第2話


「んで、腕輪の方は《遠隔下級魔力盾(リモート・スモールシールド)》。魔力を込めると、魔力盾が出現する」

「でも、それは《下級魔力盾(スモールシールド)》ですよね?」

「そう。けどこっちは発動後にも盾の位置を任意に移動させることができる」


 アリスが魔力を注ぐと、小さな五角形の盾が出現。

 普通の下級盾なら腕に固定された状態で保持されるのだが、こっちは周辺1m以内ならどこにでも移動できるようになっている。


「おぉ!これはいいですね!」

「便利だし、俺が守れない時もあるだろうからな。これでなんとかイケそうか?」

「はい!」


 うっし!いい笑顔!


「んじゃあ、俺は着替えるから後ろ向いててな」

「はい!え?」

「いやぁ、流石にスウェット姿とは言え、美少女の隣を近所にブラっとスタイルで歩くのはちょっとなぁ」

「なんでもう脱ぎ始めてるんですか!?」

「いや、着替えるって言っただろ?というか、後ろを向いてくれ。いや、異性の裸に興味を持つのは良いが、俺も恥ずかしいって感情があってだな」

「恥ずかしいなら私が後ろを向くまで待っててください!あと、脱ぐなら上着からでしょう!」


 アリスは顔を一瞬で真っ赤にし、後ろを向いて文句を叫ぶ。

 そんな彼女の文句に対し、俺は持論を述べる。


「いや、Tシャツ脱いだら上半身裸だし。それに引き換え、ジーパン脱いでもパンツがある」

「下着姿にも羞恥心を持ってください!」

「へいよ」

「返事がおざなり!?」


 《個人収納空間(ストレージ)》からBLT競技用の公式インナー(黒)を取り出す。

 コンプレッションウェアって最初は抵抗感あったけど、使ってみると結構いいんだよな。

 BLT競技ってすっごく疲れるし、普通のスポーツウェアよりも個人的にはオススメ。


 上下をしっかり着て魔力を込めると、ズレていた箇所が体にぴったりフィットする。

 魔力光が帯のように黒のインナーの上を走り、身体機能の保全を始める。

 ちなみに、公式インナーはコンプレッションウェアでなくても、軽い疲労回復効果が付くので使い勝手はどっちも同じというのが公式見解。


 靴も履き替え、ワイヤレスイヤホンを耳に付ける。

 っと、そうだ……。


 俺はアリスに渡し損ねていたワイヤレスイヤホンを手に取り、後ろ向きでもぞもぞしているアリスの姿を見つめる。


「あの~。まだですか~?」


 未だに恥ずかしい思いが残っているのか、声に艶がある。

 ふむ……。


 俺は日ごろからイタズラで鍛えた音を極限に抑えた歩法で近づき、アリスの耳の後ろに顔を近づける。


「ワッ!!!!」

「ワァァァキャァァァ!?」


 アリスは声を上げ、慌てて驚き、腰を抜かす。

 そして、何が起こったのかわからない不安そうな表情を浮かべ、俺を見上げてくる。


「な、ななな何をなさっているのですか?!」

「いや、なんか緊張してたから気を紛らわせようかと」

「逆効果です!」

「それに面白いだろ?」

「どこがですか!」

「俺が」


 自分を指さして笑顔を浮かべると、アリスは一瞬表情が固まってから、怒りの色を滲ませる。


「ぜんッぜん!面白くありません!!!」

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