第30話 俺が国賊!?(笑)




 森を抜け、山岳地帯に入ると、イブとアイラは山からの景色に感動していた。


「アイラは空飛んでたんだから別に普通だろ?」


 と俺が呆れたように言うと、


「イブとマスターと見るから、また違って見えるのだー!」


 とキャッキャと騒いでいた。イブもそんなアイラを微笑ましく見守りながらも、


「アダム! 綺麗! 山の緑は森の中とは違うね!」


 と同じようにはしゃいでいた。確かに、かなりの絶景だ。下には森が広がり、奥には荒野が微かに見える。緑溢れる山岳地帯。こんなに穏やかな気持ちで、のんびりと足を進めているからこその絶景だ。


(馬で来てよかったな……)


 時空を操作したり、瞬間移動や転移などでは決して味わえない、のんびりとした旅ならではの醍醐味を満喫しながら、歩みを進める。


 商人や冒険者達も通る山岳路のはずだが人の姿は異様に少なく、これは宿屋も貸し切りに近いかもしれないな……と考えていると、イブとアイラは沈む夕陽に、「うわぁ〜〜」っと感嘆の声を上げており、俺はそんな2人を見ながら「ふふっ」と笑みを溢した。



 夕方と夜の丁度中間の頃、目的地が顔を出した。想像していたよりも馬車が多く、なかなか繁盛してくる店を見て舌打ちをした。


 聞けば、「下の森でドラゴンが出たらしい」と、皆が山を下るのを拒否したという話しだった。


 この宿が繁盛している理由がアイラだとわかり、呆れてアイラを見たが、本人は楽しそうにキョロキョロと辺りを見渡しているだけで、全く悪びれた様子はなく、俺は深いため息を吐いた。




 ヨルの言っていたように肉料理は絶品で、鹿や熊の新鮮な肉料理を堪能し、気分を良くした俺は、結局麦酒を飲んでしまい、何だかヨルの言う通りにしているようで気に食わなかったが、美味い酒と料理には何の罪もない!と、2日目の夜を堪能していた。


 人が多いだけあり、宿屋の食事処はたくさんの商人や冒険者達が色んな話しをしていて、その中に聞き捨てならない話しがあり、俺は眉間に皺を寄せた。



「勇者様が四天王を討伐したばかりなのに、パーティーの1人が離脱したらしいぞ?」


「ソイツは四天王の迫力に何もせずに、ビビりまくってたらしいじゃねぇか」


「大方、怖くて逃げ出したんだろうぜ! ハハッ」


 などと、横のテーブルで麦酒を煽りながらご機嫌の冒険者パーティーらしい5人が大声で話していたのだ。


 せっかくのいい気分を台無しにされて、ムカついたが、別に好きに言わせておけばいいか……と思っていると、イブが顔を真っ赤にして立ち上がった。


(おいおい……)


 と苦笑する俺を無視し、イブは隣のテーブルに歩みを進め、


「無礼者! よく知りもしないで……。憶測で物を言うのを辞めなさい!!」


 と見るからにEランク冒険者パーティーに叫んだ。アイラは「何事だ?」とイブの方を見ていたが、手は止めどなく動いており、パンパンの口の中に、さらに料理を掻き込んでいたのを見て、(かわいい容姿が台無しだな)と鼻で笑った。


