第130話 仮眠(意味深)
高台に戻っても誰もおらず、最初の転移してきた地点へと戻ると、ずいぶん何やら盛り上がっている様子……。
ハイ師匠と神様を中心に、大勢で何かを見ている様だ。
……あ、消えた。
ハイ師匠と神様だけ残して、他の全員が空中に溶けるように消えちゃった……。
……お化けかな?
お化けは冗談として、恐らく今のが精霊だと思うのだが、いったい皆で何を見ていたんだろうね?
ついでになんで隠れちゃったんだろうね?
イジメかな?
近づいてみると、全員が見ていたであろうそこにはD:KATANAプロトタイプが……。
「これ作ったの君だって!?凄いねぇ~!若干のデメリットはある様だけど、切れ味だけで言うのならマジでヤバいよこれ!」
わ~い、神様に褒められた~。
……デメリットって何だろう?
「この剣でモンスターを斬ると、剣が勝手に使用者の魔力を吸い取るんだよ。まぁ、一種の魔剣だね~。見た感じ魔力を吸って耐久力を上げているみたいだし、デメリットというよりも、この剣のに使われた素材の特性かな~?でも、ドラゴンの牙を削って作られた剣は以前にも見たことあるけど、そんな特性はなかったような……。となるとやっぱり特殊効果の発現には、完成した物の品質が関わっているのかな?この剣はドラゴンの牙をただ剣の形に削って作ったのではなく、硬い部分を刃に、柔らかい部分を芯に使ってるよね。構造からして品質が段違いなんだよな~。他にも特殊効果のある武器とかアイテムは持ってないの?」
……神様がめちゃくちゃ饒舌だ。
他の私が作った武器の中に特殊効果があるものはないと思うなぁ~。
基本的に鉄かアダマンチウム合金だったし、素材のレア度が足りてないと思う……。
それにしても特殊効果か……。
ゲームだとレア度が高い方がサブオプションが多く付いたり、レア度が高い武器にしか付かない特殊効果があったりしたけど、現実のこの世界でも似たような物があるんだなぁ~。
そういえばハイ師匠から報酬に結構色々珍しそうな素材貰ったけど、あれで何か作れば分かるかな?
薪割り君の刃が割れちゃったし、新しい武器作らないと……。
「それで、5凸リザードドラゴンは片付きましたか?」
あ、忘れるところだったわ。
「一応問題なく片付いて、壁の前にドラゴンの死体が残ってるんですけど、魔石を取り出すために腹を開いたら、魔石と一緒にスキルオーブがあったんですよね。そういえば何のスキルオーブだ?……『火魔法』か。スキルオーブはダンジョンの宝箱かダンジョン産のモンスターからしか出ないけど、ダンジョン産のモンスターは死んだら消失しますよね?どういうことか分かります?」
……2人とも深刻そうな顔で悩んでいる。
野良モンスターからもスキルオーブが落ちるというのなら簡単に終わる話なのだが、この様子だと本当に何が起こっているのか分からないのだろう。
野良ドラゴンとダンジョン産ドラゴンが交配したとかかな?
「交配はないね。ダンジョンが生み出したモンスターは何故か交配しないんだ。昔ダンジョンでモンスターについて調べていた研究者達がいて、1匹のラビットを5年もの間ず~っと1日中交代しながら観察を続けていたけど交配しなかったらしいよ。」
へ~。
暇な人たちがいたんだなぁ~。
まぁ、『暇な人達』のおかげで情報を得られるのだから、馬鹿にする気は一切ないけど。
とりあえず交配の線が無いのなら、他に考えられる理由は……分からん。
モンスターについても、ダンジョンについても、スキルオーブについても全然知らないんだもん。
分かるわけないよね。
「とりあえず、あのドラゴンの死体はどうします?鱗は使えるでしょうし、お肉も美味しそうですから私も欲しいんですけど、あの大きさなんで解体は難しいんですよね~。」
「あ~……。ちょっと『収納の腕輪』を貸して。改良するから。」
……マジ?
アッザーッス!
大きさの制限を無くすのもありがたいけど、いちいち自分で中にいれなくても、触っているアイテムを自動で収納してくれる機能とか追加してくれると嬉しいな~。
「いいね~。ヴェロ様にまっかせなさ~い!」
言うだけ言ってみるもんだなぁ~。
最近大物が多かったから、大きさの制限も少しは気になってたけど、どちらかというといちいちインベントリの中に手作業で入れる方が面倒に感じてたんだよね~。
ゲームみたいな自動回収機能までは求めないけど、触っている物を収納できるようになればめちゃくちゃ便利になるな~。
「フッハッハッハッハ~!私もあの頃より腕をあげたのだよ!あの頃は偶然の産物だった『収納の腕輪』も、今の私ならこの通り!できた~!」
……速いな。
ついでにめっちゃテンションが高い。
大丈夫なのだろうか?
いや、このお方は神様だ。
あの自称:神様よりかは存在としてのランクが下な印象を受けるが、私にとってはマジの神。
盲目的に妄信しなければ……。
きゃー!
かみさますてき~!
「そうであろうそうであろう。それじゃ、ドラゴンの回収お願いね~。今日はドラゴンステーキよ!」
そんな訳でまた城壁まで戻って来た。
今回は神様とハイ師匠が隊長さんに話があるらしく、ボーイッシュボインちゃんと2人で移動したのだが……まぁ、城壁の外の壁が血に染まってるのを見たら、皆何事かと思うよね。
だいぶ早い段階でボーイッシュボインちゃんは人波の中へと消えていった。
血の滴っていない場所を選んで魔道具の壁を抜け、ドラゴンの残骸の元へと行くと、1人の不審者がいた。
「まさか……用意したドラゴンが全滅するとは……。この国にそこまでの力はなかったはず……。いったい何が起きた?」
……うん、敵だね。
進化したインベントリから取り出したのは、野球のバットにしか見えないこん棒。
スイカ割りの時間じゃー!
ほぼ全速力で踏み込み、最後まで鉄たっぷりのバットが曲がる程の力で振り下ろしたのだが、腕で防がれてしまった。
なんだこいつ?
クソ強いぞ?
「なんだこの力は……貴様人間か?」
「そういうお前は何?悪魔?」
「ほぅ……。悪魔を知っている様だな。ならば、物理的攻撃にほとんど意味がないことは分かっているだろう?どれだけ貴様の力が強くとも、私にはほとんど効果がない。大人しく死ね!」
「以前にも全く同じことを言われた記憶があるけど……あの時はどうやって処理したっけ?魔法を封じていたことしか覚えていないな~。」
そう言って破魔魔法を適当にばらまいた。
これで魔法を一方的に使用できる。
再び曲がったバットで殴りかかるのだが、こいつ反応が速いな。
(認識力)のステータスが高いのかもしれない。
……鑑定すれば一発でわかるじゃん。
はい鑑定。
____________
『悪魔』
打撃・斬撃・魔法に強い耐性があり、物理的に殺すことは非常に難しい。
真名は『ヴェゲゴリュジード』。真名を呼ばれたら死ぬ。
____________
「……ヴェゲゴリュジード。」
「っ!?貴様なぜその名をあぁぁぁぁ!」
……悪は滅びた。
あ、一切尋問出来てねぇじゃん。
あのドラゴンをどうやって用意したのか聞くべきだったのに……。
でもこれは鑑定結果が悪い。
『真名を呼ばれたら死ぬ』とか出てきたら、普通呼んじゃうよね?
俺は悪くねぇ!
