依頼の報告

何か貴重なものがあるか、と、そんな気まぐれな思いだけで俺は洞窟の探索を続けたが、結局何も無かったから【ゴブリンキング】の魔石を回収し、インベントリーに仕舞って洞窟を出た。

洞窟に入ってから1時間後、空に高く浮かんでいた太陽が少し沈んでいた。

時計はないけど、今すぐイマゼンに向かい始めれば恐らくギリギリのところに着けると思う。

そんなことを考えると、ルリーナが隠れているところに近寄り、着いたら彼女は寝ているようだ。

危険性はないのか、この人。

なんでこんなとこに寝てんだろ?

ベテランの冒険者なのに無防備のまま敵陣に寝ると、確実に自分に何か起こる。かといって、何も起こらないことを知っていたからそんなに呑気に眠れるという可能性もある。

どちらにせよ、そろそろ移動しないとヤバいだろ。


「おい。ルリーナ。起きろ。敵倒したぞ。そろそろ行かないと到着定時に間に合わないよ」


そう、俺が肩を揺らしながら言うが、


「……あと………5分……お願い……します」


マジで?

俺が子供の頃、ゲームをやるためによく夜更かしをしていたな。やっと眠りについたらお母さんが急に俺の部屋に入って「おい、起きろ、このバカ息子」なんて言っていて、それに俺はこいつが今つぶやいたことを母さんにつぶやいくと、めっちゃ平手打ちされたというのが俺の記憶にまだ鮮明だ。

やっちゃう? 平手打ち?

これ、やったらフルボッコにされるよな。俺の方はレベルが高いというのに、女の子の怒りに対して完全に無力だ。


やっぱりやめとく。

ってことは、運ぶしかないんだろな。

一応、ここに取り残して、自分で街に帰るのもありなんだけど、うん、そんなことはできないな。

俺は糞男ではないし。

まあ、少なくとも女の子を無防備のまま一人で取り残すタイプではない。いわゆる【ミスタージェントルマン】という。


はぁ~。

運ぶか。


そう決めると、ルリーナをお姫様抱っこして村への帰り道についた。定期的に【縮地】を使いながら。


でもさ、そんなとこに寝るなんて、よく何かに攫われてなかったな、女神様の加護に恵まれた者(アニメのセリフ)。


そのまま、俺は山を下っていく。


目的地はさっきの村。

依頼主だから依頼の達成を村長に伝えなきゃいけないんだ。

走ること20分。ちなみにルリーナはまだ寝ているが、そろそろ起きてくれないのか。

そして更に10分が経つ。

村の入り口近くに着くとルリーナはやっと目を覚ました。

目を擦りながら欠伸をする。


可愛い。


そして、自分の状況にやっと気づいたか、焦り始める。

おい、ジタバタすんな。

恐らく何かに拉致されたとでも思っているだろ。


「降ろして! 降ろして! 」


と、じたばたしながら何回も言う。

こいつ。あんなとこに呑気そうに眠ていたのに。

意外と天然だな。それともポンコツか?

どちらにせよ、マジでやめて欲しい。

落としたら死にはしないけど痛くなるだろ。


「おい! お前落ち着け! 俺だ、楓だ」


と、俺の声を聞いて、じたばたするのをやめて、今回はちゃんと周りを見回して居場所を確認した。

確認したらその視線をこっちに向ける。

そして………顔が真っ赤だぞ?


赤面しながらルリーナは俺を見上げる。

恥ずかしい!

と言わんばなりの顔をしている。

一瞬、またじたばたするかと思っていたが、彼女は目を閉じ、咳払いをすると顔がまだ赤いまま冷静に言う。


「お。カエデさんか。えっと、なんで私にお姫様抱っこを?」


彼女の言うことに、俺は答える。


「洞窟を出ていたらお前はもう寝ていた。肩を揺らして起こそうとしていても全然反応しなくてしかたなくお姫様抱っこをして村まで運ぶことにしたんだ」


俺が説明すると、ルリーナの頬はさらに赤く染まっていた。


「そ………そうか」

「うん、そうだな」


と、しばしの間に、沈黙が続いた。

き、気まずい!!


「えっと………そろそろ降ろしてくれないかしら」

「あ………そうだな。すいません。降ろすよ」


というやり取りをすると、俺はルリーナを降ろす。


ちなみに門番は笑いを堪えながらずっと俺とルリーナを見ていた。


俺たちは門番に向かう。

ルリーナの足がフラフラしていたのは気のせいだろう。

門兵に挨拶をして村長の家に向かう。


扉を叩くと、待つことは数秒。

扉が開かれ、50代の老人が出てくる。


俺たち交互に見てから口を開いた。


「えーと、どうでしたのかねぇ」


老人の質問に、やっと冷静を取り戻したルリーナは言う。


「終わりました」


それに老人は驚きを禁じ得ず、つい大声で言う。


「え?! 本当ですか!?」

「はい。ゴブリンの討伐の依頼は終了しました。カエデさん。良かったら村長さんにゴブリンの魔石を見せてくれないのかしら」

「わかりました」


と、俺が言うと、インベントリー画面を開いて集めた全部のゴブリンの魔石を引き降ろす。


そうすると、俺の手に皮袋が現れる。

皮袋の紐を解き、村長に中身を見せる。


「あ、本当だ。沢山は入っていますね。全部を数える時間はありませんが……」


そう言うと、不安そうな顔を浮かべる村長。

それを見て、俺は言う。


「安心してください。全て倒しましたから」

何故かというと、俺が全部倒したから。


「まあ、冒険者が言うのなら信じます。この村を救ってくれて、心の底から感謝しております」


村長が頭を下げる。


「それでは、本日泊まる宿を用意させますので、よかったら休んでくださいね」

「はい、ありがとうございます」

「門兵は宿に案内するので、少々お待ちあり。呼びますから」

そう言うと、部屋を出る老人。


姿が見えなくなった瞬間、俺はルリーナに視線を向ける。


「なんで了承したの?」

そう聞くと、ルリーナは首を傾げる。

「? 遅いし。疲れてるでしょ、カエデさん?」

「いやいや。そんなことはないけど。今日中に依頼を果たさないと、失敗とされるだろ? 依頼の達成をギルドに報告する必要ないんか?」


俺が聞く。

そしてルリーナは、何かわかったような顔をすると、答える。


「そう言えば、カエデさんの実力はともかく、まだまだ冒険者になったばかりなんだようね。依頼の達成を依頼主に報告する時点で成功とされるよ。確かに冒険者ギルドにも報告しないといけないが。報酬は冒険者ギルドで貰うから」


…………おいマジで?


「つまり公式にこの依頼が達成されたってことか」

「うん。ほら、これ見て」

そう言うと、ルリーナはポケットから何かを取り出して見せる。


ルリーナの冒険者カードだ。

しかし、俺のと違ってその色は青い。

恐らくランクを示す為に。


─────────────────

名前 ルリーナ

職業 弓使い

冒険者ランク A

属性 水


現在の依頼

・ゴブリンの討伐成功

依頼の内容

・タイゼン村の近くに籠城しているゴブリンの100匹のを討伐せよ《成功》

魔物討伐数

7000体

依頼数

依頼成功数

56

依頼失敗数

─────────────────


なるほど。

そういう感じか。


「現在の依頼と依頼の内容欄に《成功》がという言葉がついているでしょ。私たちはまだ依頼の現地にいるからまだ消えていないけど、去ったら消える。でも依頼の達成をすでに村長に報告したからついているわよ。混乱しないように、ね」


なんか複雑という感じもあるんだけど、割とわかりやすいな。

ルリーナの言葉に頷くと、やっと老人、元い村長が戻った。


「すいません、門兵の兵舎は家に割と近いので、そっちへ行ってきました。この人はキンジ」


村長の隣に立っているのは男の人。

キンジという男は頭を下げて挨拶してくる。


それを見て、キンジに挨拶を返す俺とルリーナ。


「キンジ、お前この二人を宿まで案内してくれ」

「はい。わかりました、村長様」


そう言うと、俺たちに近づくキンジ。


「では、ついてきてください。失礼します、村長様」


俺たちは村長の家を出て、宿まで案内された。

どうやら村長は宿泊費をもう払ってくださったみたい。

宿に入って受付嬢に名前を教えてたら部屋に案内された。

別々の部屋だったが、まあそりゃそうだな。

男女組だから、俺とルリーナは。

別に、あんな関係ではないのに。

でも村長はそれを知らなかったからいいっす。


部屋の中をしばらく見回すと、食事を取る為に階段を下りた。

下りたらしばらく宿の内を見回すと、バッタリとルリーナと目が合った。

彼女に手招かれ、俺はそこに歩き始めると、ついたところに何かに気づいた。


「これ、全部自分で食べる?」

彼女のテーブルについたら幾つかの皿に覆われていることに気づいた。

俺の質問を聞いて、答えるルリーナ。


「っなわけないでしょ。二人分の飯を事前に頼んでいたからはよ座って食べて。冷めないうちにね」

そう言うと、俺は頷く。

「ありがとうな」

「いえいえ」


その後、俺たちは他愛のない話を交わしながら夕食を食べた。

美味かった。

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