なんかちょっと怖いなぁ
街に戻ってきて、真っ直ぐにギルドに向かう。
ギルドに入ると部屋にいる冒険者の視線が一斉に俺に向く。
「あいつか?」
「うん。ジャクを瞬殺したやつ」
「なんか、そんなに強そうに見えないけど」
「本を表紙から判断するな、っていう格言があるだろ。エレンだってあいつが強いって認めたんだ。すぐランクをAに上げたかったけど、ギルドマスターはそれを許されないらしいぜ」
「バカバカしいルールだな」
「しかたない」
「あ、あの噂も聞いたか?」
「あの噂って?」
「奴隷解放のやつ」
「あ、確かに聞いたことあるな」
「もしかして…………」
「まさか…………」
どうやら俺が簡単にジャクに勝ったと言うのが漏れたらしい。それに三日前に奴隷達を解放したというのも。
まあ、別にいいけど。
でもさ、俺が冒険者の方を見ると皆視線をそらすのちょっとあれなんすよ。
あんま気に食わないな。
まあ、誰も何も言ってこないので受付に向かう。
「カエデさん、本日はどのような用件ですか?」
俺が近寄っているのに気づいたか、エレンは書類から目を逸らしこっちに視線を投げる。
いつも忙しいな、この人。偉い。
「いやさ、なんかちょっと今日依頼を受けようかな、って思いまして」
俺の言葉に、エレンの表情がピカピカと輝き出す。
「かしこまりました!」
うわっ!
何エレン?
急にテンションが高くなったぞ?
「いやぁ〜。いいタイミングで来ましたね、実は……」
と、そこでエレンの言葉が遮られた。
「おまえがジャクを瞬殺したやつか?」
冒険者の一人の男が声をかけてきた。
俺よりは三、四歳年上だろうか。
「……ジャク?」
もちろん、ジャクのことを覚えているが、この人ジャクの大ファンだそうなのでちょっとだけからかってみたいな、という軽率な理由でそう言った。
首を傾げると考えるふりをする。
「誰?」
と、それだけを言うと、冒険者の額に青筋を立てる。
やべぇ。
怒りの誘惑に負けたみたい。
「もしかして、覚えてねんのか? ジャクだよジャク。お前の模擬戦相手にボランティアしたAランクの冒険者よ」
いや、覚えている。
忘れたいけど、あのチャラい男。
まあでも、そろそろ忘れたフリをやめようか。
「あ、あいつか。金髪碧眼で、いつも高慢ちきな表情を見せているガリガリの、クソダサい服を身にまとっている、俺TUEEEEというオーラを放っているけど実は冒険者になりたての俺にでも勝てなかったチャラいおぼっちゃまのことか?」
実を言う。
この世界に来たとき、もしあの書店で本を見つけなかったら負けた。それを知る必要がないけど、こいつ。
俺の言葉に更に怒り出した冒険者は背中から大剣を取り出す。
もしかして、俺を攻撃する気か?
だったら痛い目にあうぞ?
とまぁ、俺に聞かない理由がないだろうな。
しかたない。
誰かが反応するより早く男は「死ね!!!」という掛け声とともに大剣を振り下ろす。
大剣の軌道を追う。
あまりにも遅すぎたので簡単だった。
俺を真っ二つに切り裂こうとしてるな。
この男はあのガリガリのおぼっちゃまに比べてムキムキで、脳筋っぽく見えるから突然考えずに攻撃してくるだろ。
受け止めるか?
多分、この【黒薔薇の刀】で容易く受け止められると思うが、念の為に魔力を入れて強化しよう。
決めると、すこし魔力を刀に送る。
大剣が近づいてくる。
……………今だ。
俺はみるみる後ろ腰にある鞘から【黒薔薇の刀】を抜刀すると、刀身が攻撃を受ける為に斜めに振り上げる。
ガチッ!
という音がギルド内に鳴り響く。
黒薔薇の刀を逆手に持ち、俺は冒険者の大剣を受け止めることに成功した。
それを見たギルド内の冒険者がざわつく。
「おいおい! まじかよ!? ガシンさんの攻撃を受け止められるってヤバくない?」
「やはりあいつは普通じゃねぇ?」
「よく見たらイケメンじゃん」
「うっせ、このアマ」
「アマはあんたのほうでしょ?」
云々。
でもそのざわつきをよそに、冒険者、(名前はガシンだっけ?) は俺を睨みつけ続けている。
小刻みに腕が震えている。
大剣にもっと圧力をかけようとしてるだろう?
しかし残念。
どんだけムキムキとはいえ、魔力に強化されている魔剣を力押しで勝てないんだ。
「貴様のせいでジャクさんが怪我をして仕事ができないんだぞ」
はぁ?
「もしかして、俺にイチャモン付ける為に来たんすか?」
ギルドマスターを呼ぶべきかな。
とは言っても、ギルドマスターに会ったことないよな。
顔見知りでもねぇし。
出来れば敵でもない人を殺したくないもんな。
「いや。身を守れなかったのはどう考えてもそいつのせいだろ? っていうか、そいつが軽い怪我しただけだ。俺は悪くない。もし依頼中怪我をしたらどうする? 途中でやめて帰ってくる? 俺に言わせれば騒ぐ必要はないだろ」
「残念ながら誰もおまえに聞いてねぇんだ!」
うるさいな。
そんなに叫ばなくても聞こえるって。
「ガシンやめなさい。模擬戦だったから怪我をするくらいはもう覚悟していたでしょ」
「ルリーナ、お前はこいつをかばうのか?」
「更なる暴力を妨げる為に言ってるわよ」
二十代前半の金髪の女性がガシンを鋭い視線で見つめる。
細身のなかなかの美人だ。
曲線をよく見られる軽鎧に纏ってんな。
なんかエロい。
しばらくガシンを睨みつけると今度こそこっちに視線をやる。
でもガシンとは違って彼女の視線は暖かいものだった。
「武器を降ろしてもらいますか?」
そう言ってくる。
まあ、別にその提案に問題はないけど、武器を降ろしたらまた攻撃してくるだろ、コノヤロー。
「俺、別に問題とかはないけど、あんたのパーティーメンバーを信用できない。あいつが先に武器を降ろしたら俺も降ろすよ」
そう言うと、彼女が頷く。
「だってさ。ほら、ガシンお前武器さっさと降ろしなさい」
そう、命令する彼女。
「でも、こいつのせいで依頼ができないんだ!」
「だからって彼のせいじゃないって理解しているでしょう。油断をしたのはジャクの方。故に彼は悪くは無い。あんたでも理解できる思考回路をしているかと思ってしまった私の方が悪いけど」
「ケル、おまえも何か言ったらどうだ」
女性の隣に立つ、巨体の男に声を掛ける。
「まあ、模擬戦だし、しかたないだろ」
「ちぇ。おまえもか」
「別にジャクが治すまで待てばいいんじゃん?」
「しかし依頼の期日は今日なんだ。今日中に依頼を果たさなければ失敗とみなされる。そりゃいやなんだ」
なるほど。
ギルドカードに失敗の汚点を付けたくないか。
体験したことがないけど、失敗はギルドカードに一生付いてくるもんな。
まあでも、俺に関係のないことだ。
「あの……」
と、そこで俺は声をかける。
「もう、武器を降ろしてもらえる? これ以上やったら自己防衛で反撃するから。さらに依頼を長引かせたくないだろ?」
「はぁ? もうおまえ……!」
「ガシン! 怒りを抑えなさい! そして武器を降しなさい! もう二度と言わないからわよ」
怒りで叫ぼうとするガシン。
しかし金髪の美少女に遮られた。
彼女の言葉に、ガシンをぶつぶつと愚痴りながらもやっと武器を降ろすと、背中に戻した。
それを見て、俺は自分の武器を降ろして鞘に戻す。
「すいませんが、ジャクがいないと依頼を果たすことが出来ないんです。ガシンは普段こんな頑固な人ではないが、依頼を果たせないことに対してかなりイラついてるみたい」
そう、申し訳なさそうな表情を作って話しかけてくる美人。
その言うことに、俺は首を傾げる。
「いや、普通にジャクがいなくても依頼はできるんじゃねぇ?」
「普通はそう思うでしょ? けどジャクがいないとパーティーのバランスが崩れてしまう。ガシンは大剣使いだから前線に戦うの当然だけど、さっき見たように気が早いし、動きが遅い。戦闘中で気を散らしたらもう命の終わりね。ジャクは普段、ガシンが気を散らさないように、それに敵に不意打ちされないようにカバーしている。ケルはこのパーティーのヒーラー。 ヒーラーだから当然、まともな攻撃技や魔法がないし、接近戦も苦手。敵が攻めたら即死。そしてわたしはこのパーティーの弓使い。普段、長距離から敵を狙撃するが、接近戦になってもなかなか戦えると思う。けどやはり苦手っちゃ苦手だな。数分間戦えるかもしれないが、いずれ圧倒される」
まじでジャクの存在に縋りつくパーティーだな。
そこが問題点なんだようなぁ。
「諦めたら?」
「ランクが上がるのが遠ざかるだろ!」
そう、俺が提案するとガシンは即返事してくる。
まあ、確かに。
でも、ランクをあげるの、そんなに必死なの?
いや、別に聞かなくてもいいか。
俺に関係のないことなんだから。
と、そう思ったときだった。
「騒がしいと思ったらやはりお前らだったな」
後ろから声が聞こえた。
振り向くと……って、お前でけぇな。
エレンの後ろに立っているのは、白い髭を生えているムキムキのオッサン。
オッサンの存在に気づき、強ばるギルド内の冒険者だち。
そして、
「ギルドマスターを呼びました」
エレンが平気そうな顔をしてそう言ったのだ。
ふむ。
この人がギルドマスターか。
なんかちょっと怖いなぁ。
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