第2話


「きゃぁぁぁ!!!」


 数分程度歩いていると聞こえてきた女の悲鳴。

 頭の芯に響くその声に苛立ちを覚える。

 俺は文句の一つでも言ってぶん殴ってやると心に決め、声のする方へと走った。


 するとそこには腹を貫かれ、口や鼻から血を流す少女が一人。

 そして、その少女を自らの爪で貫き、今にも食おうとしているミノタウロスっぽいのがいた。

 しかも、片側だけ鎧みたいなの着てる。


「は?」

「ブモッ?」


 ミノタウロス(仮)と目が合う。

 牛と見つめ合う趣味はないので、視線を少女の方に移すと苦悶の表情を浮かべた美少女がそこにいた。

 血塗れで、顔色は悪く、すでに生気が尽きかけようとしている。それでもその優れた容姿は可愛さを失っていなかった。


「お、お前なぁ……!美女・美少女は国の宝だぞ!?テメェの餌にするならせめて醜女にしろやァァァァ!!!」


 叫ぶと同時に頭痛による苦痛が俺を襲う。

 感情的になり過ぎた。

 ウェイトウェイト。


「ふぅ……おちつ……ってあぶね!?」


 急に攻撃してきたミノタウロス(仮)。

 人間様に楯突きやがって、牛風情が……。

 《個人収納空間(ストレージ)》から紅い刀身の相棒を取り出し、駆け出す。


「往生せいやぁ!」


 刀を振り上げると同時に《身体強化(パワード)》と《耐久上昇(プロテクション)》を発動。

 硬度の増した刀が強化された肉体によって振り抜かれ、ミノタウロス(仮)の腕を容易く切り裂いた。


「ブモゥゥゥゥ!!!」


 腕から大量の血を流し、天に向かって叫ぶ牛。

 切り離された腕の先にいた美少女はそのまま地面に落下。

 その衝撃で爪が腹から抜け、大量の血が腹から噴き出た。


「カハッ!」


 さらに美少女は吐血し、視線の定まらない目をキョロキョロとさせている。


「ぅぁ……、ぁ……」

「うぇ!?まだ生きてんの!?」


 目が動き、なんか声を出そうとしている姿を見て、俺はゾッとする。

 コイツ、ゾンビか何かか?


 それでも美少女。

 まごう事無き美少女。

 俺はその一点だけを考慮し、彼女の元へと駆け寄った。


「助かる保証はないぞ。死んでも恨むなよ」


 彼女の体に触れ、気休め程度にしかならない《簡易治療(ファーストエイド)》を発動。

 その傍らでASDを操作し、《集中治療領域展開(インテンシィブ・ケアユニット)》を展開。

 俺と彼女を中心に《領域》が展開され、内部の空気が清浄化されていく。


「うっさいなぁ」


 《領域》を外からガシガシと叩くミノタウロス(仮)にイライラしつつ、俺は《自動治療機工(ヒール・オートマトン)》を発動。

 魔力で模られた手術台が彼女を持ち上げ、台の下から無数の手が湧き出てくる。


「っし、これで死ななきゃ大丈夫だろ」


 全自動で治療をやってくれる便利な術ではあるが、治せないものは治せないからなぁ。

 上手く言ってくれることを祈りつつ、未だに不快な打撃音を響かせているミノタウロス(仮)に目を向ける。


「手術中なんだ。静かにしててくれ」


 まぁ、そうは言っても俺はこの場から出られない。

 《領域》の展開中は領域内に発動者がいないといけないからな。

 イライラする気持ちを抑えつつ、その場に座り込むと俺の傍らにも魔力の台が出現する。


「うん?」


 台から出てきた手の上には水の入ったコップとなんかの錠剤。


「あぁ、もしかして二日酔い用の?」


 合点がいった俺はその水と薬を服用。

 同時に、思い出した事による頭痛が襲ってきたので、俺はその場で横になる。


「あぁ、もう寝る。頭痛ェ」


 寝台が出来上がり、簡易毛布が掛けられ、俺は夢の中へとスルリと落ちていった。

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