第10話 有馬君と久しぶりに会いました
「有馬君、久しぶりだね」
ラブレターを晒されて以来、一切話もしていないし顔も合わさないようにしていた。そもそも、あんな酷い事をして、よく話しかけられたものだ。そう思いつつ、一応挨拶はしておいた。私って自分で言うのも何だが、律儀だ。
「渚、話したいことがあるんだけれど、ちょっといいかな?」
そう言うと、有馬君が近づいて来た。
「俺の渚に何か用かい?」
すかさず私を抱き寄せる隆太君。さすが番犬…じゃなかった!彼氏だけの事はある。これ以上近づくなと言わんばかりに、有馬君を睨みつけている。
「君が嫌がる渚を、無理やり自分の彼女にしたって言う男か!」
有馬君!どうしてそれを…
そう言いかけたものの、ぐっと堪えた。
「さっきから人の彼女の事、渚渚って、何度も呼ばないでくれる?どんな方法であれ、今は俺の彼女だよ。ね、渚」
そう言うと、私の頬にキスをする隆太君。
「ええ、まあ、そうね」
「南校に行っているやつから聞いたんだよ。お前が超絶イケメンに付きまとわれている上、無理やり付き合わされているって…それで俺…」
その時だった。
「有馬俊!渚から離れなさい!!」
鬼の形相でマリとサラがこっちに向かって走ってきた。
私と隆太君の前に立ったマリとサラ。
「しつこい男ね。あんなひどい事をしておいて、まだ渚に付きまとう気!気持ち悪い!」
「お前たちが渚と話しすら、させてくれなかったからだろう!」
「うるさい!最低男!ほら、渚も隆太君もこんな奴放っておいて、もう行くよ。カフェオレ飲むんでしょう」
マリとサラに背中を押されながら、歩いて行く。
後ろで
「渚、待って!」
と、叫ぶ有馬君の声が聞こえるが、とりあえず無視しておいた。
「あいつ何なの一体!とにかく、ショッピングモールを出て、ファミレスでも行こう」
かなりお怒りのマリとサラに連れられて、みんなでファミレスになだれ込んだ。
「ねえ、さっき私に付きまとうやらなんやら、マリが言っていたけれど、あれってどう意味?」
さっきのマリ達と有馬君の会話を聞いて、ずっと気になっていたのだ。
「ああ、実はね。あんたのラブレターが晒された後、何度か有馬の奴が渚に接触しようとして来たの。それを私とサラが全力で止めていたのよ」
そうだったのね…
「マリもサラも私を守ってくれていたのね。ありがとう。私、全然知らなくて」
2人に頭を下げた。
「何言っているの!渚は私たちの大切な友達なのだから、当たり前でしょう!」
「そうよ、それよりも、今後有馬君が絡んでくる可能性が高いわね。とりあえず、隆太君が居るからその点は大丈夫かしら?」
今回はたまたま会っただけだし、高校に入ってから特に接触を図ろうとされたことも無いから、大丈夫だと思うけれど。それに、今さら会ってどうなるっていうの?もう私にとっては、終わった恋だ。これ以上、有馬君に関わる気はない。
「マリちゃんもサラちゃんもありがとう。渚の事は俺が守るから大丈夫だよ!とにかく、今まで以上に渚を見守るから、安心して」
今まで以上って、今までも十分ずっと一緒に居ると思うんだけれど…
ここに居る全員が同じ事を思ったのか、皆苦笑いしている。
「隆太君に任せて大丈夫そうね」
クスクス笑うマリとサラ。
「せっかく皆でデートしていたのに、私のせいでごめんね。航君も大君もごめんさない」
「俺たちは全然大丈夫だよ。それより渚ちゃんも大変だね」
「そうだよ、俺たちでよければ協力するから、遠慮しないで言ってね」
「ありがとう」
航君も大君も、とてもいい子たちだ。さすが2人の彼氏だけの事はある。その後ファミレスを出て、3組でゲーセンに行ったりカラオケに行ったりして思う存分楽しんだ。
それにしても隆太君の歌のうまさには驚いた。この人、苦手な事ってあるのかしら?そう思うくらい何でもこなしてしまう。
「今日は楽しかったね。またみんなでデートしよう」
「うん!今度はテーマパークにでも行く?」
「夏休みに入るし、プールも良いね。あっ、花火も」
次の予定で盛り上がる女性陣の隣で、男性陣はそれぞれLINE交換をしていた。何だかんだで、隆太君は航君と大君と打ち解けた様だ。
「それじゃあ、また明日ね」
そう言ってマリとサラカップルと別れた。私と隆太君は手を繋いで我が家へと向かう。
「隆太君、今日はありがとう」
隆太君に向かってお礼を言う。もし有馬君と会った時、隆太君が隣に居なかったら私、パニックになってその場から逃げ出していたかもしれない。何だかんだで、私の中で隆太君はいつの間にか、大切な人になりつつあるのかもしれない。それに、隆太君と居ると、なんだか落ち着く。
「どういたしまして!それより、今日会った男には、気を付けないとね」
私の腰を引き寄せる隆太君。
「朝家を出た瞬間から家の中に入るまでずっと隆太君が一緒だし、GPSも付けられているのだから大丈夫だよ」
さすがにここまで束縛されているのだから、いくら何でも有馬君が私に今後接触出来るとも思えない。
「渚、油断は禁物だよ!とにかく、渚は極力俺から離れない事!分かったかい?」
珍しく真面目な顔をする隆太君。つい勢いにつられ「はい!」と、答えてしまった。私の答えに満足したのか、自分の唇を私の唇に重ねる隆太君。それは次第に深くなっていく。
「隆太君、ここ外だよ!」
さすがにマズいと思い、抗議の声を上げた。
「ごめんごめん、渚をもしあの男にとられたらと考えたら、余裕が無くてね」
「隆太君には話していなかったけれど、私あの人に振られているの。それも、ラブレターを晒されると言う最低な方法でね。だから、たとえ地球がひっくり返っても、私とあの人が付き合う事は無いから安心して」
「ありがとう、渚」
ギューっと抱きしめて来る隆太君。どうやら私と有馬君の事を心配している様だ。いつも自信満々な隆太君でも、不安になるのね。そう思ったら、なんだか急に愛おしくなってきて、私も隆太君を抱きしめ返した。
きっと大丈夫。これ以上何も起こらないわ。だって私ははっきりと有馬君に振られているのだもの。それに多分、有馬君はあの時の事を謝りたいだけなのかもしれないわ。きっとそうよね。
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