ。

すると女子は溜息をついた。


「まあ、イマゼンの商業ギルドに敵わないと思いますけど、ブラッディ・スカルの情報ならあります。そんなに役に立たないと思うが、ついてきてください」

「それは助かります」

「おい、マリィ。受付はしばらくあんた一人に任せるわ」

と、女子はもう一人の受付嬢に声をかけると、マリィと呼ばれた受付嬢は書類から目を離すことなく頷いた。



商業ギルドの空き部屋に連れられて、受付嬢と2人きりになった。


「お茶でも飲みます?」

「いや、いいです。質問は片手で数えられるほど少ないですから」

「そう? まあ、別にいいけど」


そういうやり取りを交わす俺たち。

俺はソファに腰をかけて、

女子は向こうのソファに腰をかける。


「ちなみにわたしはリサと申します、カエデさん」

「ああ。よろしく頼む」


随分とそっけない自己紹介だな。

まあでも、そんなわけでここに来たわけじゃないし、さっそく始めようか。


と言っても、何から始めればいいのか。

おじさんからいろいろ聞いたんだけど、おじさんでも答えられなかった質問も一つや二つはあったね。

とりあえずこの子に聞いてみよう。


「で、さっそくですが、このブラッディ・スカルっていう山賊団のメンバーの数知ってます?」


多分、知らないと思うが、ワンチャンあるっちゃあるな。

すると受付嬢は少し考えると、言う。


「正確な数は知らないが、50人もしくはそれ以上がいると思います」

50人?

「なんで知ってるの?」

と、俺が聞くと、受付嬢は答える。

「いや、知らないんですが?」

……まじ?

いや、言い方が悪かったかもしれない。


「すいません。言い換えます。どうして、50人くらいがいるか知ってます?」


そう言い換えると、受付嬢は「お! そういうことか」と、言わんばかりの表情を浮かべる。

やはり悪かったな。


「実は、わたしの彼氏っていうか、当時彼氏だった人が言ったからですよ。ブラッディ・スカルはあのときそんな大きな集団ではなかった為、メンバーを募集すると言い付けられました。で、あいつはわたしを募集しようとしていたが、もちろん嫌で断りました。言うまでもないが、あの日にも私たちは別れたんです」

「それ、何ヶ月前のこと?」

「うぬぬぬぬ。多分、4ヶ月か5ヶ月前に。だと思います。すいません、記憶が曖昧で」

つまり山賊団が結成されてからもう2ヶ月が経ったってわけかな。

「いや、全然大丈夫です」


なるほど。50人以上か?

4ヶ月か5ヶ月前に結成されたってことは、大分メンバーが増えたってことだよな?

それはちょっとあれなんだけど。

かなりしんどいね。


「他に質問とかあります?」


彼女はバツが悪そうに問いかけてくる。

あ、やべえ。

考え事に耽っていたら黙っちゃった。


「すいません。質問はあともう一つありますね」

「はい」

「では、ここに来る前に他の人から聞いてましたが、ブラッディ・スカルのメンバーは毎週必需品を盗む為に村に来る。何人が来るか知らないが、よかったらそれについて役に立つ情報があります?」

「それは必需品次第じゃないですか?」


必需品次第?

そうなのかな。


必需品。それは俗に言うと衣食住。

どんだけ脳細胞のない山賊とはいえ、確実にアジトがあるから住むところをもう確保しているだろ。

つまり、衣類と食品を盗む為に村に来ているってわけ。


人間は最低限が30日間で、最大限が40日間で食べ物を取らずに生きられる。

ちなみに水を取らないと3、4日間で死ぬ。

勿論、ネットからの情報だ。

それを考慮すると、アジトは確実に水に近い所にあるだろ。

そして毎週村を襲うってことを考えると、割と村に近いか。


つまり、結構の数のメンバーが毎週村に来るっていうことだ。

この4ヶ月か5ヶ月かの間にメンバーが確実に増えたんだ。

受付嬢曰く前は50人だったけど、結成されてから2ヶ月が経った。今の数は多分100人に近いと思う。

つまり、多分あれだよな。


実は山賊団のメンバー全員が毎週必需品を盗む為に村に来る。

100人の為に充分な食料と衣類を集めるのが無理だ。

もし、村に来る山賊団のメンバーが少なかったら、な。

俺に言わせれば、異なる間隔で必要な物を盗んで別のグループに交代するという形でやっていると思う。

そして一夜に終わらせるということを鑑みると多分、5、もしくは10人が毎回来ると思う。


そうか。

そういうことなのだ。

もちろん、この村の唯一の出入口は北の門だからそこから入っている。そして商業ギルドのギルドマスターから門兵が賄賂を取っているから罰を受けずに。


「君って見かけによらずもしかして天才なの?」

そう、俺が思わず言うと、受付嬢は不機嫌そうに顔を歪める。

「はあ? いまのって何?」

あぁ。こりゃやっちゃったな。

とりあえずなんかして誤魔化そう。


「いやぁ、こっちの話ですよ。リサさんのお陰でやっと知りたいことを知るようになったわ〜 は、は、は」

そう苦笑しながら言う俺。

リサはまだ信じなさそうな顔をしながらめっちゃ俺を睨みつけているが……


「まあ、これで充分な情報を集めましたね…ありがとうございます」


そう、ソファから立ち上がると、頭を下げて礼を言う俺。


あとは山賊団のメンバーの一人や二人を捕まえて詰問して、商業ギルドのギルドマスターが黒幕だという証拠を手に入れて逮捕して山賊団のアジトへ向かって依頼を完成させるだけだ。


なかなか大変だな、この依頼。

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