それにしても、腹減ったなぁ

一方で、別に何もしなくていい。

この依頼は俺に関係ないし、やる必要がない。

もう一方で、やってもいい。

ただ得しているのはこいつらだけだ。


元々ギルドに来た理由はお金を稼げる為に依頼を受けたかった。

さっきの「ランクを上げる為に来た」というのが嘘だった。

本当はお金が欲しかった。


この世界にいるどこの国の人間でも生きる為にお金が必要だ。

たった10000エリスを持っている自分でも例外ではない。


幸いなことに、【想像顕現】を使えば家をイマジンすることだけで召喚できるようになった。

もう宿屋に泊まる必要がないんだ。


ただ、やっぱ土地を買わなあかんなぁ。

結局お金かよ!


そしてこいつらと行動することにしたら、大したお金は貰わないでしょ?

いや、貰うかどうかまだ未知ですけど?


欲望?

いや、こりゃ欲望とかそういうじゃないと思う。

俺だって人間だし、金が要るのは当然。

こいつらが欲しいのは、この依頼の達成。

失敗汚点がカードに付かないタメだ。


だったらそれしようか。

両側が得する方法。

これで否定はしないだろ。


「うーん。じゃあ、条件を言ってもいい?」


とりあえず、条件があると発表せよ。

これが役割の二つを果たす為なのだ。


ひとつは本当に聞いていて、よく考えたことをパーティーに示す為に。

もうひとつはタダで行かないことを明らかにする為に。


人間は結局あれだ。

自分がやりたくないことをなんの損もなく他人に付け込むのを好む、本当に怠惰で残酷な種族だ。

俺だって同じだし。

だから悪巧みをし始める前に前もって本心を伝えべき。


俺の言葉に、ルリーナは少し考えると、頷いた。


「わたしたちができるようならいいわよ」

逆にガンシが、

「依頼料の配分か、それでも男か」

なんてことを言った。


世間知らずのやつだな、こいつ。

金儲けをする為にやってるの当たり前だ。


「まあ確かにな。だって、俺に関係ないんだろ、この依頼」

「な!」

と、そこでガシンはまた口を開こうしていたが、俺はそれを遮った。もう声煩くて聞きたくないもん。


「いいか。依頼を俺一人に任せて。依頼成功はそちらの達成にしてもらっていい。ただ、依頼料の2割を分けて欲しい。そんなに多くはないだろ」


「やはり」


ガシンは言うが、無視することにした。


「カエデさん、一人に任せるなんて……」

「俺たちに黙って見ていろと言うのか」


ルリーナ、そしてケルは冷静に分析しているその一方で、ガシンはぷんぷんしていた。

こいつ、本当に子供だな。

「別についてこなくてもいいよ。それに、あんたたちにデメリットなんかないじゃないですか? 依頼成功はあんたたちの物、ただ依頼料の2割を要求しているだけ。生きる為にお金が必要だろ? どこの国の人間でもそうでしょ」


「デメリットなんて、貴様が失敗したら、俺たちの失敗扱いになるんだぞ。そんな条件飲めるわけないだろう」


「……ちぇ」

ガシンの言葉に、俺は舌打ちをする。


もう、うんざりだ。


「ゴブリン相手に負けるとでも思ってんのか? 俺はお前と違って弱くないんだ」


ふと、思っていることを口にした。


「貴様!」


当然の反撃だ。

それでも俺は構わず、次々言葉でこいつを打ちのめしていく。


「ほら、お前の弱点は一目瞭然だ。大剣使ってるから動きが遅いし、気が早いから知能がそんなに高くないとわかってる。ジャクがいないとすぐ死ぬだろ、お前。まじで………」


「カエデくん、もうやめて」


後ろから声が聞こえた。

振り向くと、そこに立っているのはギルドマスター。

厳つい顔をしながらギルドマスターは俺を見やる。

そういえばまだいたんだ。


ずっと黙ってるから去ったかと思っていた。


これ、やっちまったのでは?

ガシンに対する俺の鬱憤を抑えることができず、つい余計なことを口走ってしまった。

自らの弱みに恥あり。


「…………わかった」


しばしの沈黙の後、ルリーナが言う。


「依頼料を2割分けるわよ。ただ、さすがに一人で行かせるのがあんまり気に食わないね。せめてわたしたちの中で一人連れて欲しい」


なんで?

一人でいいって言ったのに。

でも、ルリーナの顔を見ると、そう簡単に引き下がらないだろ。

溜息をつき、俺は頷く。


しかたないなぁ。

だったら、


「それじゃ、ルリーナさんに手伝ってもらっていい?」


俺が言うと、困惑するルリーナとそのパーティーメンバー。

何?

おかしいこと言ったのか、俺?


「なぜ、ルリーナ1人なんだ」

聞いたのは、ケルだった。

まじで無口なんだよな。

存在薄度レベル100%。


逆にこいつを連れていけばよかった説が………さすがにないな。

仮に連れていけたのなら、回復魔法しか使えないただのお邪魔虫になるから勘弁よ。


ってか最近口めっちゃわるくねぇ、俺?

全部あいつのせいだ。


「そんなの決まっているでしょう。あいつ(ガシンに指さす)と違ってうるさくはないしあんた(ケルに指さす)と違ってちゃんと戦える。あ、悪く取らないでね」


そう、理由を言った後付け足す俺だったが、ケルは和やかな笑みを浮かべて言い返す。


「何も悪く取ってないよ。言っていることが事実ですから」


やぱりお前もいけた気がする。

…………逆に、


「貴様!」


貴様貴様貴様貴様。

その言葉随分と気に入ってるみたいだな、こいつ。


「ガシン、やめなさい」

口を開ける前にルリーナさんがとめる。


ありがとう、ルリーナさん!

ナイスセーブ。


「とは言ってもさ、自分で倒せるから別に、場所まで案内するぐらいは助かるよ」


「自分でゴブリンの退治できるか、ほんとに?」


ルリーナさんは聞くと、俺は頷いた。

「うん、できるじゃないすか? 魔法を使えばあっという間に終わらせる」


「そういえばギルドマスターはカエデさんが魔法使いって言ったよね」


「まあ、表面上で俺の職業は魔法使いだけど、実はいろんなことができるんだ。剣を振るえることとか、気づかずに敵陣とかに侵入することとか。なんか、器用貧乏みたいなもん」


とは言っても、それも違うかな。


「えぇ。かなり強いんじゃん、カエデさんは」

そう、ルリーナさんが褒めてくる。


まぁな。


「まあ、本当にできるって言っているのなら、別に疑う必要がないですね。カエデさんの力に信じます。よければ、わたし、カエデさんについていきます」


それは助かりますよ、まじで。


「ルリーナ?」

「ケルもそれでいいでしょ?」

「構わないが」

「それじゃ、カエデさんお願いするね」

「あぁ。こちらこそよろしくお願いします」


そう、そんな言葉を交わすと、立ち上がる俺とルリーナ。


「それで、いつ行くの?」


俺が聞くと、ルリーナは答える。


「いつでもいいが、よかったら今から目的地に向かいたいなぁって思ってます」

「ああ! じゃ、行くとするか」


そう決めると、ギルドを出てルリーナと二人でゴブリン討伐に行くことになった。



こっそりと【鑑定】を発動し、俺はルリーナのステータスを見ている。


─────────────────

ルリーナ Lv 40 職業:弓使い


RANK:A


HP 500/500

MP 100/100

STR:20

INT:30

AGI:85

DEX:80


スキル:

【表示する】

─────────────────

どうやらジャクのやつが上回っているみたいだが、職業は全然違うから想定していた。

正直に言ってかなりルリーナのスキルに興味があるんで、とりあえずついでに見てみようか。

そう決めると、【表示する】という選択を押すと、ルリーナさんのスキルを表示する半透明な画面が現れる。

─────────────────

【狙い撃ち】【狙撃】【敏捷性UP】【素早さUP】【弓の達人】【短刀の達人】【隠密UP】【加速】【曳火矢】【クリティカルUP】【迷彩隠れ】

─────────────────


まあ、如何にも暗殺者・弓使いのハイブリッドって感じだな。

強いっちゃ強いけど。


ギルドを後にしてから30分後。

街を出て、しばらく道なりに進むと、やっと森に着いた。

行き先に着くにはどうやら森を通しなければならないみたい。


「ところで、ゴブリンが居る場所はどこなの?」


この30分ずっと俺らの間を支配していた沈黙を俺は破った。

地図から目を離さず、ルリーナが答える。


「西の門から6時間ほど行った村の近くの山よ」

「6時間! 」

「そう、だから、早く行って今日中に村に着きたいの」


キツいなぁ。


「今日中に依頼を果たさなければならないって、あいつが言ったよな?」


あいつっていうのはガシンのこと。

ルリーナも理解したのか、頷く。

「そう」


だったら村に着くまで6時間。

街に帰るまでも6時間。

ゴブリンを討伐するのそんなに時間がかからないと思うが、魔石集めを考えれば恐らく1時間がかかると思う。


まとめて13時間がかかるよなぁ。

しかも今日中に依頼を終わらせなければならぬ。

つまり滅多に休憩とかもできないよな。


いや。

もう言ったんだけど、マジでキツいなぁ。

時間を減らす為にどうすればいいのかな。


空を見上げる。

太陽はまだかなりの高い位置にある。

時刻は正午を回っているところだろ。


このペースだと18時頃につくと思う。

恐らく村に着けば村長が依頼について話をしたいので、それを考慮すると最低5分以内にその話が終わる。

それから村から討伐現場へ向かう。


ふむ。

【想像顕現】に拘りがなければな。

オートバイを召喚して30分以内に着いただろ。

残念ながらこの世には燃料がないからそんなことはできん。

ってことは、燃料、作ればいいじゃん?

と言ってもなぁ、どうやって作れるんだ、そもそも?

俺の知識に及ばないことなんや。


困ったなぁ。

っていうか馬車なくねぇ?

ファンタジー世界の癖に馬車がないなんてどうなってんだろ。

まあ、普通にあると思うが、アレか。

デカい街だけにあるかも。

ほら、アイズも馬車持っていたし。

イマゼンはそんなにデカくはないからもしデカい街にしかないのならば……まあ、納得はできないが俺にできることがない。

いや。前言撤回します。

受け入れることしかできない。

まあ、何もできないに等しいだろ。


とりあえず目的に集中しよう。

往復13時間は嫌だけど、無理とは言っていない。


それにしても、腹減ったなぁ。

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