あれれ?

武器屋を出た後、すぐ地図を開いて一番近い服屋さんへの方向を見た。


歩いて10分。


やっと一軒の、なかなか慎ましい木造二階建てのビルに到着した。


「いらっしゃい」


入口の扉を開くと、武器屋みたいにカランカランと扉に取り付けられた小さな鐘が鳴った。 中に入ると背の低い女の子が迎えてくれた。 挨拶してきたのは、この子だったか。 店の手伝いをしてるのかも。


見た目は普通の10歳の女の子。 10歳の女の子はこっちに眩しい微笑みを見せながらカウンターの後ろに立ってた。


まさか、店長さん? いやいや、そんなわけないか。 店長の子供かもしれない。 まあいい、とりあえずなんか言おう。


「えっと、ここは【リナの服屋】だよね?」


そう言うと、10歳の女の子は笑顔を崩さずに頷いた。


「はい!」


「新しい服買いたいんだけど、店内を見せてもらえる?」


と、俺がそう事情を説明すると、女の子はまた頷いた。


「どうぞどうぞ」


えっと? まあ、これで一応許可を貰ったから見させてもらうか。 そう決めたら、とりあえず見回すことにした。 さて、何を買うかな。 もちろん似合いそうな服がほしい。 それにかなり耐久のある服も。


せっかくこの服で魔物と戦うから、初戦闘で服がボロボロになったら多分泣くかも。 残りのエリスは10000エリスだ。 できれば、安い服を買いたいな。


このエリスを使ってまた宿屋に宿泊したいもんね。 もちろん、街の周りに野営してもいいんだけど、キャンプ用の道具がない。 買いたくもない。


いずれ買う時が来るに違いないけどな。 冒険者だし。 でもその日はまだ来てない。 もっとお金に余裕ができたら買うけど。


それはそうと、しばらく店内を見回したけど、やっぱりいいのがなさそうだな。 【鑑定】を使って耐久度とか質とかを見てたけど、さすがに服だけあって耐久のない服が多い。 質だけは非常に高いけれども。


でもいつまでもこんな村人装備でいられない。 えっと。今すごく寒いからセーターを買おう。 もちろん、黒で。


あとアレか。 短パンじゃなくてロングパンツの方がいいよな。 黒か白かどんな色がいいかな。 とは言っても、パンツは黒の方がいいんじゃない? やっぱり黒が好きだな。 あとやっぱりパーカーも欲しい。


できれば黒の方が……あ、この世にないのか? パーカーって?


残念。 まあ、その代わりにこのマントを買おう。 戦闘中、邪魔にならないような長さだし。 買い物はこれで終わりかな。 黒いセーターに、黒いパンツ。


それに黒いマント。 完全に黒ずくめの服装になってるけど、自分に言わせればかなりいい感じじゃない?


その他はな、他の季節に備えて適当に丈夫そうな服を選んでも大丈夫か。 そう決めたら、服を選び終えたらカウンターに向かった。 カウンターには、やっぱりあの10歳の女の子しかいない。


彼女は何やらの本を読んでるみたい。 まさかな。 カウンターに近づくと、本から目を離す女の子。


「お兄さん、買い物終わり?」


そう聞いてきた。 まさかな。


「え、はい。一応終わったんだけど、店長はどこに?」


俺の言葉に、彼女は眩しくほほ笑みかける。 おいおい。 これ合法か? 少年労働という概念がこの世界に存在しないのか? そう考えると、女の子は答える。


「店長はもちろん、このわたしやけど?」


…………。存在しないようだ。 まあでも、ここは異世界だし、自分が元いた世界と違う法律とかあるよな。


そりゃまあ、受け入れるしかない。


「子供がお店を一人で運営できるなんて、凄いじゃない?」



俺がそう言うと、彼女は頬を膨らませて小さな手を拳にする。 ぷんぷんしてるようだ。 ロリコンじゃないけど、可愛い。


「子供ちゃうもん! こう見えてもわたし、200歳や!」


…………………………とんでもないこと言ってるな、この子。 動作も仕草も見た目もあまりにも子供っぽい。子供以外の何者でもない。


もしかして、自分が大人だと思い込んでるのか?


「………」


「何、その「そんな明らかな嘘を信じるか」みたいな顔してんの?」


ってかさっきからめっちゃ関西弁喋ってんだけど? いやいや。 そんなことより、普通、「鑑定」を使えばこんな嘘は明らかになるだろ。 そう決めたら、鑑定を発動した。 ─────────────────

リナ

レベル65 性別 女性 年齢 200歳 職業 店長、商人、錬金術師、古代魔術師 種族 吸血鬼 スキル 【表示する】 ───────────────── ……………マジで?


レベルもめちゃくちゃ高くて年齢は本当に200歳。 しかも吸血鬼か、このロリ。 そう、あっけにとられた俺が、ふと思ったことを口に出してしまった。


「本物のロリババアだ!」 大声でそれを言うと、リナはまた頬を膨らませながら、


「なに言うてんねんこのアホー!!!」 と、そう叫んだ。


ややあって。


「やっと落ち着いた?」


「うっせ、アホ」


まだ怒ってる。


「ごめんって」 ったく。


このロリババアマジで……いや、落ち着こう。


そう深呼吸をすると、冷静を取り戻した。


「で?」


「で??」


「服買いたいんやろ? 言うとくけどお金がないと買えへんで」


「いや、そりゃさすがにもう分かってる」


なぜかわからないけど、俺の知力を舐めてるような気がする。


まあ、知力というより常識だけど。


「で、いくらになる?」


俺が聞くと、リナは少し考え込む。 そして、


「あんたの魔力って、なんか不思議やな」


え? 急にどういうこと? 何言ってるの?


いや、ってか俺の質問に関係ない? そう口を開くと、しかしリナに遮られた。


「もしかして、転生者? それとも転移者? どっちかしら」


え?

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