第26話 命名と褒賞
とりあえず、4人で旅をする事になったが、冷静に考えたら随分とイカれたメンバーだな……と苦笑する。
「予言の巫女」のイブ、「アースドラゴン」の少女、「貴族嫌いの伯爵令嬢」のカーラ、そして「勇者パーティーを追放」された俺。
妙な組み合わせだが、この先大丈夫だろうか……と不安を抱きながらも、すっかり仲良くなった3人を眺めながら(この先について話さないとな……)と重い腰を上げた。
「俺とイブはアクアに向かっている。ええーと……アース……ドラゴン……。……お前、名前は?」
俺はドラゴン少女に声をかけると、少女は首を傾げて、キョトンとしている。
「ドラゴンちゃん、名前ないの?」
イブは少女の顔を覗き込むと、少女は「わかんない……」と少し寂しそうにしている。カーラも少女を心配そうに覗き込んでいる。
(め、めんどくさい……)
と俺はため息を吐きながら、名前がないとこの先不便だし、仕方がないと割り切り、ドラゴン少女の名前を考える。
(地龍……アースドラゴン……。チア? 何か変だな。アース? ないな。イブ、カーラ、アダムか……。うぅーん……まぁ適当でいいか!)
俺はお得意の開き直り……と言うか、もう名前を考えるのが面倒になってしまったので、皆の名前から一文字ずつとることにした。
「お前の名前は『アイラ』だ! これからはアイラって名乗れ!」
「アイラ……我の名前……」
ドラゴン少女は考え込むように反芻しており、適当とは言え、(俺が付けた名前だぞ?)と反応を見せない少女に苛立つ。
「……嫌なら自分で考えろ」
「……マスター!! 嬉しいのだ!! 我は『アイラ』なのだーー!!」
そう叫んでドラゴン少女、もとい、アイラはコートの中で両手を上げて嬉しそうに笑った。
「アイラ! よろしくね!」
「アイラ……殿、よろしくお願いする」
イブとカーラも気に入ったようでよかった。アイラは、相当嬉しかったのか、
「マスター!! 本当にありがとうなのだー!!」
と少女によく似合う、屈託のない笑顔で喜んでいた。まぁこんだけ喜んでくれるのなら、もっとしっかり考えればよかったかな? と思ったが、まぁ「アイラ」は悪くないだろう……とまた開き直った。
そこから、これからの方針を決めた。とりあえずカーラは護衛達を領地に連れ帰ってから、ノワールで合流することとなり、俺達は先に宿に向かう事になった。
アイラは「棲家」を求める旅を、カーラはイブの護衛をしながら、この国の都市や人を見て、「自分にとっての『貴族』としての在り方」を探す旅をする事になったようだ。
「貴族を潰すなら、少しくらい手を貸してやってもいいぞ?」
と俺が冗談で言ったら、カーラは瞳を輝かし、「それは本当ですか!! アダム様!!」と声を張り上げていて、(コイツ、マジで貴族嫌いなんだな……)と苦笑した。その理由までは聞かなかったが、思ったよりも根が深そうだと思った。
俺とイブは当初の予定通り、アクアへの旅だ。俺は「温泉」や美しい街並みとスローライフを送れる都市を求めて。イブは本当かどうかは、まだわからないが、「予言」の解決を求めて……。
みんなで話している時に、イブは少し元気がなさそうにしていたので、気になり声をかけると、
「大丈夫! 本当に冒険者になったみたいで嬉しいよ? アダムと2人旅がよかったけど、みんなで楽しくやって行くのも楽しそう!! アダム。連れてきてくれてありがとうね?」
とイブはうっとりするほど美しい微笑みで首を傾げた。森に差し込む日差しが綺麗な黒髪と淡褐色の瞳を輝かせていて、俺は思わず息を飲んだ。
「たまにはアイラをカーラに任せて、2人で散歩でもするか?」と言うとイブは「えぇ!! それ最高だね?」と、顔を真っ赤になりながらも、嬉しそうに笑っていたのでひと安心した。
俺達は「護衛を送り届けたら、『閃光』で向かいます!!」と言っていたカーラととりあえず別れ、ヨル地図が示す、麦酒と肉料理が美味しい宿屋を目指して歩みを進めた。
