第6話


 アリスにマウントを取られた後は、彼女のリードでデートが進んだ。

 定番の服屋や純粋なアクセサリーショップなどを見て回り、どれが似合うとか、どれを着れば面白い恰好になるとかを話しながら笑いあった。

 本当に楽しい時間だったせいで、既に日は落ちる寸前。

 周りにも灯りが出てきて、俺らはどちらから言うでもなく宿屋へと進行を変えた。


 っつーか、28年間生きてきた中で初めて女の子とデートをしていた気がする。


「遅くなっちまったな」

「まぁ楽しかったんだから良いじゃないですか」

「それはそうだが」


 と、歩いていると目の前で「おっと!」と軽く驚く声が聞こえた。


「悪いね兄ちゃん」


 ぶつかった当人と思しき少年はそのままこちらへと走ってくる。

 そして、俺にもぶつかった。


「ってて。前見て歩けよオッサン!」


 おいおいおい!

 前の奴の時と随分と反応が違うじゃねぇか!?


「ちょっと!」


 アリスが声を出したが、少年はさっさと走り去ってしまう。


「何なんですかね?あの失礼な子は」

「さぁな」


 俺はやれやれと肩を落としながら、アリスの手を離す。

 そして、少し早歩きで前に進み、少年にぶつかったフードの男性へと声をかけた。


「なぁアンタ」

「ん?ボクかい?」


 振り返った顔に周囲の明かりが当たり、蒼銀の髪がフードの中でサラッと揺れる。

 二つの瞳は左右で色が異なり、左目が赤く、右目が碧い。

 中性的な面立ちだが、これはどう見ても女だ。


「なんだ。兄ちゃんって言われてたけど、女か」

「ん?ああ、そうだね。よく男に間違われるから慣れっこだよ」

「嫌な慣れ方だな」


 ウチのティリスもそういう意味ではよく女に間違われている。

 あっちもある意味、慣れてそうだな。


「んと、ボクに何か用かい?」


 と、俺は用件を思い出し、懐から小汚い麻袋を出す。


「ほら」

「ん?あれ、わざわざ盗り返してくれたのか。律義というか、お節介というか」

「おいおい。ひとまず、ありがとうだろ」

「フフフ、そうだね。ありがとう」


 すると、麻袋の口を開いて、手のひらの上に中身を出した。

 出てきたのはどう見てもゴミにしか見えない金属片。


「お前……それ」

「この辺でも夜になればああいう輩が増える。この手のイタズラは良くやるモノさ」

「性格悪いな」

「それ、幼馴染にもよく言われるよ」


 治せよ。

 俺が言える事じゃないけどさ。


「ピーター、知り合いですか?」


 アリスがキョトンとしたまま尋ねて来るが、俺も知らない人だ。


「違う違う。さっきのぶつかってきた奴がコイツ相手にスリを働いてたから、盗られたモンを盗り返してやっただけ」

「キミの彼氏さんは随分とお節介焼きの様だね」

「だ!だだだ誰が誰の彼氏ですか!?」

「おや、違うのかい?」


 慌てふためくアリスは見ていて面白いモノではあるけど、あんまり本人が望まない勘違いはよろしくない。


「違うよ。旅の仲間ではあるけどな」

「それは失礼」


 変わった女だ。

 それよりもアリスさん。なんでこのタイミングで手を繋ぎ直すんですかねぇ。

 勘違いされても良いの?

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