第3話


「んで、これが渡し忘れてたもの。こうやって耳の裏に回して、この突起を耳の穴に入れんの」

「あの……、何事も無かったかのようにしないでください。これでも私は怒っているんです」

「【魔導通信機(トランスレシーバー)】と言ってな。リンクで繋がっているレシーバー同士で会話ができるようになる。これではぐれても大丈夫だな」

「聞いてます?私の話」

「聞いてる聞いてる。悪かったな」

「誠意のない謝罪!?」


 なんか不満そうにしながらも、俺が渡したワイヤレスイヤホンを耳に付けている。

 そして、うまく耳に装着出来たところで何かに気づいたかのように目を見開く。


「あの」

「ん?」

「さっきのストレージ?に私が着られそうな他の服って無いんですか?この服も嫌がらせの一つなんですよね?」

「んー……。出会って一時間もしない内にものすごく近くなったな俺ら。嬉しいやら悲しいやら」

「そんな事は良いんです。このダボダボ服も嫌がらせですか?」


 アリスの疑いの眼差しに俺は悲しくなる。


「嫌がらせ……か。誤解するなよ。俺は初対面の女に嫌がらせをするような程度の低い人間じゃない」

「じゃあ、程度の低い人間ですよね?私、一応初対面ですよ?」

「俺に女装趣味があれば……可能性はあった。けど、俺は自分の服しか持ってないんだ。インナーもアウターも身長170cmの男用。身長150cm未満の女児向け衣服は持ち合わせていない」

「150cmはあります!変なこと言わないでください!」

「へぇ」

「ありますから!というか、今は縮んでるんです!本来の私は170cmオーバーの美女なんですから!」


 無い胸を張って、無い胸に手を当て、自分を大きく見せようとグッと背筋を伸ばすアリス。

 その仕草がもう子供っぽさを出している……。


「そうだな。いつか会えるよな。大人のお前に」

「なんでそんな数年後にしか会えないような言い方をするんですか。会えますから!魔力が取り戻せれば明日にでも会えますから!」


 俺のインナーを引っ張りながら、大声で叫ぶアリス。

 そんな必死さに胸を打たれた俺は、森の奥へと視線を移す。


「じゃあ、旅の準備も出来た事だし、出発しますか」

「私の話を聞いてますか!?」


 アリスの大声を聞きながら、俺はさらに外装を付け足し始める。


「きゃっ!?」

「あぁ、大丈夫か?」

「な、なんですか?それ……」

「魔力で作った鎧。BLT競技中の鎧は自前で作成が基本だし」

「なんなんですかそのBLT競技って」


 あぁ、こっちの世界には無い概念なのか。

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