第5話


「ここはアクセサリーショップですか?」


 クレープの後に訪れた露店は指輪やイヤリングが並んだ店。

 店主はいかつい顔のオッサン。


「あぁ?ちげぇよ。ここは魔具専門だ。飾りもんが欲しいなら余所行きな」

「へぇ、いろいろあるんですねぇ」


 アリスはオッサンの嫌味にも動じずに魔具を眺める。

 けど、どの魔具にどの魔術が入っているかがわからない。


「なぁ、オッサン」

「なんだ?」

「これはどの魔具に何が入ってるんだ?」

「列ごとに見てくれ。そっちの面に書いてんだろ」


 指さすのは台の俺ら側。

 見てみると、確かに線引きされていて魔術名が書いてある。

 アリスは繋いでいた手を離して、しゃがんでからその魔術名をまじまじと見つる。

そしてちょっと首を傾げてから、再度立ち上がった。


「《立体空間固定(ホールド・ソリッド)》の魔具は無いんですか?」

「あ?なんだそりゃ?」


 俺も驚いたよ。

 今指にハマっているクセにほとんど使ってもいない魔具を探してどうするんだ?


「ですから、《立体空間固定(ホールド・ソリッド)》です」

「知るかよ。そこに書いてある魔法のラインナップしかねぇよ。ウチじゃあ下級魔法までしか扱ってねぇからな。中級以上が欲しけりゃ、別んとこ行きな」


 商売人っていろんなタイプがいるよな。

 こんな横柄でも商売成り立つ場合もあるんだろうし……。不思議だ。


「そうですか……」


 アリスはそう呟くと俺の手をぎゅっと握って、引っ張る。


「わかりました。ありがとうございます」

「んだよ。結局買わねぇのかよ。冷やかしかよ」


 それはアンタの接客態度によると思う。

 少し歩いてから俺はつないだ手を引っ張り上げる。


「どうしたんですか?」

「いや、なんでさっきあんな質問をしたんだ?」

「ん~……。やっぱりこの魔具は売ってないんだなぁと思いまして」

「やっぱり?」


 意味が分からん。


「なんでもないですよ」

「なんでもなくはないだろう」

「気にしないでください。あんまり細かいとモテませんよ?」

「何故に俺がモテない事を知っている」


 ため息交じりに言うと、アリスからの反応が返ってこない。

 不安を隠しつつ、チラッと彼女を見るとなんだかちょっと嬉しそうな表情になっていた。


「おい、コラ。なんでちょっと嬉しそうなんだよ」

「え?嬉しいわけじゃないですよ?ピーターは可哀そうだなぁと」

「勝手に人を憐れむな」

「わかってます。わかってます。その年で女性経験もまだだとちょっと焦りますよね」

「待て待て待て。なんでそんな風に決めつけるんだ」

「え?もしかして、女性とお付き合いした経験があるんですか?」


 ニヤニヤとマウントを取った気でいるアリス。

 そんな彼女の増長した優位性に対し、俺はあっさりと屈した。


「ねぇよ」

「やっぱりそうなんじゃないですかぁ」


 だからなんでそんなに嬉しそうなんだよ。

 俺に青い春が訪れていない事を笑うんじゃない。

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