冒険者試験の始まり(本当だよ)(1)

「はい、15000エリスです」


すると10分後。


やっと戻ってきたエレンが15000エリスを手渡した。

それを手に取ると、イベントリーに仕舞う。

しかしエレンがきっと見えたのは、手に取った袋が急に光に包まれ、その次の瞬間に手から消えたというのが。


「じゃあ、まず最初の試験ですが……確かカエデさんは魔法使いって言いましたよね? こっちに来てください」


そう言ってエレンが、俺をカウンターの前に呼ぶ。

カウンターの上には、見慣れない水晶玉のようなものが置かれていた。


「これに手を当ててください」


エレンはそう言ったが、これ触っても大丈夫かな。

なんか嫌な予感しかしないが、やらないと進めないよな。


とりあえず言われるがままに俺は水晶玉を当てるが……なんか水晶玉の様子がおかしい。

何やら不安定な光り方をしながら、カタカタと振動している。


俺は反射的に手を引っこむと、振動と光は収まった。


「えっと、今のって何だったんですか?」


明らかにヤバそうな感じの光り方だった。

それに振動も激しくて爆発しそうみたいだった。


エレンも目を信じられないのであろう。

ふと、水晶玉から目を逸らし、視線ををエレンに投げる。


彼女も鋭い目で水晶玉を見ているが、何かの決意についたか、その鋭い視線を俺に向ける。


「わかりませんが…えっとですね。まあ、もう一度やってみましょうか」


そう提案してくるエレン。


しかたないとそう思うが、言われるがままにまた水晶玉に手を伸ばす。


が、俺の手が近づくほどに、水晶玉の輝きと振動が強くなり……すると、バキンッ。


水晶玉が砕けた。


「は?」

「は?」


エレンと俺の声が重なった。


「……割れたんですけど?」


しばしの沈黙の後、俺はそんなことを言った。


「そう……みたいですね」


するとエレンはやはり信じられないように目を大きく見開く。


「えっと。結果はどうなってます?」


「そう聞かれてもね。実際はこういうの、水晶玉が割れるケースなんて見たことないからわかりませんね」


そうか。そうだよな。


やっぱ触る前に嫌な予感がしたんだね。

その嫌な予感ってこれだったのか。


「まあ、一応予備は在庫にありますが、ちょっとそれを取ってきますね。さっきの水晶玉ってもう何年も使っているし、不具合だった可能性もありますね」


「そうかそうか。じゃあ待ちしております」


というやり取りを交わすと、エレンはまたカウンターの後ろにあるドアに入る。

そして少し経ってから、さっきと似たような水晶玉を持って戻ってくる。


「はい。新品未使用の水晶玉を持ってきました。新品ですから、壊れることはないでしょね。こっちに触ってみてください」


全く前のと変わらない水晶玉だな。

まあでも、新品だから安心かな。


そう考えて俺は手を伸ばす……

だが……。


前のと同じように危険そうに光り出しながら振動し始める。

俺はそれを見て素早く手を引っ込める。


エレンも焦り始めたが、俺が手を引っ込むのを見て安堵の溜息をした。


「やっぱり触らない方がいいと思いますね」


俺の言葉に、エレンは納得したか頷いた。


「これは判定不能ってことですね。まあでも、魔力量が多いってことがわかりました。属性を知らないのが残念ですけど」


あ、属性なら俺知ってますよ?


言っても信じてくれないと思うけど。


ややあって。


「それで、次の試験ですけど」


と、エレンは語り出す。


「そういえば模擬戦でしたっけ?」

「あ、うん、そうですね。模擬戦試験はギルドの裏にある訓練場で行われます。カエデさんの模擬戦相手にボランティアした冒険者がもう待っていますので、急いでそちらへと向かいましょう」


そう、エレンは言うと、俺を招いているかのように「こっちこっち」と手を振る。


彼女の後につき、外へ出る俺たち。


武器とか用意してないけど、大丈夫かな。


「そう言えば、ちゃんと武器持ってきてますか?」


とか考えたら、エレンは急にそんなことを言った。


「持ってきてないんですが、必要ですか?」


俺は正直に答えると、エレンは呆れたような顔をする。


「魔法使いでしょ? 魔法を使うには杖が必要っていうのが常識ですけど? 」


「そうか? 俺は普通に杖を使わずに使ってるんですが、魔法を?」


そう言うと、エレンは諦めたかのように溜息をついた。


「まあまあ、杖がなくても魔法がまだ使えるのならば、それはそれでいいんですが。それより、今回の試験を説明しますので耳を澄まして聞いてください」


そう言うと、真剣な顔になるエレン。

彼女のその切り替わりを見て、俺も真剣になる。


「あそこに立っている人物が見えますでしょか?」


そう言うと、エレンはグランドのど真ん中に佇んでいる人に指差す。


「彼の名前はジャック。見かけによらずA級の冒険者です。職業は剣士で、得意な武器は短刀(ショートソード)。リーチがあまり無いため、圧倒的な素早さでその欠点を補います。スキルもあまり使わないからパーティーのメンバー以外誰も彼の本気を知りません」


なかなか強そうな人だな。


彼を見て、とりあえず【鑑定】を使ってジャックのステータスを見ることにした。

─────────────────

ジャック Lv 40 職業:剣士、冒険者


性別 男性

年齢 20歳

種族 人間


ランク:A


体力 1000/1000

魔力 300/300

STR:50

INT:30

AGI:75

DEX:80


スキル:

【表示する】

─────────────────


レベル40か?

なかなか高いな。


スキルも【表示する】になっている。

スキルをいっぱい持っているってわけか。


しばらく彼のステータスを見ると、エレンさんが話し始める。


「この試験はカエデさんの戦闘能力を判定する為の模擬戦となります。反射神経、適応力、生存本能など基本、冒険者が最も必要な資格を持っているかどうかを確かめる為な試験です。正直に言いますが、カエデさんはジャックさんに勝てないと思います。しかし、魔物によるどんどん上昇していく死亡率のせいで、ギルドマスターはこれが必要となさっています。カエデさんは自分の武器を持っていませんので準備が出来たら、あそこからトレーニング用の武器を選んで、グランドに来ってください。審判はわたしがやります」


と、それだけを言うと、ジャックの元へと歩き出すエレン。

そして取り残された俺。


このジャックに勝てないって?


まあまあ。そりゃ思うでしょ?


だって、このジャックよりレベルの高いドラゴンを1発で仕留めたとこをエレンが目撃してないから。


そんな魔法を敵でもない相手に対して使わないけどな。

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