第2話

どこかで泣いてる声がする。

男と女1人ずつ声が聞こえる。

暗くてよく見えないから近くまで寄ってみて驚いた。


『なんでこんな事になるんだ…』


お父さんが頭を抱えて泣いている。

お母さんは怯えた様子で私を見て静かに泣いていた。

これは夢だ、夢って分かってるけど…。

お父さんの口が動く。


『化け物っ…!』


やめて、聞きたくないよ…お父さん…。

自分の耳を塞いでも何故か聞こえてくる声に心が痛くなる。


『お前は、人の皮を被った化け物だ!』


それ以上はもう…


「お願い…もうやめて…」


これ以上傷つきたくないよ…。

ふと優しい感触に気づいた。

それは両頬を暖かく包んでいて優しく声をかけていた。


「大丈夫。怖いことは何もない。」


頬を包んでくれていた手は瞼をそっと触れ横になぞっていく。

目を開けるとあの源九郎義経みなもとのくろうよしつねと言われる人が目の前にいた。


「えっと…。」

「起きたか、泣くほど怖い夢を見たのだな。うなされていたぞ。」


そう言いつつ私を起こしてくれた。


「あのここは一体どこですか?」

「ここは俺の屋敷だ。」

「あ、えっと…今何年ですか?」

「今か?今は寿永じゅえい三年だが、それがどうした?」


私は唖然あぜんとする。

最初会った時から違和感があったけどまさか自分がタイムスリップするとは。

はっとして気づいた。

あの時に『この時代から消えたい』って言ったから飛ばされた?

寿永とか言われてもわからなかったけど、でもこの人源って言ってたよね、ってことは平安時代?

1人で考え込んでいると不意に肩をつつかれた。


「お主、俺の声が聞こえぬのか?」


ムスッとした表情でこちらを見ている。


「あ、なんでしょうか…。」

「最初に会った時は普通に話していたのに何故今は敬語を使うんだ?敬語なんて堅苦しい!普通に話せ。」


確かに最初は普通に話してたけどそれは命の危機が迫っていたからであって…。

でも、この人はあの力を使っても普通に接してくれる。


「えっと…うん。わかった。」

「それでいい。で、お主名はなんと言う。」

「私は秋澄紗羅あきすみさら。あなたは?」

「俺を知らない者がいたとは驚いた、まぁいい俺は源九郎義経、義経と呼ぶと言い。」


不意に義経さんが顔を近づける。


「すまない、おなごの顔に傷をつけた…」


そう言い義経さんの細い指先がそっと頬を撫でる。


「だ、大丈夫、これくらいの傷大したことないから。」


驚きのあまり義経さんから後ずさる。


「そんな事より義経さんは怖くないの?私あなたに力を使ったのに…」


一瞬、目を伏せたが私に向き直る。

まだ会ったばかりだけど、今の私が義経さんにどう見えるか怖いけど知りたい…。


「確かに驚きもしたし、とてつもない力を直接体で感じたが…怖いなんて思ってなどいない、むしろ俺は優しく感じたな。」

「え、優しく?」

「あぁ、あれだけの力を持ちながら俺を直ぐに殺そうとはしなかったではないか。この乱世じゃ生きるか死ぬかだからな。」


ふっと笑いながら言うもどこか悲しい目をするのはなんでだろ…

けど、この人は私の事を優しいと言ってくれた。

初めてだ優しいなんて言葉を使ってくれた人は…。


「それでなお主に提案がある。」

「うん」

「今は乱世、お主のその力を利用しようと近づくやからも出てくるかもしれぬ。」


義経さんがすっと何かを私に渡してきた。


「これは…」


金色をベースに紅葉が散りばめられた扇だ。

綺麗…だけどなんで扇なんだろ。


「それを持て、そして言霊使い《ことだまつかい》の事を秘密にし白拍子しらびょうしとして俺のそばで舞ってはくれないか?」


白拍子…?義経さんのそばで…?

必要に頭を整頓しようとしたがなかなか整理ができない。

混乱する頭を抱えていると義経さんがれったそうに言い放った。


「お主の力を知った以上悪い輩が近ずかぬ様に俺がお主を守ってやる。」

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言ノ葉彩り おるだ @oruda

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