カーラがイブの馬を乗って行ったので、俺が創造した馬にアイラとイブと俺、3人を乗せた馬はトコトコと宿屋へと足を進めた。
すぐに眠ってしまったアイラを確認し、俺は我慢していた褒賞を貰おうと悪い顔をした。
「イブ?」
「ん? どうしたの?」
今は、イブは正面を向いて座っているので顔を確認する事はできないが、俺の方に少し振り返るイブの甘い香りと密着した背中とお尻に俺の理性は限界だ。
「アイラは寝てるだろ? 褒賞は?」
「えっ!! ぇえっ……?」
イブはアイラを起こさないように大声を出しそうになった口を抑えているようだ。耳まで赤くなるイブを見ながら、俺の心拍数は確実に上昇してくる。
「イブ?」
俺は赤くなった耳にわざと唇が触れそうになるほど近くまで顔を寄せ呟くと、イブは「んっ!」とびっくりしたような声を出した。
(堪らん……。これは……)
理性が飛びそうになるのは初めてだ。衝動的に「誰か」を求める事がなかっただけに、この特殊な感情に戸惑う事しかできない。
「ア、アダム……耳は……辞めて……」
イブの顔が見えないのは残念すぎる……。もう馬から降りてしまおうかと思ったが、アイラが確実に起きるだろうとその考えを抑え込める。
「……で? 褒賞は……?」
俺はまたイブの耳元で呟く。ビクッと震えるイブを抱きしめてしまいたい衝動に狩られる……。これ以上は俺が持ちそうにない……。
「わ、私は……。ア、アダム以外の男の人って興味ないの……」
イブは消え入りそうな小さい声で呟く。俺はその言葉が脳内を駆け巡り、何度も何度もリフレインする。
(俺以外の『お』の続き……。俺以外の男に興味がない……だ……と??)
それは俺が「神代スキル」を持っているからであって、それとこれは関係ないと言うことなのか!? それとも「神代スキル」は関係なく、言葉通りの「全異性」の中で俺にしか興味がないと言うことなのか!?
俺はバクバクと脈打つ心臓と、激しく熱くなる顔に、(顔を見られなくてよかった……)と心底思いながら絶句していると、イブが振り返りそうな気配がしたので、後ろから片手で強く抱きしめ、動きを封じた。
「……ア、アダム……?」
首筋まで赤くなるイブに俺の理性はもう限界だ。俺はイブの甘い香りに頭がぼーっとして、白いうなじに吸い込まれるように、唇を寄せる。
「んっ……!!」
イブは俺の息が首に当たったのか、驚いたような声を上げる。その声で完璧に俺の理性は飛んで行く。何の躊躇もなく、首筋に触れようと更に顔を寄せると、
「我はアイラなのだーーー!!」
と叫ぶ声が聞こえ、正気に戻る。
「ア、アイラ、お、起きたの……? お、おはよう」
イブはまだ首筋まで赤くしたまま、しどろもどろに言葉も発する。俺も慌ててイブのうなじから距離を取る。
「おはようなのだーー! んー? イブ、顔が赤いのだー!!」
アイラは無邪気に声を張り上げる。
「い、いや、ち、違うよ!! 何か熱くて!!」
イブは意味の分からない言い訳を叫びながらアワアワとしている。イブの顔は見えないはずなのに、イブの顔が想像できるのが何だか嬉しかった。
「マスター? イブの顔が赤いの……だ……?」
アイラはイブの肩口から俺の顔を見つめてくる。途切れ途切れの言葉に「ん?」とアイラを見つめると、
「マスターも顔が赤いのだーー!!」
とアイラが叫ぶ。(このガキ……)と眉間に皺を寄せ、アイラを睨むと、怯えたような表情になり、
「き、気のせいだったのだ……」
と弱々しく呟いたが、その言葉にイブはこちらを振り返る。真っ赤っかの顔にとろんとした潤んだ淡褐色の瞳。艶やか薄い唇。
想像していたよりも更に色っぽいイブの表情に完璧に「やられて」しまう。
もうすぐ森を抜け、山岳地帯に入る……。
目的の宿屋まではあと少しだ。
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