第1話
坑道なので基本的には大人が二人すれ違うことができる程度の通路だ。
その中でアリス、ティリスが交互に先頭を入れ替えて目の前に現れる魔物を討伐する。
広い場所に出ればそこに湧いている魔物を討伐する。
そうやって進んでいるものの、途中で足を止めることは割とある。
例えば……
「また分かれ道ですか」
こうやって坑道内での分かれ道がある場合。
アリスが足を止めたところで、俺はASDを手に前へと出て《極小探査波(リトルソナー)》を発動する。
ASDから魔力弾が放たれ炸裂。魔力の反響により、地図が更新されていく。
「右だな」
「はい。わかりました」
アリスと入れ替わって、後ろに戻るとマットが話しかけてきた。
「そのASDという魔法具はどこで手に入れたんですか?一つでいろいろな魔法が使えるというのは初めて聞いたんですが」
「ひみ……禁則事項です♪」
「え?」
ネタわかんないとこうなるよね。
28歳のオッサンがカワイぶってやっても、意味ないかぁ。
何事も無かったかのようにスッと笑顔を消して、冷静を装って答える。
「故郷でだよ」
「たしかピーター殿は極東の国出身でしたっけ?」
マットは直前の奇行が無かったかのように話を続ける。
これが大人の対応ってもんだ。
「まぁな」
もう異世界人とは名乗らない。
どうせ言っても信じてくれないし。
あと、最近ティリスに注意されたんだけど、こっちでは“魔術”という言葉は魔族が使う言葉らしい。
これはアリスも認識している事で、あんまり人間の土地で使わない方が良いとも言われた。
俺にはあんまり違いが分かんないけど、アリスとティリスのニュアンスから「おはよう」と「グッドモーニング」並みに違いがあるらしい。
「そんな遠くの国からこんな小さな島にどんな用があったんですか?」
「侵略とか、密偵みたいな話じゃないから安心しろって。転移魔法の事故みたいなもんだよ」
「そ、そういうのを疑っていたわけではないのですが」
そういうのを疑って無けりゃ、出てこない質問だと思うけどな。
「ま、便利な魔法具だけど俺にしか使えないし、盗んでも意味ないぞ」
「そういうつもりで話題に挙げたわけでもないのですが」
実際、SIMカードに俺の魔力が登録されてるのでASDを盗まれても誰にも恩恵はない。
中身を解析されるとマズいかもしれないけど。
「マットは商人だからな。金になりそうなアイテムを見せるたびに怯えてるよ」
「……それならもう少し態度で示してください。まったく気にしていない様でしたので」
「簡単に盗めそうだった?」
「違います!気楽に説明していたので別の意味で心配していたんです!」
「アハハ、優しいなぁ」
こういう所は“商人”に向いてないのかもな。
何となく浮かんでいたマットの正体を考察しつつ、俺はいつも通りに軽口を叩いていた。
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