旧坑道内を進め
ティリス 2
片づけを終えたところで、ボクは手を挙げた。
「ピーターさん、アリスさん」
「ん?どうした?」
「なにかありましたか?」
ちょっと勇気を出して、ボクは二人に頭を下げる。
「マットさんにお風呂の使い方を教えるのボクがやっても良いですか?」
「へ?あ、あぁ。そんくらいなら全然かまわないけど」
「私も大丈夫です。あの、まだ勘違いされてるんですか?ティリスもわざわざ蒸し返さなくていいんですからね?」
「何かあったのですか?」
「マットは気にしないでください」
アリスさんは満面の笑みで会話を打ち切った。
ごめんなさいアリスさん。
ちょっとわかってて巻き込みました。
心苦しいけど、今は優先させることがある。
アリスさんに心の中で平謝りをしてから、マットを呼ぶ。
「マットさん、こっちに来てください」
「え、ええ」
【ポータブル浴槽】というピーターさんの不思議道具まで案内し、ボクはすぐ説明を始める。
「この浴槽の横にある黒いボタンを押すと」
実際に押すと《秘匿結界(ブラインドカーテン)》が発動し、ポータブル浴槽を囲むように黒い壁が出現する。
「《秘匿結界(ブラインドカーテン)》がこのように現れます。今は無いですけど、タオルやせっけんの類は別で台が用意されているので、そこから使ってください」
「はい」
「シャワーはこのボタン、横の文字盤はお湯の温度が示されていて上下の三角形で温度を変更することが出来ます」
「なんというか……。ピーター殿の持つ道具には驚かされてばかりですね」
マットが苦笑いを浮かべたところで、ボクも本題に入る。
「で、なんでマットがここに?」
そう尋ねると、マットは急に膝をついて頭を下げてきた。
「他意はございません。近衛騎士としての仕事ではなく、他の部署の手伝いでこの地に来ていただけです。元々、私は商人の顔も持っていたので都合が良かったというだけでして。決して、傍で見守っていたわけではありません」
「それならいいんだけど」
ちょっと過保護な所があるから普通に監視されていたのかと思った。
「今回の同行もコーニー・ホールで御説明したようにピーター殿のお目付け役と言うだけです。決してア」
「ティリス」
「え?あ、申し訳ありません。ティリスの旅路に水を差そうとしたわけではございません」
マットは信頼できる男だ。
言っている事に嘘もないだろうし、大丈夫だとは思うけど釘は刺しておかないと……。
「この旅の間、ボクはティリスのままです。マットもそのつもりで行動してくださいね」
そう言ってボクはマットに手を差し伸べる。
普段なら手を取ることは無い彼もボクの言った言葉の意味をちゃんと理解して手を取った。
「はい。短い付き合いとは思いますが、よろしくお願いします」
二人にはちょっと悪いけど、今はまだ自分が何者かを明かすつもりは無い。
だって、もう少しこの楽しい時間を楽しみたいから。
変わってしまうのは、もっと後の話でいい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます