第9話 冒険者の街「アルム」へ
別に急いでいるわけでもないのでゆっくりと馬を歩かせた。森を抜け、沢山の人が行き交う街道に出たが、イブのオーラはやはり常人とは全く違い、俺と同じフードで頭まで隠しているはずだが、商人や冒険者達からの視線をビシバシ受けている。
イブを連れて歩くことに優越感なのか、はたまた所有欲なのか、複雑な心中に戸惑いを隠せない。別に俺の恋人という訳ではないが、周囲の人達がポーッとイブを眺めているのが気に食わない。
イブ本人は全く気にしていないようで、周囲をキョロキョロとしながら楽しそうにしている。
おそらく「予言の巫女」の移動はほとんどが馬車だっただろうし、護衛も山ほどいたのだろう。ゆっくりと景色を楽しむ余裕などこれまでの人生で無かったのかもしれない。
(仕方がないから、いろんな景色を見せてやろう)
と思いながらイブに声をかける。
「イブ、大丈夫か? 疲れてない?」
「う、うん! 大丈夫!」
イブは仄かに頬を染め、笑顔をみせる。
「疲れたら、すぐ言えよ?」
「ありがとう。アダム……世界って広いのね! 楽しいよ!」
「別にこの辺りはポツポツ茶屋があるだけの普通の街道だけどな……」
「いいえ、きっとあっちに見える荒野みたいな所からこんなに綺麗に整備された道を作って、何千、何万の人達の助けになってるんだよ? そこに見える傷んだ舗装も、誰かにとっては大切な思い出があるかもしれないじゃない? そうゆう事考えてると楽しいの!」
イブは本当に楽しそうに穏やかな笑みを浮かべながら、喋っている。イブはきっとどんな所でも楽しむ事ができるんだろうと思いながら、
(そんなイブを見てたら俺も楽しいかもな……)
とこれからの旅がいい物になる予感に胸が躍った。
「一緒に連れてきてくれてありがとう。アダム」
「……いや、別にする事もなかったから気にするな」
イブの妖艶な笑みに悶絶しながらも、赤くなっているであろう顔を隠すためイブから視線を外す。
道行く人達もイブの笑みを見ていたのか、顔を染め口を開いて固まっている。
(おい、あれは俺に向けた笑みだぞ?)
と苛立ち、「削除」してやろうか?と思った。これ以上イブを誰の目にも触れさせたくないと思いながら、(もう完璧にやられてんじゃん……)とイブに好意を抱いている事を自覚させられる。
「イブ、この道は人の目がありすぎる。ちょっと遠回りだけど、街道から少し外れた道から行こう」
「……ん? いいけど……。どうしたの?」
「いや、バレたら大変だろ?」
「う、うん。そうだね」
上手く誤魔化せたようで安心する。(他のやつがイブに見惚れてるのが気に食わない!)なんて言えるはずもない。
俺は馬に念話を送り、街道からそれ、整備されていない荒野へと歩みを進める。
人気がなくなった事を確認し、昼食がてら休憩しようと岩陰に入る。
「イブ、昼飯にしようか?」
「……あっ。うん! これはこれで良いものね! 草木はないけど、大きな岩山とか、遠くに見える大きい山とか! 何だか空が近いね?」
イブは荒野をキョロキョロと見渡し、ニコニコとしながら答えた。
「そうだな」
と言いながら馬から降りるのを支えるため、そっと手を差し出し、紅潮するイブに(かわいいやつめ……)と微笑んだ。
「……ありがとう。それにしても、本当にすごいね! ここ! 街道からそんなに離れてないのに、まるで別世界!!」
「ふっ、あぁ。この辺は整備されてないからな。それより昼は何食べたい?」
と満面の笑みを浮かべるイブに答えながら椅子や机を「創造」する。
「アダム。毎回、机とか椅子とか造ってくれないても大丈夫だよ? 私の事は冒険者仲間だと思って!」
キラッキラの淡褐色の瞳に、(憧れてたのね……)と納得する。俺は出したばかりの椅子などを「削除」し、岩に腰掛けると、イブも嬉しそうに隣にちょこんと腰掛けた。
(なんなんだ……。この可愛すぎるヤツは……)
と感涙しそうになるのを抑え、平静を装いながら、おにぎりとお茶を「創造」し、イブに手渡す。
「夜は適当な街に寄って、その街の有名な飯でも食べよう。いまはこれで我慢してくれ」
「うん! 全然大丈夫だよ? ありがとう! 夜までだと、どこの街になるのかな?」
「うぅーん、このまま行けば『アルム』かな? それなりに栄えてると思うけど……」
「アルムかぁー!! 冒険者が多いんだよね?」
「そうだな……」
俺はアルムにはイブを連れて行きたくないなと苦笑する。冒険者が多いだけあって、どいつも血の気が多いし、何か汗臭い気がする。前にも訪れた事もあるが……、何だかめんどくさいことにならないといいが……。
俺が「創造」して夜を明かしてもいいが、周りの目がなければ、俺はもう確実にイブに変な事をしてしまう。ある程度、他人の目がないと暴走してしまうだろう。
(これは色んな意味でタフな旅になりそうだ……)
と心の中で呟きながらも、何だか楽しい気分になるのはイブのおかげだろう。おにぎりを「美味しい!」と言いながらもぐもぐ食べているイブを見ながらそんな事を考えた。
食事を終え、また道を進む。始めは気のせいかと思っていたが、どうやら街道から後をつけられているようだ。
俺は深い深いため息を吐きつつ、万が一に備え警戒を強めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます