第2章

いよいよ冒険者試験!と、その前に

翌日。


俺は冒険者ギルドに来た。


両開き扉を潜ると、お酒の匂いが鼻に侵入してくる。

相変わらず騒々しいな、ここ。


俺はカウンターに近づくと昨日受付をしてくれたエレンさんは何やらの書き物をやっている。


俺の存在にまだ気づいてなさそう。

むしろかなり集中しているように見える。


声を掛けるべきか?

いやでも、大事な書類だったらできれば迷惑をかけたくないよな。


と、そんなことを思っていると、やっと俺の存在に気づいたか、頭を上げてこっちに視線をやる。


「…………」

「…………」


二人の間、沈黙が続いた。


き、気まずいな。

これなんなんだ?


エレンさんは今、凄い不機嫌そうな顔をしている。

怒っているよな?


めっちゃ睨みつけられているんだけど?


これはこれは…まあ。

と、とりあえず謝罪しとこ。


「えっと…エレン、さん」

「……………シカト」


と、彼女の名前を言ったとき、エレンは拗ねているかのように頬を膨らませて目を逸らす。

ってかシカトを言わなくていいよ!


お、おい。


「ちょ、ちょっとエレンさん」

「…………………」


無視かよ!


こ、これはあれか?

いわゆる「だんまり戦術」と呼ばれるやつか?


性格悪っ。

別に、あのとき今日中に戻るって約束したわけじゃないけど。


いやでも1時間に戻るって確かに言ったな。


言ったけど、約束してない。

なんで拗ねているんだ?


このまま冒険者試験受けられないんですけど?

こりゃどうすりゃいいんだ?


やっぱ謝らないとな。


で、でも、普通の謝罪だと許されない気がするね。

もしかして、あの「技」を使わなあかんっていうわけか?


けれど、こんなに人がたくさん集まっている場でやるのってあんま気に食わないよな。


恥ずかしいし。


「エ…レンさん? おい、エレンさん?」


しかしどんだけ名前を呼んでも返事をしてくれない。

あとやっぱエレンの斡旋がないと買取できひんな。


まあ、別に返事しなくてもいいか。


とりあえず、謝ろう。


「えっと。昨日はすいませんでした、エレンさん。本当は1時間以内に戻るつもりでしたが、魔物を倒している中、時間の感覚を失ったみたい。そして気づいたらもう夜になろうとしていた頃でした。ですから、」


と、そこで、俺は頭を下げる。


「すいませんでした!!」


と、再び謝罪を言う。


マジでなんでこんなことをやらきゃいけないんだ。

これはもしかしてあれか?

女心に関することか?


言うことを守らなかったから怒っているわけ?


まあ、そんなふうに考えると、やっぱ今回の悪人役は俺だったみたい。


しばしの沈黙の後、エレンさんは溜息をついた。


「はぁ〜。わかりましたよ」


そしてやっと返事してくれた。


頭を上げ、エレンに視線をやるが、ほんのり冷たさがまだ残っているみたい。


まだ怒ってんのか?


まあでも、これでやっと冒険者試験をうけるようになったかな。


「でも、あとでちゃんと埋め合わせをしないとね」


あ、お祝いするのが少し早かったみたい。


埋め合わせって?

なんのこと?


夫婦ごっこか、これ?

いや!


余計なこと考えないでよ、俺。


「はい。わかりました」


と、それだけを言うと、エレンは微笑む。


「よろしい」


と、そんなことを言うと、体の緊張を解かす。


よかった。

機嫌がよくなったみたい。


「さて、必要なエリスを集めましたのかしら」


ビジネスモードに切り替えるエレンだった。


マジで女ってわかんないな。


「あ、はい。一応、魔石は30000個集めたんです」

「3、30000個?! 」


エレンさんは驚いているようだ。

まあ、そりゃ驚くだろ。


もし俺がエレンの立場にいたら同じことをやったかもしれない。


「はい」

「見せてちょうだい」

「わかりました」


仰せのままに、俺はインベントリーを開いて魔石30000個をクリックする。


─────────────────

魔石X30000

引き下ろします?


▶はい

いいえ


─────────────────


するとこういう画面が現れた。

「はい」を押してみると、もうひとつの画面が現れた。


─────────────────

何個を引き下ろします?


【0】↕30000


決定

─────────────────


とりあえず矢印を1回下に下げよう。

これをやることによって一気に30000個まで数字が行けた。


そのまま決定を押すと、俺の手に魔石30000個が入っている袋が顕現する。

その袋をカウンターに置いた。


ずっと見ていたエレンは言うまでもなく、呆気に取られた。


「どうやって」


と、その一言だけを言うエレン。


「魔法です」


その質問に俺はそれを答えた。

するとエレンは否定しているかのように首を振る。


「嘘ですね。そんなことができる魔法、知りませんので」


いや、実際は存在するよ、そんな魔法。


まあでも、説明するのってあれだし。


「そんなことより袋、開けないんですか?」


そう、俺が言うと、一瞬何言っているのかこいつ、と言わんばかりの顔をするエレン。

その次の瞬間、カウンターにある袋を思い出したか、「あ、そうかそうか」と、そんなことを呟いて、素早く袋を開けると、中身を見ていたらさらに顔の色が青白くなった。


「本当に、魔石30000個が入っている! ってことは本当に、カエデさんがたった1日で30000体の魔物を倒しましたか!! あんた何者ですか?」


エレンがそうデカい声で言うと、冒険者ギルドにいる冒険者達はざわめき始める。


「は? たった1日で30000体の魔物?」

「そんなわけあるか? あいつはきっとなんかずるしただろう?」

「そうかもしれないなぁ。あいつ、冒険者でもねぇし」

「でも何をやったのか知らないからそっちが問題なんだよね」


などなど。


でもそいつらを無視して、まだ信じなさそうな顔で見つめてくるエレンの質問に答えた。


「えっと、俺は人間ですよ?」


あらぁ。

なんでそんな目で俺を見ているんだ、エレンさん?


しばしの沈黙の後、エレンは溜息をした。


「何をしたのか私にはわかりませんが、これ全部買取したいですか?」

「あ、はい。今日冒険者試験を受ける予定ですから受験料をカバーする金額をとってもいいですよ」


俺が言うと、顔色がほんの少しよくなったエレンは頷いた。


「わかりました。それじゃ、少々お待ち下さい」


と、それだけを言い残すと、カウンターの後ろにある部屋に入ったエレン。

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