……悪魔がいたことだけ、後で忘れず報告しよう。
悪魔は本当に何も残さず消失したので、ドラゴンの死体だけすべて回収してから帰った。
途中でボーイッシュボインちゃんを見かけたが、まだまだ周囲の人だかりが多かったので無視した。
「おかえり~。……スラエラは?」
「行く途中で人の波に攫われました。帰ってくる時にも見ましたけど、まだ囲まれてましたよ?凄い人気ですね。」
「あのおっぱいなら仕方ない。私でもボーっとしてるといつの間にか見ちゃってるもん。魔性のおっぱいだよ。」
「そういえば悪魔がいましたよ。」
「……どこに!?」
「ドラゴンの死体の前に立ってました。『ドラゴンを用意した』と言っていたので、今回のドラゴン襲来は天然物ではなく用意されたモノだったみたいですね。」
「……この大陸に魔王が来ているのかな?それで、悪魔はどうしたの?逃げられた?」
「名前を呼んだら消えました。死んだっぽいです。鑑定魔法に『真名を呼んだら死ぬ』ってでてきたんで……。」
というか、真名を呼んだら死ぬ悪魔って、ボーイッシュボインちゃんのカモじゃない?
相手に気づかれないまま名前を知ることが出来るんだから、悪魔からしたら天敵みたいな存在だと思うけど……。
「そうだね~。問題はスラエラ自身があんまり強くないことかな~。不意を打たれたら間違いなく死んじゃうから、大事に大事に育てないといけないんだよね~。スラエラを守ってくれるヒトが近くにいればいいんだけどな~?」
……そんなにチラチラ見られても、この国に残るつもりはないです。
魔石があれば経験値はゲットできるんだから、パワーレベリングでもやって頑張ってください。
さて、そろそろ若干眠気を感じ始めたのだが、太陽はまだ高い位置にある。
ドラゴンステーキを食べたら寝ようかな~。
「それなら少し仮眠してくるといいよ。スラエラに案内……。スラエラ~!スラエラ~!戻って来て~!というかもう回収は終わって戻って来てるよ~!……うん、聞こえたみたい。あ、ドラゴンを1匹こっちに出しておいて。夕食用に解体しておくよ~。」
……なんと言うか、凄くフレンドリーな神様だなぁ~。
指定された場所にドラゴンを出しながらそう思った。
数分ほど待っていると、ボーイッシュボインちゃんが走って戻って来た。
「お帰り~。」
「な、何かあったのか?……あったんですか?」
「仮眠を取るための場所に案内してあげて~。」
「分かった。……分かりました。」
……何だろう?
敬語の練習中かな?
なにやら神様がボーイッシュボインちゃんに耳打ちしてるけど、いったい何を企んでいるんだ?
少し警戒した方がいいのかもしれない。
「ソフィーアは仮眠取らなくていいの?」
「……私はもう少し話すことがあるから、先に寝ていてくれ。後で行く。」
……ふむふむ。
私もこの世界に来て色々と経験してきたのだ。
間違いなく、『ナニか』がある。
ほら、ボーイッシュボインちゃんがこっちを見て顔を真っ赤にしてる。
恐らく隊長さんの様に『この国に聖人の子を残せるよう努力するように』って言われたのかもしれない。
隊長さんが少し不機嫌っぽいのは、今日はボーイッシュボインちゃんに譲るよう、ハイ師匠や神様に言われたからなのでは?
屋敷での夕食が元気になる系の料理ばかりだったし、本来今頃は隊長さんとの夜戦が始まっていてもおかしくない時間のはずだ。
少なくとも私はそのつもりでいた。
ボーイッシュボインちゃんには勿論魅力を感じるが、私としては隊長さんを最優先したい。
……どないしよ~?
「君は随分と察しがいいんだね。ソフィーアちゃんが大切なのは分かったけど、1時間だけスラエラと子作りに励んでくれないかな?この娘、今日は絶好の受精日和なんだよ!1発だけでも高確率!複数発ならほぼ100パーセントだよ!こんなチャンス滅多にない!……駄目かな?」
そっちの主張は後回しだよ。
大事なのは隊長さんの意見。
ほれほれ、隊長さんはどう思ってるの?
教えて教えて~。
「……1時間だけだぞ。子を残す重要性は理解できるし、それくらいなら我慢する。君なら1時間程度やってもまだまだ元気だろう。……ちゃんと私の分は残しておくんだぞ。」
……少し嫉妬してる隊長さん可愛い。
隊長さんの為にも、今からエルフの秘薬を飲んでおくね!
そんな訳で、私はボーイッシュボインちゃんと一緒に仮眠(眠れそうにない)をしに移動するのだった。
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