到着、そして……

朝起きて軽い朝食を取ったあと、二階建ての家を逆召喚して目的地へと歩き出す。


俺は静かに山の道を歩いている。

周りは暗いので、〈光〉を使って照らしている。

見渡す限り、ここには危険そうな魔物がいないみたい。

しかし地下に潜っている可能性を考えてガードを緩むことなく俺は進んでいく。


それにしても、ここは広いな。

山の中を歩いていることを考えると不思議な感覚に襲われる。

こんなこと、俺の人生で絶対やらないと思っていた。


違ったみたいだ。


まあでも、それは普通に思うでしょ。

異世界に転移することも、漫画やアニメで見かける能力を使えるようになることも、絶対にできないと思っていた。

なんという、気持ちになった。

まあ、どうでもいいけどな。


しばらく山の道を進むとなんとなく魔物に出くわさずに山の反対側に出る。

遠くに青い海が広がっている。

でも、ここから見えるからと言って近いとは限らないんだよな。

見えるけど、遠い。

海を渡れば何があるだろ。


羅針盤があればなぁ。

とは言っても、【想像顕現】を使えば簡単に召喚できるが。

羅針盤を使って方角がざっとわかる。

記憶が正しければ日本みたいな国がこの世界にもあったなぁ。

日本人としていずれ訪れたい!

という気持ちは流石にある。

まあ、そりゃ多分、将来の話なんだけどな。


山の道を抜いて、今からどこへ向えばいいのかわからずに、とりあえず【世界地図】を使って居場所を確認することにした。

世界地図を開いた。

現在地は目的地から2時間程離れているみたい。


馬車があれば一応、その時間は半減される……。

……とはいえ、【超加速】も【縮地】も同じ結果を生み出すと思うが、逆に村長さんが今すぐ出発してほしいと言われたらオワオワリだな。

魔力量は9000もあるけど。


魔力消費量を考えれば、【超加速】より【縮地】の方がよほど軽い。

【超加速】は魔力量がある限り使い続けるという有利性がある。

逆に【縮地】を一気に使うことしかできない。


ふむ。


俺的には、魔力量は9000で充分だ。

それにあれだ。

あのとき10分で魔力量が全回復したな。

つまり、どんどん使えば損はしないってことだ。

そう考えると、やはり【超加速】の方がいいかも。


空に浮かんでいる太陽の位置を見る。

見るところ、10時になろうとしてることがわかった。

まだ時間がたっぷりあるってわけだ。

10時ってこと………ふむ。

恐らく11時に着くだろ?

多分。わかんないけど、加速を重視しているスキルだし、なんでもありって感じが強い。

ここから北へ道なりに進めば到着する。

エレンは村の名前を教えてくれなかったが、ちゃんと依頼紙に書いてあるから助かった。

と、そんなことを考えると【超加速】を使って移動し始める。



そして11時になった。


俺はやっと村に着いた。

村の近くまでやってくると潮風が吹いてくる。

海まで来たと感じられる。

と言っても日本じゃ、海に行ったことないんだけどな。

ゲームの中だったら行ったんだけど。

例えばスカイリムとかWSとかFF14とか、そういったゲームの中でちゃんと海に行った。

俺に言わせれば、もう経験済みだ──(ノーカウント)


村に近づくと門兵が立っている。


「止まれ。村に入るにはギルドカードを見せなさい」


そう言ってくる。

インベントリーに仕舞っているギルドカードを取り出し、門兵に見せる。

書き込まれている情報を見て、門兵は驚いたような顔をしていた。


「Bランクの冒険者、ミヤザキ・カエデ。現在の依頼、デーマン村付近の山賊団の殲滅! あ、すいません、冒険者さま。貴方がこんなに早く来るとは思いませんでした」


はぁ?

冒険者さま?

急に何言ってるんだ、この人?


「えっと、これからどうしますか?」


そう、門兵は問いかけてくる。


「これからは村長さんに会う予定だ。もしよかったら村長さんの家まで案内してくれないか?」

「喜んで」


そう言って村の中に通してくれた。



村の中に入ってしばらく歩くが活気が無いことに気づいた。

人通りが少ないのだ。

大きな広場に行っても人の数が少ない。

これはこれは、どうなってんだろうな。

……と言っても、恐らくだけど山賊団のせいでこうなったと思う。

キョロキョロしている俺を見て、門兵は話しかける。


「本来なら、ここには屋台が沢山出ているんだけどな。市場区だし、そりゃそうだろ」


そう、寂しそうに語り出す。


「しかし、ブラッディ・スカルのせいでこの村の人たちが生きる意志を失ってしまった」


ブラッディ・スカルって山賊団のことか。

日本語訳すると、血みどろな髑髏。

それを聞いて、確かに俺の中二病面が喚起されたけど、ここはそんなどころじゃないと念を押して真剣に門兵の話を聞き続ける。


「あいつらが俺らから食料品、お金、男、女、実際に手に入れられるモノを奪って、気に障る人を好き放題に殺す、本当にろくでもない連中だ。早めに退治すればよかったかもしれないが、ここは貿易で生計を立てる小さな村だ。もちろん、冒険者とかここにはいないし、貿易で稼ぐお金も無限ではない。村長さんは頑張ってお金を貯めて、ギルドに依頼を出した。誰か来ることを祈りながら待っていた。そして希望を失い始めるところに、貴方さまが来てくれたんだ。本当に、ありがとうございます」


そう、礼を言う門兵。

そうか。事情が大体わかった。

やっぱ、この依頼にしてよかったな。

これ、あと何ヶ月も続いていたら、この村はここにはもうないだろ。



しばらく歩くと、やっと1軒の家の前に立ち止まる。

「村長さんの家だ」

そう、隣にいる門兵が言うと、家の扉に近づき、ガンガンと叩いた。

「村長さん、僕です。冒険者さまが来ておりました」


だからなんで「さま」つけるの?

