第39話 アダム、王都に立つ


 


(なんだこりゃ……?)


 大国エデンの王都の有り様に俺は思わず絶句した。


「何これ……」


 イブは口元に手を当て、大きな瞳をさらに見開いている。それもそのはず、王都は3日前からは想像もできないほど荒れ果てている。


 瓦礫と死体の山。


(さすがに、これは……)


 俺は絶対感知を広範囲に広げ、状況を整理しようと試みるが、数十万人ほどいたはずの反応は数万人程度になっているようだった。


「………神様……『予言』は……?」


 イブはうわ言のように呟いた。確かにそうだ……。こんな事になってるなんて、あのクソ女神は言っていなかった。


(クソ女神が!! もう少し遅かったら全滅だぞ?)


 俺は心の中で悪態を吐くが、深いため息を吐く。これはなかなかやばそうだ。俺以外にこの場をどうにか出来そうなやつなどいないだろう……。


「魔王でも来てんのか……?」


「アダム様!! それは本当ですか?」


「いや、知らんけど……。とりあえず、助けてやって来る。カーラはイブを守ってろ。アイラは竜化してカーラとイブを守れ」


「わかったのだー!!」


「しょ、承知しました!!」


 俺はそう言った2人を確認し、元凶の元に向かおうとすると、イブが叫ぶ。


「アダム!!」


 流石の俺も慌てている状況だ。イブの大声にそちらに視線を向ける。


「お願い……。必ず帰って来て……」


 イブはうるうると瞳に涙を溜めているが、流れないよう懸命に耐えているようだった。


「ああ。終わったら、ゆっくりアクアに行こうな?」


「……ぅん……」


「心配するな。王宮で良い子に待ってな? すぐ戻る」


 俺の言葉にイブはさらに瞳に涙を溜めたが、唇を噛み締め、跪いた。


「お待ちしています……。アダム・エバーソン様。どうか王都を……この国をお救いして下さい……」


 イブは遂に涙をこぼしながら笑顔を作った。俺は跪いたイブの頭を撫でてやると、イブはさらに涙を加速させたが、綺麗な笑みは崩さなかった。


 その様子をポーッと眺めているバカ2人に声をかける。


「しっかりとイブを守ったら褒美をやる。死ぬ気で守れよ?」


「は、はい!」  とカーラ。


「やったのだーー!!」  とアイラ。


 鼻で笑いながら、イブを見ると何だかそわそわしているように見える。「ん?」と首を傾げ、未だ跪いているイブに声をかける。


「どうした?」


「わ、私にご褒美は?」


 イブはモジモジとしている。


「何か欲しいものでもあるのか?」


「……ア、アダムが欲しい……」


 イブはうるうるの瞳を上目遣いで、小さな声で言った。衝撃的な発言にバクンッと脈打つ心臓。自分でも自覚してしまうほど顔に熱が集まってくる。


(イブめ……。やってくれる……)


 盛大に俺の死亡フラグを立てたイブに唇を噛みながら悶絶していると、カーラが声を上げる。


「わ、私もアダム様の寵愛を!!」


 顔を真っ赤に染めながら言うカーラに先程の熱が冷めて行く。


(このバカ……せっかくの高揚を……)


「アイラもマスターに愛してもらいたいのだー!!」


 バカ竜もバカ貴族に続く。俺はバカ2人を放置し、はぁ〜と深いため息を吐いてイブに顔を寄せ、キスをした。


「いい子に待ってろ。このバカ共は気にするな」


 自分でも恥ずかしくて死にそうになりながらも、顔を見られなくない俺は、「避難場所」として元凶の元に転移した。




 ふっと消えたアダムを、1人は顔を真っ赤にして王都などどうでもいい!と思考を遮断しながら、1人は羨ましそうに自分の分厚い唇を噛み締めながら、1人は「キスしたのだーー!!」と呑気に叫びながら、曇天の王都の空の下、赤髪を見送った。

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