第129話 もぅわけワカメ

使用する魔法の候補を決めたので、次はどこから使用するかだ。

射程が長い場合、どうしても当たる頃には威力が落ちてしまう。

至近距離でぶっ放すのがもっとも威力が出るが、まず危険すぎるので拒否。

街の外・壁の向こう側に、程々の適正距離で魔法が使えるいいスポットはあるだろうか?


「正直ないかな~。あの大きさのドラゴンだから、安全に攻撃するっていうのは厳しいと思うよ~。せめてもう少し大人しくしてくれればいいんだけどね~。」


……あのドラゴンは爬虫類だろうか?

以前のように氷魔法で気温を下げて動きを鈍らせれば……その場合攻撃するための魔力が足りなくなりそうだな。

それにドラゴンも『火魔法』のスキルを持っているらしいし、私のように魔法で周囲の気温をコントロールできるのならば完全に無意味になってしまうだろう。

試してもいいが、思っていたよりも厄介な感じだなぁ~……。


「ところで、あのドラゴンはどこから?この国の周辺にダンジョンでもあるのですか?」


「それが分からないんだよね~。ダンジョンは確かにあるけど、ドラゴンが来た方向とは完全に逆側だし……。いつの間にか新たなダンジョンが出来ていたとしても、あの数のドラゴンが生まれるほど大きくなっているわけないんだよね~。自然発生したとも思えないし、もうお手上げだよ。」


「魔王や悪魔が出来たばかりのダンジョンに手を加えた可能性は?」


「可能性としてはそれが一番高いだろうね~。ま、今はそれを考えるより、あのドラゴンを倒す方が大事だよ。この国の兵士じゃ到底対応出来そうにないから、君達だけが頼りだよ!」


「……とりあえず斬ってみましょうか。」


1番手にハイ師匠が挑戦する様で、高台からふわふわと飛んで行ってしまった。

やはり『全員で協力する』などという考えはないようである。

完璧に連携が取れないと、邪魔どころか味方の攻撃でお陀仏になりかねないもんね。

私、ハイ師匠の近くで戦いたくないもん。


だがここにいても仕方がないので、私も城壁へ移動することにした。




「スラエラ!この街は大丈夫なのか?精霊様はなんとおっしゃっているんだ?」


「あの壁があるから大丈夫だ!デヴェロプ様も外のドラゴンを排除するためにいろいろと行動してるから安心してくれ!」


「スラエラちゃん。本当に大丈夫なの?壁の光もなんだか少しづつ薄くなってきてるわよ。せめて若い子たちだけでも避難した方がいいんじゃないの?」


「壁が張られている間は外との出入りが出来ないから避難は無理だ。大丈夫。外から凄い人たちが助力に来てくれている。すぐにあのドラゴンを排除してくれるさ!」


「スラエラ……「スラエラ……「スラエラ……」」」


街の中を普通に歩いて移動していたのだが、なぜか一緒についてきたボーイッシュボインちゃんは大人気の様だ。

やはり胸だろうか……?

女性の胸は母性の象徴として考えられることが多い記憶がある。

あのバルンブルンドタプンと揺れる胸の母性に惹かれ、この街の人々が次々と声をかけているのだろうか?


あまり関わり合いにならないように距離を取って歩いた。


そういえばボーイッシュボインちゃんも巫女だったな……。

隊長さんも巫女だけど、巫女って人望が厚いのだろうか?

そもそも巫女の仕事自体知らないのだが……。


「ソフィーア。『巫女』の仕事って何をするの?」


「ん?仕事か?基本的には精霊樹の周りの掃除と観察だな。周辺にダンジョンが出来ると精霊樹の葉の色が変わったりと変化が起きるから、観察は結構大事だ。後は普通の市民とハイエルフの方々・精霊様との間に入る仲介役だ。君も見た通りハイエルフの方々はなぜか言葉を発して会話しないから、通訳する必要があるんだ。基本的にはそのくらいだな。」


「基本以外は?」


「精霊樹を脅かしかねない脅威の排除は何度かあったな。後はたまにパシリをするくらいだ。非常に珍しいのは君みたいに『聖人』認定された者のお世話だ。聖人は神と何かしらのつながりを持っていることが多いから、一応神に仕える巫女の仕事の範囲内でな。」


そんな……私との関係は仕事上のビジネスだったのね!

ココロが深く傷ついちゃったわ……シクシク。


「私は君のことが好きだよ。もちろん『聖人の子をこの国に残せるよう努力するように』と言われはしたが、それとは関係なく君を好きになった。……少し恥ずかしいな。」


……ちょっとこの辺にホテルとかないかな?

