こりゃ、どうしようかな

ギルドマスターはまっすぐ俺にその鋭い視線を送る。


「お前がカエデくんか? エレンからいろいろ聞いたんだ」

「そうなんすか?」

「うん、そうだな。Aランクの冒険者に簡単に勝ってたとかな。しかも木剣を使って真剣を真っ二つに折ったことも。言うまでもなくはじめて聞いたときは全然信じなかったんだけど、しかしエレンは粘り強かったな。ワイワイとカエデくんの話をしながら盛り上がっててさ。てっきり惚れたかと思ったな」


「ギルドマスター! 余計なこと言わないでください」


そう頬を紅潮させながらぷんぷんするエレン。

なんか可愛いな。


でもな。

それを聞くと、正直に言って何をいえばいいのわかんないな。

ありがとう!、とか?

無難な選択はやはり礼を言うこと。


「ありがとう?」

と、俺が言うと、ギルドマスターは笑みを浮かべる。


「質問でも聞いてるかい?」

「いやいや。ちょっと何をいえばいいのかわからなくて」


俺が正直に言うと、ギルドマスターは頷く。


「まあまあ、緊張すんな。する必要ないだろ」


確かに言われてみればないよな。


「で、この騒ぎは一体なんだい?」


そうギルドマスターは聞くと、ガシンが俺を睨みつけながら返事する。


「こいつのせいで依頼ができなくなったんだ」


ガシンの言葉を聞いて、ギルドマスターは難しそうな顔をする。


「なんでカエデくんのせいにしてるの?」

「こいつはジャクに怪我をさせたから。ジャクがいないと、この依頼を果たす見込みがないんだ」


ギルドマスター相手にタメ口使う?

でもギルドマスターは動じなさそうに見えるから、大丈夫かな。


「模擬戦相手にボランティアしたのはジャクのほうだろ?」


「まあ、そりやそうだけどさ」


「で、それを知っている上でまだカエデくんのせいにするつもり?」


「…………」


と、黙り込むガシン。


おかしいな。

さっきから俺たち、同じことを言っていた気がするが。


さすがギルドマスター。

思考回路が明らかに壊れているコノヤローを納得することに成功したな。


「まあでも、こりゃチャンスかもしれないな」


? チャンス? ちょっと何言ってるかな。


と、しばらく考え込むギルドマスター。

すると決意に至ったか、口を開いて言う。


「なら、いい方法がある」


いい方法?

なんだ?

依頼取り消しても、失敗扱いを無くしてくれるのかな。


そう思う反面、ギルドマスターは言う。


「一度受けた依頼は無かったことにはできない。断るなら失敗扱いになる」


あれ、超能力者?


「さっき俺が言ったそのいい方法ってのはこれ。カエデくんを連れて行けばいいだろう。Aランクの冒険者に勝てる強さがあるとは判明しているんだろ? エレンによると、職業は魔法使いなのに剣士のように剣を振るえるし、素早さも異常なもんだってさ」


「…………………」

「…………………」

「…………………」

「…………………」

「…………………」


そう黙り込む、ガシン、ケル、美人、エレン、そして俺の5人だった。


「ちょっと、何勝手に言ってるんだ」

いや別に文句とかがないけど、これって普段本人を通すべきの話じゃないか?

「簡単な話だろ。ジャクの代わりに臨時のパーティーにカエデくんを入れればいいだけだ」

「いや、そうじゃないでしょうが。ランクを上げる為に今日ギルドに来たんだ。エレンによると、低ランクの冒険者が高ランクの冒険者とパーティーを組めば、依頼を何数もクリアしなきゃいけないんだ。こいつらが受けたのは間違いなくAランクの依頼だろ? 俺に得なんてないじゃないっすか? それにそんなにお金も貰わねぇし。どう考えでも俺にメリットが少ないだろ」

「まあ…………確かにそうだよな」

「えっと、カエデさんだっけ。話だけでも聞いてもらえるかな」


パーティーの弓使いである女性が話しかけてくる。


嫌です。って本当は断りたいところだけれども、そんな目で見ていると、俺の固い意志が粉々に砕けちゃう。

なんで、女の子ってそんな表情できるわけ?

あまりにも理不尽すぎるやろ。

おい! 神! お前聞いてんだろな。


………はぁ。

どうしたもんだか。


結局、断る言葉も見つからず、話だけ聞くことになった。


ややあって。


俺はギルドの一室の部屋を借りて、ジャクのパーティーメンバー3人と一緒にいる。


「それじゃ、まず自己紹介をしますね。わたしはルリーナ。そこのあなたに文句を言ったのがガシン、無口なのがケル」


「俺はカエデ」


一応、挨拶だけはしておく。


「それじゃ、話を始めましょうか。わたしたちが受けた依頼はゴブリンの討伐です」


ゴブリンの討伐?

ゴブリンは人型の知能の低い魔物だ。

それって初心者の魔物じゃない?

それをパーティーで倒すとかこのパーティー弱いのかな?


「ただのゴブリンじゃないの。100匹ほどの群れの討伐なの。ガシンと一緒に前衛担当をやっているのジャクがいないと辛いのよ」


いや、数はどうでもいいだろ?

ゴブリンは雑魚魔物だから簡単に退治できるし。

今の俺なら一人でも充分だ


レベル99だし。


「貴様のせいなんだ。力を貸せ!」

「黙りなさい!」


お前まだ言ってんのか、それ?

どんだけバカなんだろうな。


まあ、別に手を貸してもいいんだけど、前も言ったが、得するのはお前らだけだ。

こりゃ、どうしようかな。

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