正直に言って意外だったけど、文句を言っているというわけじゃない
「改めて言う。ゴブリンを討伐してくれてありがとうございます」
翌日。
軽い朝食を取ってから宿をチェックアウトすると、門へと向かう俺とルリーナ。
途中でバッタリと村長さんに会った。
見送ってやると門までついてきて、そしてついたらまた頭を下げて礼を言う。
その後ろに立っている村人も何人もいる。
全てではないとわかりつつも、結構の人数が集まっていた。
集まった村人も頭を下げ、一斉に「「ありがとうございます」」を言う。
なんかちょっと恥ずかしいな。
目立ってる。
でも気持ちはまじで嬉しい。
ルリーナの方に目をやると、相変わらず無表情で冷静な顔をしているが、頬っぺたはほんの少しピンクに染まっていた。
彼女も恥ずかしがっているだろ。
村長さんと集まっていた村人に別れの挨拶を告げると、俺らは村を出る。
そしてしばらく歩くと、空を見上げた。
周囲がかなり暗いと思っていたから。
見上げると、太陽が暗雲に覆われていることに気づいた。
嫌な兆しだな、それ。
雨は好きだけど、こんなところで時雨に遭いたくないよな。
一応、無から家を建てられるが。
「雨が降りそうだな」
俺がそうルリーナに警告すると、ルリーナは俺を聞いて空に視線を向ける。
太陽は暗雲の後ろに隠れているから目を細めずに普通に空を見上げられる。
ゆっくりと立ち込められたあの暗雲が遠くへと流れていく。
「そうだね。いつ始まるか知らないのだけど」
村を出てからずっと沈黙していたルリーナはしばらく空の様子を観察すると、それを言う。
そんな妙に控えめになったルリーナの言葉を聞いて俺が聞く。
「どうする?」
するとルリーナはしばらく考え込んだ後、答えてくる。
「とりあえず歩き続けましょう。前も言ったけど、いつ始まるか知らないし、結局雨が降らない場合もあるしね」
まあ、確かにそれはそうだな。
そのまま俺たちは山を降りていく。
雨はその1時間以内に降らなかったが、太陽はまだ暗雲に覆われている。いずれ降り出すだろ?
遠くに魔物の反応があるが無視して歩き続ける。
時々、冒険者や馬車ともすれ違うが気にしない。
そして6時間が経った。
遠くに、街の門がやっと見えてくる。
「イマゼンだ」
そう、俺が言うと、ルリーナは頷いた。
なんだ?
さっきまでそんなに饒舌だったけど、街についたらまた控えめになった。
門に近づくと、
どこにもアレンの姿が見当たらなかった。
多分今日休みだろうなぁ。
と、そんなことを考えると門兵にギルドカードを渡す。
門兵はしばらく俺とルリーナのギルドカードを見ると返してくる。
そして無言に、そのまま街に入ることを許可してくれた。
◇
さっさくギルドへと向かい始める俺とルリーナ。
今日は普段より賑わっているように見えるが、どうしたん?
と、そんなことを思うと、ギルドについた。
中に入ると、受付も賑わっている。
受付に並ぼうとすると後ろから声をかけられる。
「ルリーナ?」
聞き覚えのある声が聞こえた。
振り向くと、そこに立っているのはガシンにケル。
ガシンは困惑しているような顔をしながらルリーナの名前を呼ぶ。
そして自分の名前を聞いてルリーナも俺と同時に振り向いた。
「ガシンにケル。一日ぶりだね。元気してた?」
と、何気なさそうに言うルリーナ。
それにガシン混乱しているような顔をして言う。
「元気だけど? ってそんなことより、もう帰ったの? こんなに早く帰ってくるなんて、ゴブリンの数に恐れをなして逃げ戻ってきたんだろう。それとも、割り当てられた時間以内にゴブリンのすべてを討伐するのをできなかったのかなぁ?」
失敗したと思っているガシンは汚い笑みを浮かべる。
なんという嫌なやつだろなぁ。
「いや? 依頼なら終わったわよ」
「はぁ?」
ルリーナの言葉にアホ面になるガシン。
「依頼は終了。ゴブリン99匹とゴブリンキング1匹で」
「はあ、なに言ってるんだ。ゴブリンキング? 冗談もそこまでいくと笑えないぞ」
「それが冗談じゃないのよ」
あ?
知ってたんだ?
俺がゴブリンキングを倒したってことを?
