依頼受注
俺はギルドに来た。 中に入ると、昨日より冒険者の数が少ないことに気づいた。 人混みがマジで嫌なのでありがたいことだ。
俺が入った瞬間、集まった冒険者たちは俺に視線を向けた。
「おい、見ろよ。あいつだ」
「Fランクから即Bランクに上がったって本当かな?」
「うん、本当だよ。俺昨日ここにいたから聞いたんだ」
「なんかちょっとやばいオーラ出してるな」 「近づいちゃダメ。殺されちまうぞ」
「あ、あのイケメンじゃん!」
「お、おい! よだれ出てるぞ?」
ぶつぶつとなんかくだらないことを呟いているが、それを無視してまっすぐ依頼が貼ってあるボードに向かう。 さて、何があるかな。
俺がBランクの冒険者になった。 つまりBとAランクの依頼を受けられるようになった。 それに加え、Cとその以下の依頼も受けられるんだけど、それはどうしようかな。 素材収集、森狼の退治、手紙の配達……
うーん。 見るところ、あまり魅力的な依頼がないんだ。 森狼の退治はその中で一番面白そうだけど。 まあまあ、そもそも下のランクの依頼を受けるためにここに来たわけじゃない。 Bランクの依頼が貼ってあるボードに視線を移す。 …………ってこっちもあまり面白そうな依頼がない? ─────────────────
Bランクの依頼
商人の護衛
山賊団の殲滅
アジナス花の収集
剣、魔法の先生、B
以上ランク求む
カゼン山の魔物の異常発生の原因の下調べ お姫様の遊び相手・女の子限定 ─────────────────
目を引いた依頼は特にないが、剣・魔法の先生、山賊団の殲滅、そしてお姫様の遊び相手の依頼の3つだけが目立っていた。 …………うむ? お姫様の遊び相手? それBランクの依頼なのか、貼ったボードが間違ってるか、どっち? Eランクの依頼はEランクのボードに貼ってくださいね。
といっても、女の子限定だから俺は受けられない。 それにアジナス花の収集。 まあ、危険なところに生息しているかもしれない。 それはそれでBランクの依頼に相当するね。 あえて言うなら、一番受けやすそうなのは山賊団の殲滅かな。
というか、排除依頼をBランクの冒険者もやれるんだ。 なんかちょっと暗殺者っぽいけど、AランクじゃなくてなんでBランクのボードに貼ってる? 不思議だな。 好奇心でAランクの看板に目を通すと…………は? ─────────────────
Aランクの依頼
王都までの護衛 中位龍の退治 ドラゴン素材の入手 オーク群れの排除 家宝の奪い返し 土蛇の討伐
─────────────────
ドラゴン退治? 土蛇の討伐? オークの群れの排除? 結構いいやつがあるじゃないか。 土蛇の討伐もオークの群れの排除も相当難度が高そうな依頼だ。 ………ふむ。 面白い。 どうやらAランクの冒険者でもドラゴンに勝てるみたいだ。 まあ、中位のドラゴンだったらできるかもしれないが… まあ、考えれば考えるほどそれはそうだな。
高位のドラゴン討伐は多分Sランクの冒険者だけが受けられる依頼だな。 ってかドラゴン討伐とドラゴン素材の入手っていうコンビはよすぎるよな?
実は依頼は二つ果たしている。 やはりAランクのを受けるべきか? だが、Bランクに貼ってあるあの山賊団の殲滅も気になる。 できれば、人間を殺したくないが…山賊ってそもそもまだ人間と呼べるのかな?
呼べないと思うから別に殺しても何も感じないだろうな。体験したことはないけど、いろいろネットで読んだ。 山賊団っていうのは現代の暴力団みたいな組織。 あいつらがやることは人間がやることじゃない。
故に少なくとも俺は、もはやあいつらを人間と認識していない。 …………ふむ。 やはり、これ以上放っておいたら大問題になるんだろうな。
火に油を注げる前に早めに終わらせるか。 そう決めると、ボードから山賊団の殲滅の依頼を取って、エレンのところまで歩く。 「エレンさん」 書類から目を離し、俺にその視線を向けるエレン。
「あ、カエデさん。こんにちは。本日のご用は?」
「この依頼、受けたいんだけど」
手に持っている依頼をエレンに見せる。
内容を読んだ後、エレンは大きく目を見開いた。
「山賊団の殲滅…ですって?」
「うん。これ以上あいつらを放っておいたらやばいことになるかもしれない。できれば、それを避けたいと思ってる」
「でも人間を殺すのって……」
と、そこで、俺はエレンの言葉を遮る。
「人間? あいつらがやることは非人道的だぞ?故に人間ではない。ただの人間の皮を被っている怪物だ」
俺がそう言うと、エレンは少し考え込んだ後また口を開いた。
「分かりました。山賊団の殲滅を依頼したのは、ここから西の門を潜って道なりに進めば恐らく1日で到着するはずの小さな村の村長です。山の道を通さなければなりませんが、それ以上は割と安全に移動できます。細かいことは村長さんが説明します」
「あ、わかった。ありがとう、エレン」
「あと……」
踵を返し、歩き出そうとしていた瞬間、エレンは声をかける。 振り向くとエレンの表情を窺う。 真剣そうな顔をしている。
しばらく見つめ合うと、エレンはやっと語り出す。
「山賊はとても危険です。何物に対しても何も感じず、欲しいものを手に入れるために卑劣な手段まで使う、強いて言うなら寄生虫みたいな存在です。気をつけてください。確かにカエデさんは強い。ですが、一人で行くのは、無茶すぎると私は思います。囲まれたらもう終わりですよ? それでも一人で行くんですか?」
あ、なんだ。 心配してくれてるんだ。 ……なんで? まあ、別にいいけど。
「心配してくれてありがとう。でも俺は一人で大丈夫だ。むしろパーティと一緒に行ったらオーバーキルすぎるだろ」
傲慢なやつだな。 ってきっとエレンは思っているだろう。 しかし俺がさっき言ったことは事実だ。
「じゃあ、俺はもうそろそろ行くから」
そう言うと、俺は踵を返し、今度こそギルドを出る。
◇
歩くのがダルいなぁ。
依頼を受けて冒険者ギルドを出て、西の門をくぐってしばらく道なりに進んでいたら、やっとエレンが言った山の道にたどり着いた。
太陽はもう空にはない。 今朝からずっと何も食べてなかったから、今は腹がすごく減ってる。 しかたない。 ここで野営しようか。
と言っても、野営用の道具がないんだけど…… まあでも、それは別に問題じゃない。 【想像顕現】を使ってどこにでも家が召喚できるから。 一応、食べ物も【想像顕現】を使って召喚できるけど、召喚した食べ物には味がないんだ。
幸いなことに、あのときに収集した材料をまだ持ってる。 どうやらインベントリーにしまうものには消費期限がないみたいで、マジでラッキーだよな。
集めた肉は生だけど、火をつけてしばらく焼けば、美味しい料理ができあがる。 とりあえず、置く場所を探そうか。
周りを見回す。 見るところ、ここはあまり人が通らないみたいだけど、念のために人の目が届かない場所に召喚したい。
しばらく周りを見回すと、やっと割と安全そうな場所を見つけた。 そこまで歩いて、二階建ての家を召喚した。
中に入る。
入るのが初めてだ。
入ったら、玄関に立ってた。
靴を脱いで完全に入った。
一階は居間、台所、お風呂場、トイレ、二階はたぶんいくつかの部屋があるだろう。
あとで見てみよう。 今は夕食の時間だ。 台所に入る。
真ん中には大きな四角い木造のテーブルが置いてあって、石造りの焜炉の隣に小さな冷蔵庫が置いてある。 ……?
冷蔵庫? なんでこの世界に冷蔵庫があるんだ? 冷蔵庫の中を見る。
俺が知っている冷蔵庫とは違って、深く奥にあるはずの通気口がなく、代わりに冷たい風を放っている魔石が設置されている。
〈鑑定〉を使って、氷系の魔石だとわかった。 なかなか便利だな。 ……………そろそろ料理を始めようか。
インベントリーを開く。 装備・錬金術用の材料・料理用の材料・武器・その他、という5つのタブに分けている。
求めているのは料理をするための材料だから、料理用の材料というタブに画面を切り替える。 ずばりと、俺があのとき集めた料理用の材料が並んでいる。
─────────────────
料理用の材料
・ウサギの生肉X15637
・羊の生肉X13965
・デカいネズミの生肉X10567
─────────────────
肉がめっちゃ多いな。
デカいネズミの肉は遠慮するけど。
ウサギの肉は物足りなさそうだけど、たくさん食べたら腹がいっぱいになるだろう。 羊の肉もありだけど、考えればウサギのとあまり変わらないサイズだからいいんだ。
ウサギの肉を5つインベントリから取りだす。
するとまるで魔法のように、目の前のテーブルの上にウサギの肉の5つが現れる。 よし、始めようか。 まずは水魔法を使って軽くウサギの肉を洗う。
それをした後にウサギの肉を石造りの焜炉に入れて火魔法を使って火をつける。 出来上がるまでそんなに時間はかからないと思う。 とりあえず水をコップに入れて冷蔵庫に入れようか。
決めたら、【想像顕現】を使って手にコップを召喚し、コップに水魔法を使って淡水でいっぱいにして冷蔵庫に入れる。 暇つぶしに冒険者ギルドから借りた魔物図鑑というタイトルの本を読むことにした。
居間に移動すると、ソファに腰をかける。 この世界には漫画とかラノベとかが存在しない。
一応、【想像顕現】で、前世で読んだ漫画やラノベを召喚できるが、もう何回も読んでいるから流石に読むのに飽きたんだ。
そのために、ギルドにあった本を借りることにした。 本を読むと、ゲームやアニメに登場した魔物が確かにこの世界に存在することを確認したが、俺がまだ知らない魔物がいっぱい。
蜘蛛女とか、巨大な骸骨剣士とか、いろいろ。 一瞬、【賢者の権能】を使って本に書いてある情報を覚えようかと思ったんだが、やめた。 俺の本じゃなくてギルドの本だから。 読み始めてから30分。
しばらく本を読むと、焼いているウサギの肉の匂いがする。 出来上がったみたい。 本をソファに置いて台所に移動すると、石造りの焜炉からウサギの肉を取り出してテーブルの上に置く。
その後は燃えている火を消し、冷蔵庫から冷たい水を取り出す。 もぐもぐとウサギの肉を咀嚼する。 完食。
うまかったとは言えないが、満足だ。
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