依頼の達成(後半)
森を歩いて1時間。
その間にゴブリンが20匹ほど出た。もちろん、討伐対象の魔物だから倒した。魔法を使う必要がないと判断して、さくさくと刀で首を斬り落として、黒霧になってこの世から去るとき魔石を集めた。
「その気配察知っていうスキル、マジで便利だね。ゴブリンの位置がわかるなんて反則技だよ。相手に見つかる前に一瞬で急所を狙って一発で仕留めるなんて、素早さ、効率、優雅さ、魔法使いとしては随分と暗殺者みたいな戦い方だね」
まあ、こう見えても俺が好む戦い方だ。魔法を使って一撃で敵を仕留めるのもいいんだけどね。
血振りをしてから後ろ腰にある鞘に【黒薔薇の刀】を収めて、歩き続ける。
「この先にゴブリンの巣があるみたいだ」
【気配察知】の反応が一箇所に集中している。ここからはゆっくりと近づいていく。 なんかちょっと、〈暗殺者の誓い〉をやっているみたいだ。
気づかれないように【気配察知】の反応が一箇所に集中しているところまでゆっくりと進み、ゴブリンの巣についた。
「あの洞窟みたいだね」
目の前に、大きな洞窟がある。入口付近にゴブリンが2体いる。見張りをしているんだろう。
「もしかして、あの洞窟に入るの?」
うん、確かにゴブリンは弱い魔物だ。でもあんな狭いところで100匹と戦うのは、理想的ではない。
「【気配察知】を使って確認するのはどう?」
そうルリーナが提案する。
「わかった」
俺が答えると、今日【気配察知】を何回も発動したかわからないまま、もう1度発動すると、やはり洞窟の中に100匹ぐらいのゴブリンがいるのがわかったんだ。
「うん、ここだな。しかも入口はあそこだけみたいだ」
「どうする?」
ルリーナが聞く。
「行くしかないだろ? ちょっとここで待ってて。行ってくるから」
そう俺が言うと、ルリーナは大きく目を見開いた。
「ちょっと、本当に行くの?」
しかし彼女の言葉を気にせず、【透明化】を発動すると、動き出す。見張りのゴブリンの1匹の後ろに移動し、隠密しながら刀を抜く。
そして待つ。 もう1匹の見張りのゴブリンが別の方向に目をやった瞬間、目の前の見張りのゴブリンが悲鳴をあげないようにその口を手で塞ぎ、躊躇うことなくゴブリンの喉元に直線を描いた。 命の源とも呼ばれる血液が地面にリズミカルに滴り落ちる。 そしてゴブリンがこの世から去っていく。
逆手で刀を持っているため、血振りをしながら順手に変える。 すると、そのまま憚らずに、隣にいるもう1匹のゴブリンが振り向く前にその後ろに素早く移動し、心臓のある位置目掛けて突き攻撃を繰り出す。
ゴブリンは攻撃に気づいていない。 振り向く前に、刀の刀身が一直線に鼓動している心臓目掛けてゴブリンの身体を貫き通す。
そしてゴブリンの口から滝のように血液が零れ落ち始める。 ゴブリンの顔を窺い、目が濁っていることに気づいた。
俺の刀に貫き通されたまま、ゴブリンの身体から力が抜けて、やっとゴブリンが動かなくなった。 それを見て、俺は刀を抜くとゴブリンはそのまま地面に崩れ落ちる。
そして他の魔物と同じく、黒霧になって消えていく。 それを見ているが、何も感じない俺。 人間ではないが、人間にそっくりな魔物だと言っても過言ではないだろ。
なんかちょっと不思議な感じになったが、心のようにその感じを殺すことにした。血管を走る血液を氷に変え、世界に敏感な感覚を鈍らせる。
取り残された2個の魔石を俺は回収すると、息を整え、洞窟の入口に目をやる。 この依頼を果たすために、ゴブリンを殺さなければならない。 それに100匹も。
強いて言うなら俺が1番慣れている暗殺者の戦略を用いれば、さくさくと終わらせることができるな。 洞窟みたいな窮屈なところで魔法を使えばいろんなリスクを冒しているから。
例えば、間違ってなんか重要なものを当てたら洞窟を崩してしまうこととか、もしいるのならボスの気を引いてしまうこととか、いろいろ。
低級魔法を使えばワンチャンあると思うけど、やっぱりそれらのリスクがまだ残っている。 それを考慮すると、やはり隠密に越したことはないだろう、この場合は。
まあ、ここに立ち尽くすのもあれだから、さっさと開始しようか、この依頼を。 そう決めると、俺は洞窟に入る。
「さて、虐殺を始めようか」
俺がそうつぶやいたが、聞く者は自分以外どこにもいない。
「うわっ。真っ暗だ」
深淵を覗き込んでいるかのように視界は真っ暗に染まっている。こう見えて、なんか古代武器がここに祀られていそうだ。 そう、想像を暴走させると、しばらくメニューを探ってやっと見つけた。
スペルの名前は単に「光」だ。 言うまでもなく、光っていうのは周囲を一時的に明るくする魔法なのだ。
今日いっぱい使うから《クイック・メニュー・バー》にひとまず登録することにした。
それが終わったらそのメニューを開いて魔法をクリックすると、周囲は光に包まれていく。 これで安心して探検できるようになった。
躊躇うことなく、俺は洞窟の奥へと前進する。
◇
洞窟に入ってから更に1時間が経った。
【黒薔薇の刀】を手に、目の前の敵である【ボスゴブリン】の荒々しい攻撃を素早く回避すると、とどめを刺す為にスキル・【縮地】を発動して距離を縮小する。 素早く納刀すると、一瞬にして抜刀して、右下から左上へと身体を斜めに斬り払う。
《居合斬り》だ。
《居合斬り》を食らったボスゴブリンは断末魔を上げながら欠片となって爆散する。残っているのは、黒に染まっている魔石だった。血振りをしてからまた刀を鞘に納める俺。
するとしゃがんでゴブリンの魔石を拾う。
これで、99匹は倒したな。
魔石をインベントリーに仕舞い、俺は立ち上がると、伸びをする。
あともう1匹は、どこだろうか。
と、そのときだった。
【気配察知】が急にバグり始めるその直後、視界にステータス画面が現れる。
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【ゴブリンキング】
ランク A
レベル 80
─────────────────
凄まじい咆哮を上げて、デカい体の何かが(恐らくこの【ゴブリンキングとやら】)は手にした武器──鈍色に光るあまりにデカすぎる鉞を振りかざして圧倒的な速度で、こっちへと迫って来る。
それを見ると、俺は反射的に首を傾けて攻撃をギリギリ躱した。
すると手を刀の柄に当てて、滑らかな動きでそれを抜いて振り上げて反撃をした。 目の前の敵である1体の【ゴブリンキング】の腕めがけて斬撃を繰り出したが、俺の攻撃はまるで効かなかったみたい。
なぜならゴブリンキングは止まることなく手に握った重そうな巨大な鉞を振り上げて、容赦無く振り下ろしてきたから。
こいつの皮はまじで硬すぎる。
と、そんなことを考えながら俺は反射的に跳躍し、空中で後ろ向きにくるっと宙返りして距離を取った。
「はぁ………」
地面に着陸するや否や、無理やり大きく空気を吐き、気息を整える。
投げ出された手にはじっとり冷や汗をかき、心拍も天井知らずに加速している。
すうぅ、と激しく鼓動している心臓を落ち着かせようとするように深く息を吸い込む。
が、その音に反応し、ゴブリンキングは目を細めてこっちに視線を投げてくる。
まだ戦う気満々のようだ。
「ぐるあっ!!」
凄まじい咆哮とともに、ゴブリンキングが地を蹴った。
鉞が鋭い円弧を描いて俺の懐に飛び込んでくる。
後ろに重心をシフトし、俺は地を蹴って後ずさりして躱す。
すると体をリラックスさせ、手にある武器、《黒薔薇の刀》という黒鋼の剣を正中線に構えて再び息を整えた。
ゴブリンキングが襲い掛かってくる。
余裕に鉞を振り翳ざし、俺を真っ二つに切り裂こうとするようにまっすぐに振り下ろしてきた。
鉞の軌道を追い、急いで右に体を回転させて走り出す。
するとスピードを落とすことなく、距離を縮小して低い姿勢でゴブリンキングの懐に密着する。
「せあっ」
掛け声とともに刀を水平に斬り払う。
魔力で注入されたから無理やりゴブリンキングの硬い腹を抉り、血液が流れ出る。
ギャッ、という低い悲鳴が聞こえた。
しかし俺は止まらない。
さっきの攻撃を続けて、俺は体をくるっと回転させ、右から左へと胸を斜めに切り裂く。
その勢いのまま下から上へとゴブリンキングの腹を垂直に切り、直線を描いた。
見事な3回連続攻撃だったが、まだ油断するのが早い。
反撃するより早く、俺は後ろに跳び退いて距離を取った。
大してダメージを与えなさそうだったが、まだゴブリンキングにダメージを与えた。 俺に言わせれば無傷よりもましだ。 倒すのはただ、時間と運にかかる。
ゴブリンキングは怒りで声を張り上げ、両手に持つ鉞を高々と振りかぶり、突っ掛かってきた。
けど前に比べてよっぽど遅かった気がする。
距離を縮めて、鉞を無慈悲に振り下ろす。
それを見て、俺は息を深く吸って全身を支配する痛みを無視しつつ、体を緊張させ通常ではありえないほどの速度で消え、ゴブリンキングの後ろへと移動した。
『超加速』というスキルを使った。
空中の俺は刀を構え、右肩から左足方向に斜めに振り下ろして背中を切りつける。
ゴブリンキングはかなりのダメージを食らったのか、大地を揺るがせるほど雄大な咆哮をあげていた。
すると振り返って、鉞を無闇矢鱈に振る。
しかしそれが、こいつの終焉に繋がった愚かな過失だった。
体を限界まで追い込み、地面に着陸した直後、俺はスピードを出して、ゴブリンキングの手前に現れた。
そのスピードの勢いのまま体を九十度回して、低い姿勢で懐に密着し、殺る気で喉元めがけて刀を水平に斬り払う。
刹那――
時間の流れがのろのろして、世界がまるでスローモーションで動き始めたようだ。
そしてゴブリンキングはこっちを睨みつけながら、息を引き取ったのだった。
断末魔すらあげることなく、一瞬ぶるっとふるえたが、すぐに倒れてやっと動かなくなった。
たちまち、ガラス塊を割り砕くような音響とともに、死体が欠片となって爆散した。
すると目の前に、半透明な画面が現れた。
─────────────────
【レベルが上がりました!】
99~112
─────────────────
続いて俺のステータス画面が在られる
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■カエデ レベル 112
■体力:650/650
■魔力:9000/9000
【100】STR(筋力)
【101】VIT(耐久力)
【110】AGI(敏捷度)
【100】DEX(器用度)
【125】INT(知力)
【30】LUK(幸運度)
ステータスポイント:2500スキルポイント:1500
■職業:賢者、龍の末裔、冒険者
■ランク:ランクF
■称号:無し
■装備
頭【空欄】
体【魔術師のバトルセット《ローブ》《黒》】
右手【空欄】
左手【空欄】
足【魔術師のバトルセット《ズボン・革靴》《黒》】
武器【黒薔薇の刀】
装飾品【空欄】
■魔法
【表示する】
■スキル(33/∞)
【魔術の心得】【頭脳明晰】【魔術分析】【魔術分解】【火魔法】【黒火魔法】【闇魔法】【雷魔法】【水魔法】【氷魔法 】【土魔法】【風魔法 】【光魔法】【時空魔法操作 】【付与魔法 】【超級剣術】【鑑定】【縮地】【錬金術】【賢者の権能】【超加速】【接近戦の達人】【超級格闘】【見切り】【柔軟性強化】【気配察知】【素早さUP】【敏捷性UP】【近接武器の達人】【創成者】【万能創成】【想像顕現】【書き直し】
■所持アイテム
・世界地図
■所持金 ・10000E
─────────────────
「…………………」
沈黙。
すると、
「はぁ〜〜〜」
溜息を零し、俺は数歩後ずさりして洞窟の壁に背中をぶつけると、ずるずる崩れ落ちるように座り込む。
詰めいていた息を大きく吐き出し、両目をぎゅっとつぶると、戦闘神経症に襲われコメカミの奥が鈍く痛んだ。
その痛みを追い出そうとしているように俺は何回も顳顬を揉みつつ首を振る。
すると再び目を開き、あくびを漏らした。
「…………まじでギリギリだったなぁ」
声が木霊した。
ますます大きくなって、やがて消え去っていった。
静まり返った洞窟の中、俺はゆっくりと立ち上がる。
死神の抱擁をなんとかすり抜けて生き残った俺は満足だった。
これで、この依頼がやっと終わったのだ。
…………………ってあれ? 今レベル上がらなかったっけ?
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