第12話 有馬君から真実を聞きました

有馬君に会った翌日、今日もいつも通り隆太君が迎えに来てくれた。



「渚、おはよう。さあ一緒に学校に行こうか」



そう言って手を差し伸べてくれる隆太君。昨日の夜は色々と考えてしまったが、隆太君の大きくて温かい手に触れたら、なんだか不安も吹き飛んで行った。



学校に着くと、マリとサラがやって来た。



「渚!今日は無事に学校に来れたみたいね。もしかしたら、帰りに有馬の奴が待ち伏せしているかもしれないわ。気を付けるのよ!」



「大丈夫よ。隆太君もいるし。昨日はたまたま会っただけだから」



そう、たまたま会っただけだ。



「それならいいけれど!とにかく、気を付けるのよ!」



マリとサラに念押しされた。



そして放課後、特に有馬君が待ち伏せしている事も無く、この日は平和に終わった。その次の日も、その次の日も、特に有馬君が待ち伏せをしているという事はなかった。



そして有馬君と会ってから1週間が経過した。明日はいよいよ臨海学校の日だ。



「今日も特にあの男が訪ねて来る事はなかったね。渚、明日は臨海学校だ。いっぱい楽しもうね」



「隆太君、今日も送ってくれてありがとう。そうね、明日が楽しみだわ」



そう言って、隆太君と別れた。その後は家族で晩ご飯を食べ、明日の準備をしていた時の事だった。



「渚、中学の時のお友達が訪ねてきているわよ」



えっ?中学の時のお友達?もしかして、有馬君じゃないわよね。



不安な気持ちを抱きつつ、玄関へと向かった。



「渚!久しぶり。元気してた?ねえ、ちょっと相談したいことがあるのだけれど、今から少し出られる?」


訊ねてきたのは、中学3年の時に同じクラスだった里奈りなだ。


「なんだ里奈か。久しぶりだね。うん、いいよ。今から準備してくるから、ちょっと待っていてね」


そう言うと、一旦自室に戻った。そうだ、一応隆太君にLINEをしておかないと。中学の時の同級生に少しあって来ます。女の子なので心配は要らないよ!そう送っておいた。



「里奈、お待たせ。どうする?どこで話す?近くのファミレスに行こうか?」



「いいね!そうそう、ちょっと寄りたい所があるんだけれど、いいかな?」



「別にいいよ」



里奈に連れられて来たのは、近所の公園だ。公園なんかに一体何の用があるのだろう。そう思った時だった。



「渚!」



私の名前を呼ぶこの声は…

恐る恐る振り向くと、そこには有馬君が立っていた。



「どういう事、里奈。私を騙したの?」



里奈と有馬君は接点がほとんどなかったはず。それなのに、どうして?



「ごめん、渚。実は私、有馬君の親友の陽一を付き合っていて。どうしても有馬君が渚と話したいって言うからさ。お願い、話だけでも聞いてあげて!」



必死に頭を下げる里奈。



まあ、話だけなら聞いてあげてもいいか。



「わかったよ。有馬君、話って何?」



私は有馬君の方を向いた。



「渚、まずは謝らせてくれ。どんな理由であれ、渚を傷つけてしまった事、本当に申し訳ないと思っている。本当にごめん」


深々と頭を下げる有馬君。


「もう別にいいよ。でも、どうしてラブレターを晒す様な酷い事をしたの?」


私自身、ずっと聞きたかった事を聞いた。正直ラブレターを晒されるほど、私は有馬君に嫌われていたのか。もしかしたら、有馬君を傷つける様なことを無意識にしていたのかもしれない。



「その件なんだけれど、あのラブレターを晒したのは、俺じゃないんだ」



「えっ、どういう事?」



「渚、あのラブレター、どこに入れたの?」



「有馬君の下駄箱の中よ」



「そうだったんだ。俺、あのラブレターには正直触れてもいないし、存在すら知らなかった。どうやら、誰かが渚が入れてくれたラブレターを俺の下駄箱から取り出し、掲示板に張り付けた様なんだ」



どういう事?じゃあ、有馬君は私のラブレターを晒していないという事?



「じゃあ、誰が私のラブレターを掲示板に張り付けたの?」



「それは分からないよ。なぜそんな事をしたのか…」



「そんな…」



「渚、今更感はあるけれどさ。俺もお前の事がずっと好きだった。本当は卒業式の日に、気持ちを伝えるつもりだったんだ。でも、あんな事になってしまって。何度も誤解を解こうとしたけれど、お前の友達に邪魔されて、そのまま卒業してしまった。正直、もう諦めようと何度も思った。でもやっぱり、俺は渚の事が好きなんだよ」



頭の中が真っ白になった。正直、自分でもどうしていいかわからない。



「俊君…私…」



無意識に名前で呼んでしまった私に、嬉しそうに微笑む俊君。目の前までやって来て、私の両肩を掴んだ。



「やっと昔みたいに、名前で呼んでくれたな。渚、あの男の事が本当に好きなのか?もしお前が俺の元に来てくれるなら、全力で守るよ。だから、俺と…」



「それ以上渚に近づかないで貰えるかな」



有無も言わさず俊君から引き離された私は、隆太君の腕の中に閉じ込められた。



「隆太君?」



どうしてここに?そう思ったが、よく考えたら私の首にはGPSが付いている。さらに予めLINEで連絡もしてある。心配性の隆太君がここに来ても不思議じゃない。



「渚、どうして勝手に外に出たの?俺がいる時以外は外に出てはいけないと、あれほど言ってあっただろう?」



そうだった!どんな理由であれ、しばらくは家から勝手に出てはいけないと言われていたのだったわ。チラッと隆太君を見ると、顔は笑っているが、目は明らかに笑っていない。きっと怒っているのだろう。



「約束を破ってごめんなさい。つい昔の友達が会いに来てくれて嬉しくて…」



「だからって勝手に家から出たらダメだろう。ここにこの男がいるって事は、その友達に嵌められたんだろう?渚はもう少し、人を疑う事を覚えた方がよさそうだね。今回は特別に許してあげるけれど、次は無いからね。さあ、家に帰ろう」



そう言うと、隆太君は私の腰にしっかり腕を回し、歩きはじめた。



「待って渚。さっき俺が伝えた気持ちは、本当だから!俺、いつまでも渚からの返事を待っているから」



後ろで俊君が私に向かって叫んだ。



俊君…

とっさに後ろを振り向いた。その瞬間、不安そうな顔の俊君と目が合った。



「渚!どうして振り返ったの?ほら、行くよ!」



私が振り向いた事が気に入らなかった隆太君に腕を引っ張られ、家の方に向かって歩く。



急に立ち止まった隆太君。



「渚、俺は絶対に別れないからね!それだけは覚えておいて欲しい」



そう言うと、唇を塞がれた。そのままどんどん深くなっていく。



「隆太君、ここ、外だよ」



やんわりと止めてもらう様に伝えたのだが


「渚があの男の事を考えているからだろ!」



そう言うと、さらに唇を塞がれる。しばらくすると、落ち着いたのか私から離れた。



「ごめん、とにかく家まで送るよ」



寂しそうに笑った隆太君。



思いがけない真実に加え、俊君からの告白。頭の中が真っ白になってしまった渚は、今後どう知ればいいのか、1人頭を抱える事になったのであった。

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