「なんで、俺がゴブリンキングを倒したことを知っているの?」
と、俺が聞くと、ガシンの顔色はさらに悪くなる。
「そりゃ村長にゴブリンの魔石を見せたときゴブリンキングの魔石を見かけたから」
確かに不思議な形をしていたよな。
ゴブリンの魔石は黒に染まっていた普通の石のように見える割に、ゴブリンキングの魔石はなぜか六角の形をしていた。
なんかちょっと禍々しくてカッコよかったな。
「お前!俺がゴブリンキングを倒したのを知っていたってなんなんだ?! 」
そう、大声で言うガシン。
そして連鎖反応みたいに、
「ゴブリンキング?」
「嘘だろう」
「ゴブリンキングなんて倒せるわけないだろう」
「Aランクの冒険者でも自分で倒せない敵だ。Aランクの魔物のくせに」
「って昨日のイケメンじゃん!」
「あ、本当だ!」
「Aランクの冒険者の攻撃を受け止められる実力は確かに昨日の件によってわかっていたんだが、Aランクの魔物を自分で倒せるなんて、もう化け物じゃん」
ギルド内の冒険者がざわつき始めた。
「ルリーナさん、ゴブリンキングって本当ですか」
あ、エレンだ。
「少しお話をお聞きしたいのでこちらに来てください」
人が並んでいない受付に案内される。
「それではお話をお聞きします。ルリーナさんが受けた依頼はタイゼン村付近に現れたゴブリンの群れの討伐でしたよね。その数100は匹ほどの」
「実は99匹のゴブリンでした。まあ、ゴブリンキングもゴブリンに分類されているので、うん、はい。そうですね」
そう報告すると、後ろに聞き耳立てている冒険者が騒ぎ出すが、無視することにした。
「失礼ですが、討伐証明の魔石はお持ちですか?」
そうエレンは言う。
ルリーナはそれを聞いて、俺に視線を向ける。
彼女のその視線に気づき、俺は頷くと、インベントリー画面を開いて集めた全部のゴブリンの魔石を引き降ろす。
前みたいに手には皮袋が現れる。
皮袋の紐を解き、エレンにその中身を見せる。
「ゴブリンの魔石は99個に、ゴブリンキングの魔石は1。うん、ピッタリですね。で、聞き間違いではなかったら、確かカエデさんは「俺が討伐した」って言いましたよね?」
俺じゃなくてなんでルリーナに聞くんだ?
まあ、別にいいけど。
そしてエレンの言葉に、ルリーナは頷いた。
「はい。まあ、実はゴブリンの全部を倒しました」
「え?」
というのエレンの反応に続いて、
「「え」」
冒険者もあっけに取られた。
「Aランク冒険者のルリーナじゃなくてFランクの冒険者のカエデさんが?」
そう、再確認しようとするエレン。
それにルリーナは頷いて確認した。
「はい。そうです」
ルリーナは俺と違ってAランクの冒険者だから彼女の言っていることを信じるなぁ。
ランクの差って酷くねぇ?
いやでも……そりゃそうだな。
俺より冒険者の歴が長いからさ。
「この依頼はルリーナさんのパーティーがお受けになっています。ですが、ルリーナによってクリアしたのはカエデさん一人でしたね。どういたしましょうか?」
そう、エレンは聞いた。
「依頼料を全部カエデさんにあげてもいいですよ」
「ルリーナ?」
「もう、契約みたいなものを成立しましたから。ほら、覚えているでしょ、カエデ?」
あ、呼び捨て。
まあ、覚えているけど。
ルリーナの質問に、俺は頷いた。
「カエデは元々わたしたちの依頼をクリアする報酬に、依頼料の2割を要求して、依頼の成功はわたしたちの物にしました。契約だから素直に従う訳には行かない。しかしせっかく彼は自分で依頼をクリアしましたので、依頼料の2割は物足りないと思っています。ですから依頼料を全部彼にあげてもいいです」
ルリーナは説明する。
そして素直に聞いたエレンは聞き終えたら頷いた。
「わかりました。ではそのように処理させてもらいます。それでは、カエデさんを含めて、ルリーナさんとそのパーティーメンバーの皆さん、ギルドカードの提出をしてください。契約に従って、依頼料は全部カエデのものにします。代わりに依頼の成功はルリーナさんとそのパーティーのものにします」
「これ、断れないよな? 俺はなにもしていないし、自分で99匹のゴブリンとゴブリンキングの1匹討伐できるわけがないと思う」
「ガシン?」
あれ?
お前もしかして………いい人のでは?
「俺だって本当は断りたい。何もしてないから」
「ケル?」
「申し訳ありませんが、断れないですね。でも大丈夫だと思います。カエデさんも構いませんですね?」
そうエレンは聞いてくる。
「うん、いいよ別に」
と、それだけを言うと、満面の笑みを浮かべるエレン。
天使ktkr。
「だそうです」
「まあ、カエデさんがいいと言うなら、しかたないですな」
言ったのはケル。
ちなみに、ガシンは苦い物を食べたような顔をしている。
そんなに嫌なのか?
と、つーっても、昨日の俺に対してのあいつの態度を考えればそりゃ、嫌になるでしょ。
「はい。集めた魔石を含めて、こちらは依頼達成料になります」
エレンは言うと、皮袋をどこからか取り出して俺に手渡した。
それを受け取ると、すぐさまインベントリーにしまう。
「魔石を買取します?」
そう、エレンは聞いた。
それに俺は、「はい、よろしくお願いします」と、答えると、エレンは「かしこまりました」と言い返した。
「あと、カエデさん」
「はい?」
「依頼を達成したら本当はAにランクを上げたかったんですが、残念ながらまだ十分な経験は積んでいません」
うん、冒険者になったばかりだから。
仕方ない。
「しかし………」
しかし?
「すぐランクをAにあげられないが、Bランクならいけるってギルドマスターが言いました」
つまり…………
「ランク上昇おめでとうございます、Bランク冒険者のミヤザキ・カエデさん。ランク上昇によってBランクの依頼を受け取れるようになりました。もっと経験を積んでいたらAランクの冒険者になるかもしれないね。これからもよろしくお願いします」
そう、エレンは言うと、恭しく頭を下げる。
「はい。ありがとうございます」
そしてそのエレンに対して俺も頭を下げて礼を言う。
これで俺は、Bランクの冒険者になりました。
正直に言って、Fランクから急にBランクに上昇するのってちょっと意外だったけど、文句を言っているというわけじゃない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます