冒険者試験の始まり(あっという間に終わったんだけど?)(2)
さてと、武器を選ぼうか。
そう決めると、トレーニング用の武器が置いてあるところまで足を運ぶ。
武器の種類は幾つかある。
木剣に弓矢、槍に棒。
うん。
確かに武器が多いが、使いたいのがもう決まっている。
迷わずに俺は木剣を手に取った。
軽い。
しばらく素振りをすると、満足げに頷いた。
「よし、これに決まった」
と、武器を選ぶと、グランドに移動する。
「武器に決めましたか?」
近づいているのを見かけたか、エレンはこっちに訝しげな視線を向きながら言う。
彼女の言葉に、俺は頷くと、手にある武器を彼女に見せる。
「あ、木剣ですね」
「はい……」
と、そこまで言う。
「こんにちは。君がカエデくんですね。エレンちゃんからいろいろ聞きましたよ。僕はジャックと言います」
それを言ってきたのは、俺の模擬戦相手であるジャック。
ジャックは恭しく頭を下げながら自己紹介をしてくる。
なんかちょっと高慢ちきな口調で言ったけど、気のせいかな。
「どうも。楓と言います。対戦相手になってくれてありがとうございした」
そう言うと、ジャックは「は!は!は!」と大声で笑い出す。
何この人?
「いえいえ。君と戯れ合うことにしたのは、こちらのラブリーエレンちゃんがそう僕に頼んだからですよ。君からのお礼なんて要りませんね」
と、イケメンらしく微笑みかけながら言うジャック。
…………。
この人、嫌いかもしれない。
目線をエレンに向けると、彼女はソワソワしている。
顔も真っ赤っかだ。
それを見た俺は困惑していた。
お前ら付き合ってんのか?
「ジャックく……さん。そう言わないでちょうだい」
え?いま「くん」って言いかけなかったっけ。
怪しいぞ。
それにジャックも気づいたようで。
今あいつ、めっちゃニコニコしてるから。
「真実を言っているだけですよ、僕のラブリーチャーミングエレンちゃん! は!は!は!」
いやぁ。
見るのが痛いからやめてくださいよ、マジで。
ややあって。
しばらく二人の話し合いを盗み聞きすると、やっと本番に入った。
「この勝負は、カエデさんとジャックさんが行うものです」
強く左手で木剣を握りしめ、俺は相手のジャックを睨みつける。
真剣で戦うみたい。
「重傷、殺害、断切などが禁止とされています」
まあでも、エレンによると、この模擬戦は基本、本戦で戦えるかどうかを確かめる為なものだ。
それを考えると、相手が真剣を使うのはまあまあ理解はできる。
納得はできてないけど。
「どちら側が戦闘不能になるまで、またはどちら側が降伏するまで勝負は続きます」
正直に言って、剣を振るったことがない。
しかし俺には【超級剣術】というスキルがある。
「準備はできましたか?」
イマイチそのスキルの使い方がわからないけど、剣術だけの戦いで発揮出来るのかもしれない。
と、そんなこと考えると、エレンの声が鳴り響いた。
「それでは、戦闘、開始!」
そう、エレンが言うと、手を振り下ろす。
そしてそれを合図に、重心を低くして、アニメで見た事のある構えを取る俺。
俺たちの間に、沈黙が続いた。
ジャックを見つめると、構えを取っていないことに気づいた。
これはあれか。
相手が完全に俺を舐めているってことだな。
明らかに。
あとその笑みは一体なんなんだ?
強者の余裕って感じか?
なるほど。
相手はそういうタイプの人だったのか。
全力を出そうか?
いや、全力を出せばこいつは確実に死ぬ。
でもこの勝負に負けるにはいかない。
ほんのちょっとだけ見せてやろうか。
うん、ほんのちょっとだけ。
と、そんなことを決めると、体内に流れる魔力で左手に持っている木剣を強化する。
【魔力武器強化】を施した。
一定の魔力流入を維持することで、武器を魔力で強化することができる。
これをすることによって強化された武器は通常より強くなる。
つまりこの木剣は、真剣に等しいレベルの耐久力や硬さを持っているのだ。
息を吸い込んで、吐き出す。
そして、
「…………な?!?!」
地面を蹴って、ジャックとの距離を一瞬で縮小する。
スキルは【超加速】だ。
体を限界まで追い込み、凄まじい速さで移動させるスキル。
低い姿勢で懐に侵入する俺。
驚きを禁じ得ず、ジャックは変な声を出したが、俺はそれを気にせず、逆手に持っている木剣を喉元目掛けて左方向から右垂直方向へと斬り払う。
この勢いのままだと、喉元を当てていたら彼が死ぬのだろ。
と、そう思った瞬間。
なんとか武器を上げて、ジャックは俺の攻撃を防ぐことに……
成功しなかった。
魔力で武器を強化しているからか、俺の木剣が彼の短刀(ショートソード)を真っ二つに折れた。
その勢いのまま体を180度回転させ、俺は彼の胸目かけて回し蹴りを繰り出す。
「ばきゃ!」
という音とともに彼が吹き飛ばされて、後ろにある壁に衝突。
………すると静まり返った、冒険者ギルドの裏の訓練場。
エレンは急いでジャックの元へとかけ出して、彼の様子を確認する。
そして確認してからまた立ち上がり、元のところに戻る。
彼女の動作が妙にぎこちない。
どうしてかな?
と、そう自問すると彼女の顔を見る。
一見して明らかに驚愕している。
「せ……戦闘終了。し…勝者、カエデさん」
はぁ?
つまりあれか。
あいつ意識を失ったのか?
あっという間に終わったんだけど?
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