と、そんなことを考えるが、口に出さなかった。

数秒待つと、扉が開いて60代の男が出てきた。


「あ、アズサスくん。冒険者が来たって本当かい?」

「はい。こちらはBランクの冒険者ミヤザキ・カエデです」

そう、俺に派手に手のひらを向けて門兵が言う。

村長は俺を見つめる。


「随分と若く見えるが、Bランクの冒険者だったら実力があるってことがわかった。どうぞ、中に入って。アズサスくんも」


そう言うと、踵を返し、中に入る俺たち三人。


「お茶淹れます」

「いや、俺は大丈夫です」

「僕も大丈夫です」

「そうか? まあいいけど」


台所に向かっていた村長は足取りをやめ、俺らをしばらく見つめてから頷いた。

するとまた踵を返し、ソファに腰をかけると深く溜息をする。


しばしの沈黙の後、村長は語り出す。


「カエデくんですね。まずは来てくださった貴方にお礼を言わないとな。ありがとうございます」


そう、深く頭を下げると、礼を言ってくる村長。


「いえいえ。この依頼を受けることにしたのは僕ですし、お礼なんて要りません。それで、アズサスさんからもいろいろこの村について聞いてました。本当に、大変なことにりましたね」


「そうですね。依頼を出したのは2週間前。こんなに早く冒険者が受けるとは思いませんでした。それは本当に感謝しております」


大丈夫ですって。


そう思うが、言わないことにした。


「さてと……」


と、そこで村長さんは真剣な顔をする。


「本番に入りますが、カエデ。お前さんに頼みたいことがあります。どうか、この村を救ってください。あの山賊団、ブラッディ・スカルとやらは本当に大問題になりました」


「うん、アズサスさんから聞いてました。誘拐、盗難、暴力など、とりあえずいろんないけないことをやっていて村を滅びかける状態に追い詰めました。よくわからないことは、どうやってそんなことができたんだろ」


「んん? どうゆうことですか?」


村長はそう問いかけてくる。


「いや、なんかちょっとおかしいと思いますが、このブラッディ・スカルとやらは、こんなに沢山の人に知られているというのに、罰とかを受けることもなく自由に村中を歩いているっていうのはどうゆうこと? 普通に見かけたら逮捕、もしくは死刑を執行するでしょうね?」


「一応、門兵達に怪しい人を見かけたら逮捕するって言っておいたが……今考えれば一度も目撃情報が入っていないな」


おかしいだろ、それ。

門兵は結構いるのに、誰しも怪しい人が村を出入りするところを見かけていない?

考えるまでもなく、何かが起こっている。


「あくまで俺の意見だが、恐らく誰かが影から糸を引いていると思います」


そう、俺が言うと、村長さんは目を細める。


「黒幕がいる、ってことですか?」


問いかけてくる。

それに俺は頷いて答える。


「あぁ、そういうことですよ」


「でもその権力を持っている人は村長さんしかいないですよね?」


言ったのは、今まで黙り込んでいたアズサスだ。

それに村長さんの目はさらに細められる。


「わしがそんなことを許すとでも思っているかい、アズサスくん?」

「いやいや! そんなことは全然思っていないです! 本当に!」


焦り出すアズサス。


「じゃあ、何を言っている? はっきり言いなさい」

「そんな権力を持っている………少なくとも自分がそう思っているのは村長さんだけ!ですよ。別に、村長さんが黒幕なんて一切思ってません」


そこで、俺は話に割り込んだ。


「確かに、そんな権力を持っているのは村長さんだけですね。門兵の長ですから、刑務所に送るか送らないか村長さんが決めることです。しかし……人間は簡単にお金の誘惑に負ける生き物です。充分なお金を持っているのならばそれは、村長さんすら凌駕する権力を持っているのに相当していると言っても過言ではないでしょうね。金は天下の回りものという格言が存在するじゃないですか?要はお金を持っていれば、人の言動を簡単に操ることができるという、やたらシンプルな答えです」


俺がそう説明すると、アズサスと村長さんは頷いた。


「つまり、わし以外の他の誰かが門兵達にお金をあげているってわけ? そしてその代わりに、怪しい人を見かけたら何も言わないで見て見ぬ振りをかますという指示を受けているということですか?」


「まあ、そんなことです。しかしどこの誰かは知りません」


そう言うと、村長さんはコメカミを揉みながら深く溜息をする。


「そうか。教えてくれてありがとうございます、カエデさん」

「依頼は山賊団の殲滅ですから。それは直接あいつらに関わっている者も含まれています」


そう言って俺は溜息をつくと、立ち上がる。


「で、俺はもうそろそろ………

「あ、はい。じゃあ、ここで一旦終わりにしましょうか」

「わかりました」

言うと、頭を下げる俺。


「くれぐれも気をつけてください」


と、村長さんのその言葉を聞きながら俺は家を出る。

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