「なんだ〜? 姉ちゃん? おっ。コイツはかなりの上玉だぜ?」


「何だ〜!? 本当だ!! こりゃべっぴんだぜ!! じゃあ、ねえちゃんが夜通し、話しを聞かせてくれよ?」


 と下品な笑顔でイブに近寄ろとしたバカに、俺は立ち上がった。


「バカな事を言わないで!! なぜそのような話しになっているのです!!??」


 イブは全く引かず、先程の俺への発言に憤りのままに声を荒げており、俺が立ち上がった事には気づいていないようだった。


「ククッ。じゃあ、その続きは俺の部屋で聞かせてやるよ!」


 と剣士風の巨体を持つ冒険者が言いながら、イブのフードに手をかけようとする。俺はその汚い手をとり、身体強化した手で強く握ってやると、


「ぐっ、がぁっ、あああああー!」


 と悲鳴を上げる。他のテーブルの人達も「何事だ!?」とこちらに注意を向けているようだ。俺はイブに触れようとしたバカの手を離し、


「汚い手で触るな……このバカが」


 と低い声で呟いたが、


「あ、あぁ……お、俺の……俺の手があああー!!」


 とぐちゃぐちゃになった自分の手を見ながら、泣き喚いており、俺の言葉は聞こえていないようだった。


 周囲はざわつき始め、「ケンカだ!! やれやれ〜!!」や「店の人を呼んでくれー!!」などと、ヤジや悲鳴が食事処に響く。


 俺は周囲の状況など放っておき、イブの頭にぽんッと手を置き、


「こんなバカ、ほっとけ」


 と言うと、


「だって……」


 と顔を染めながら少し泣きそうになっていた。まぁ俺がバカにされて怒ったようだから悪い気はしない。俺を思っての行動だろうが、今後このような事がないように気をつけないとな……と思った。


「おい! さっさと、このバカを連れていけ。文句があるなら外に出ろ」


「な、なんだ! お前は! ひゃぁっ……その手……」


 残りのバカが未だ泣き叫んでいる男の手を見て絶句し、顔を青くしている。まぁ、おそらく剣は一生握れない事は確かだが、イブに触れようとしたんだから自業自得だ。


「そう言えば、なんで勇者パーティーから1人抜けた事を知っている?」


 俺は思い出したように青褪めている4人に問いかける。まだ丸一日程度しか経っていないはずなのに、こんな末端の冒険者パーティーが「追放」を知っていることを疑問に思ったのだ。


「く、国中で話題になっている……。アダム・エバーソンは王命と『予言』に背き、勝手に勇者パーティーを離脱した国賊だって……」


「国賊……? 勝手に……?」


「何をバカな事を!!」


 イブはまた声を荒げる。俺が国賊だと……? 笑わせてくれる。どこでどのようにねじ曲がっているんだか……。俺は勝手にパーティーを離れたわけではない。「追放」されたのだ。


 俺はイブを制してまた4人に声をかける。


「どういう事だ?」


「国王様が『お触れ』を出したんだ。俺達も詳しくは知らねぇ……。アダムっていう赤髪が勇者達に暴言を吐いて、国王の許しなく、勝手に去ったって……」


「……はっ?」


「ア、アダムってやつは、いままで何もしてなかったらしいんだ。いつも後ろで震えているだけで……。それを問いただしたら、暴言を吐いて勝手に消えたって……。ほ、本当だ! 俺達はそう聞いただけだ! 他には何も知らねぇ!! 勘弁してくれ……」


 顔を真っ青にして、怯え切った男が叫び散らす。ワナワナと震えているイブと、未だ「ん?」とキョトン顔でバクバクと飯を食べているアイラ。眉間に皺を寄せる俺。


(どう言うことだ……? 俺は勝手に消えたわけではない。『追放』されたはずだ。アレクサンダーがお触れを出した……? ってか国王の許しがいるのか? 確かに貰った覚えはないが、それで俺が『国賊』……? 冗談も休み休み言って欲しいものだ)


 辺りの客は手を潰した男を見て、押し黙り、周囲にはその男の咽び泣く声だけが、響いている。



「こ、これは何事ですか!!??」


 沈黙を破ったのは店の亭主で、慌てて駆け寄ってきた。俺はポケットから金貨を鷲掴みし、亭主に渡して、


「迷惑をかけたな」


 と言って、イブとアイラを連れて泊まる部屋へ向かった。


「まだ食べたいのだー!!」


 と叫ぶアイラを片手で抱えながら、


(何か面倒なことになってるな……)


 と未だプリプリと怒っているイブの手を引き、深いため息を吐いた。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る