第5話
「キッツ……」
衝撃音は凄まじかったが、爆風は全くなし。
こちらにそよ風一つ回り込んでない。
「うっし……!」
小さくガッツポーズをとって、次に備える。
「お、終わったんですか?」
後ろでアリスが可愛らしい事を言うので、優しくない俺は非情な現実を突きつける。
「んなわけあるか。最低でも三発は来る」
「さ、最上級魔法を三発って……」
怯えたような声を出しているティリスはさぞかし顔を青くしているんだろう。
見えないけど。
でもまぁ、基礎魔力量が多いとかいう魔族様が撃つんだったら、“三発以上”と考えるのが妥当だろうな。
《貫通力強化(ペネトレイター)》との併用をしていれば、もうちょい少なるかもしれないけど、そんな慢心は許されない……。
「《追加強化・防御結界(ビルドアップ・ナイトモード)》」
追加で《多重神威金城(キングス・インプレグナブル・キャッスル)》を強化。
周辺地面にまで防衛範囲を広げ、俺らの立っている地面が破壊されてもいいように備える。
「来るぞ!」
追加で放たれた《超遠距離爆撃(ミーティア)》は偶然にも地面へと激突。
しかし、備えが効いたおかげで誘爆による被害拡大は抑えられた。
それでも……想定通りに性能が足りていない。
っつーか、そもそも個人で運用する程度の防衛魔術で《超遠距離爆撃(ミーティア)》を防ごうだなんて発想が馬鹿げてる。
今、ギリギリで持ち堪えているのも魔力配分を魔術封印に割り振ったおかげだ。
恐らくは次の強化をしても三発目は持たない可能性が高い。
仮に三発目が最後なら少しは考える時間が出来る。
どうする?
どうやってこの場を乗り切る?
ゴクリと自分がつばを飲み込んだ音が耳に残る。
全員が助かる方法、全員で逃げ切る道筋はスッと頭に浮かんできた。
でも、それは単なる“延命措置”だ。
解決には程遠い。
時間の無い中、定まらない思考を収めるため、二人の方に顔を向ける。
不安そうに顔を歪めている二人の顔が目に入り、いつまでもこんな顔を見ていたくはないと思ってしまった。
出来ることは少なくても、やりたいことはある。
だからこそ、俺は全力を出す必要がある。
「アリス。ティリスを抱き上げろ」
「え?」
「早く!」
アリスが立ち上がり、ティリスをお姫さま抱っこする。
「いいか?今からお前に一つだけ魔術を掛ける。それが発動したら、全速力で走れ」
「ど、どこへ?」
「この目印から離れるようにだよ」
「ピーターはどうするんですか?!」
二人の心配そうな目が俺を見つめる。
そんな二人に笑顔を浮かべ、俺は魔術を発動した。
「《緊急脱出通路(エマージェンシー・ゲート)》」
アリスとティリスが同時に消える。
探知系魔術に引っかからないように改造された逃亡用魔術。
転移先は半径10km圏外のどこか。
これで防衛障壁から兄弟側に移動していたとしても、俺の嫌がらせにアイツらが巻き込まれる心配はない。
この術を使って全員で逃げた場合、単なる延命措置にしかならない最終手段。
「さって……」
これでもう、心配する必要はない。
これでもう、余計な事を考えなくていい。
「最後の足掻きだ。目ん玉引きずり出して、結んで開いてやるぞ。覚悟しろよナントカ兄弟ッ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます