ロリババアの頼み事

「おもろい顔してるやんwwまあまあ、ウチについてきて。全てを説明するから」


そう、リナが言うと、カウンターの後ろへ続く小さな扉を開いて退いた。


困惑しながらも、俺は言われるがままにリナについた。

何故かと言うと、そりゃ当然だろ。


どうやらこのロリババアは俺がこの世界の者ではないことを知っているから。


カウンターの後ろに扉がある。

その扉へ俺たちは向かう。


扉に着くと、リナが開いた。

そこに、恐らく地下へと続く階段があった。

階段が地下に向かって長く伸びている。


わずかだが、冷たい風が吹き上げて来た。  

階段を下りていくと、たちまち広々とした倉庫のような場所へとたどり着いた。


背の高い棚が無数に並んでいて、その一つ一つに商品が所狭しと陳列されている。


杖から置物まで、およそあらゆるものが雑多に置かれていた。  空気に漂う薬品臭を嗅げる。


「ここは【ラグナロク】や。ウチの拠点みたいなもんな」


自分の拠点は魔術の店か?


そう思うと、しばらくリナについていくと、やがて俺らはリビングみたいな空間についた。


「さっき、ウチをロリババアって呼んだよな? そりゃどうしたん? いや。当ててみようか」


と、彼女が言うと、「座って座って」と言わんばかりに自分に近いソファーに指差す。


しかたなくソファーに座ると、リナは俺のすぐ隣に腰をかける。


なんかいい匂いがするんだけど?


もちろん、変な意味で言っていないよ。


俺、ロリコンじゃないから。


「実はあんさんは、【鑑定】を使っとったやろ? さっき?」


そうリナが言う。

鑑定のことまで知っているのか?


「なぜそれを」


と、俺が聞くと、リナは片脚をもう一方の脚の上で交差させる。

するとパチ、と指を鳴らすと、空中に茶碗が現れ、その茶碗には言うまでもないが、淹れたての紅茶だ。


「どうぞ」


言うと、自分の茶碗を手に取り、その中の紅茶を啜る。


躊躇いながらも俺は空中に浮かんでいる茶碗を手に取る。

いい匂いだ。


ひと口啜ると、美味しい。

めっちゃくちゃ美味しいんだこれ?


「美味いやろ? 」


俺の表情または反応を見たか、そんなことを言うリナ。


「うん」


「そりゃーどうも」


そう言うと、沈黙に沈んだ。


紅茶を啜る音だけがこの空間を支配していた。


それにしてもな、よく俺がこの世のものでは無いとわかったんだな、このロリババア。

それに【鑑定】という能力も知っていたし。


俺が知る限り【鑑定】を知る者はこの世にいないはずだ。

少なくとも俺が出会った人の中で。


この人、もしかして……いやでも、そんなわけ…あるっちゃあるけど。

だって自分だってこの世界に召喚されたもんな。


俺以外の転移者がいるなんて考えるだけで嫌っていうか不思議な感じになるよね。


この人も何らかのルールや事情に則って転移、または転生させたに決まってる。


そして、彼女の年齢を考えれば随分前にな。


子供っぽい見た目に反しては知識や経験、スキルなどが長年生きてきた吸血鬼のもので恐ろしい。


多分、気をつけた方がいい。


「そうか。そういうことか?」


沈黙を破ったのは、俺だった。


目の前にあるテーブルに茶碗を置き、隣に座っている、まだ自分の紅茶を飲み終わってないリナに振り向く。


「お前も、転移者か?」


俺がそう聞くと、リナは小さく笑みを浮かべる。


「あんさん、意外と勘が鋭いなぁ」


やっぱり。


「そうやな。ウチ、あんさんみたいにこの世の者やないな。でもあんさんと違って転生したんや」


転生したか。


「酷い事故に遭ってさ」


と、それだけ言うと、また紅茶を啜り始める。


なるほど。

そういうことか。


俺以外の、【あの世界】から来た者がいたんだな。


ややあって。


「で、本番に入るけど、楓。あんさんに頼み事があるねんけど聞いてくれへんか?」


はじめて会った人に頼み事を押し付けるのちょっとアレなんだけど、せっかく俺みたいなあの世から来た者がいるから、今回だけは許してやる。


「いいよ。俺にできることなら」


俺がそう答えると、リナは微笑む。


「心配はいらん」


そう言うと、その次の瞬間に真剣モードに切り替わるロリババア。


「実はさ、ウチの弟子が奴隷商人に取られたんや」


あれ? 奴隷商人に?


「え? そもそも奴隷売買はこの世で合法なの?」


俺がそう聞くと、リナは頷いた。


「ええ。残念ながら、ウチらの世界と違ってこの世界では奴隷売買は完全に合法や。我々人間に当てはまるルールは亜人とか別の種族に当てはまらへん。つまり、」


「人間を奴隷売買に売れないが、別の種族だったらやり放題ってわけか」


「うん。まあ、そうゆうことか。もちろん、そうゆう活動に耽るやつらはまだいつか逮捕されるが」


と、溜息をつくリナ。


「ウチの弟子はばりかわええ獣人族の一員や。アジーンにおった時に拾ったわ。親に捨てられたってさ。でもあの子、マジで素直で大人しくて、それに言うことをよう聞くなぁ。市場に行って料理の材料を買ってきてって指示したらすぐ出かけたんや。でもあれは昨日やった。昨日中に全然けぇへんくて心配して、しょうがなく魔法を使って居場所を探した。で、居場所を知ったとき、」


と、そこで、彼女は拳を作った。

悔しげに歯を食いしばって、今にもキレそうになってる。


「強制的に取り戻したかったんやけど、もししてたらウチらには居場所がなくなる。やから我慢した」


リナは深くため息をつく。

すると、俺を見上げる。


「ウチらは会ったばかりかもしれんけど、同じ世界から来た者同士として、他に信じられる者がおらん。頼むよ。ウチの弟子を救ってくれ。もちろん、救ってくれたらウチにできることならなんでもするから。レベル99のあんさんならできると信じる」


そう強請るリナ。


そしてそんなお願いを、俺は受け入れることにした。


「わかった」


と、俺はそう答えたのだ。


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