夕食があれだったからか、下半身が漲って来ちゃったよ。

まぁ、隊長さんについては全然疑っていなかった。

これが演技だとしたら『いい夢を見させてもらった』と言えるほど、自然と深い関係になったからね。

でも最初はエルフちゃんに手を出すように言われたような記憶が……。

まぁ、いいか。


隊長さんと手をつなぎ直し、仲良く城壁まで歩いていくのだった。




城壁に着いたときには、既に魔道具で作られた壁一面がドラゴンの血で染まっていた。

やったのは勿論ハイ師匠だろう。

(全身の分厚い鱗とは一体何だったのか)

思わずそう考えてしまうほど、見事な切り口だった。


「来ましたか、少し遅かったですね。この剣は素晴らしいものです。ソフィーアの使う剣でもここまで簡単に斬ることは出来なかったでしょう。大物を初めて斬りましたが、本当に素晴らしい……。」


うわぁ~……。

あのD:KATANAプロトタイプを作るのは滅茶苦茶苦労したから、褒めてくれるのはすごく嬉しいのだけれど、この惨状を見ると顔を赤らめて興奮しているハイ師匠が恐ろしく感じちゃうね。

まぁ、実際に恐ろしいほど強いんだけど……。

私一人でどうやって殲滅するか考えてたのが馬鹿らしくなっちゃう。


「これだけ減らせば、あとはあなた達だけでも問題ないでしょう。任せましたよ。」


ハイ師匠はまたふわふわと飛び立って、街の中へと移動してしまった。

見渡したところ、残っているドラゴンは3体。

囲まれる心配がないのなら普通に魔法をぶっ放せばいい。

そう思って隊長さんに声をかけた。


「とりあえず魔法を試してみるので、倒せなかった場合はカバーをお願いします。」


「分かった。気を付けるんだぞ。」


ということで普通にドラゴンに近づく。

魔力消費をあまり気にしなくても良くなったので、氷魔法でドラゴンの周囲を冷やしてみると、目に見えてドラゴンの動きが鈍くなってきた。

顎の下は狙えないが普通に攻撃のチャンスだったので、物理魔法の大槍を射出してみる。

……うん、鱗を通らずに壊れたね。

クッソ固いわこいつ。


次に試したのは土魔法。

壁に乗り上げる様な2足歩行から通常の4足歩行状態に移行し、頭が地面に近くなったので、顎の下の地面から上へ突き刺すように土の大槍を作り出した。

槍は見事にドラゴンの顎の下を捉え、そのまま深く首の骨まで突き刺さった。

まだ土はコントロール下にあるが、ドラゴンが身動きする気配は一切ない。

恐らく倒せたのではないだろうか?


「倒したようだな。少しそいつの首を斬ってもいいか?」


「いいですけど、どうかしました?」


「師匠が私の剣では綺麗に斬れないと言っていたからな。少し試してみる。」


……隊長さんって意外と負けず嫌いよね。


大剣を抜いた隊長さんはドラゴンの元へと走っていき、直前で高く跳んだ。

以前メタルロックイーターの首を斬り落としたあの技だ。

風魔法を使っているのか、高く跳んだ隊長さんは加速しながらドラゴンへと落ちていき、完璧と思われるタイミングで大剣を振り下ろした。

剣はドラゴンの首をしっかりととらえ、剣が鱗を突き破り肉へと食い込んでいき……途中で止まってしまった。

おそらくドラゴンの首の骨までは断てなかったのだろう。

少し残念な結果だ。


「ソフィーアでも斬れないって、やっぱりこの大きさのドラゴンとなると面倒だね。」


「う~ん……。手応えは悪くなかったんだが……。やはり剣の差か?それとも技量の問題だろうか?……私もまだまだだな。」


「いや……。骨まで届いただけでも凄いと思いますよ。見て下さいよこの鱗。一枚の鱗が肉の上を覆っているのではなく、何枚もの鱗が肉の上へ積み重なってますよ。鱗自体はガッチガチに硬いくせして、結構な耐衝撃性まで兼ね備えてるみたいですから、切れ味特化型の剣でもない限りはこれを綺麗に斬れませんって。」


「切れ味か……。切れ味を追求するとどうしても刃の耐久性が落ちるからな……。私はどちらかというと力で斬るタイプだから、切れ味に特化した剣は苦手なんだ。」


「……でも前に鉄製のKATANAでドラゴンさんの鱗を斬ってましたよね?1枚だけですけど。」


「止まった状態で動かない的を相手にするのなら素直に剣を振れば斬れるさ。あのカタナはいい剣だったしな。」


……普通無理じゃね?

『素直に剣を振る』っていうのが、一番難しい気がするんだよなぁ~……。

毎日何千何万と素振りを繰り返して、動作の基本がしっかりと身に付いてないと出来ないことでしょ?

……(器用さ)のステータスさえ高ければ、この世界でなら出来るのかな……?


インベントリから薪割り君を取り出して、素直にドラゴンへと振り下ろしてみる。

……刃が割れた。

やはり私には無理みたいだ。


「さっさと残りの2匹も片付けよう。さっきみたいに魔法で動きを鈍くしてくれるか?」


「了解で~す。」


結構な巨体なので冷やすのにも結構な魔力が必要だが、動かなくることのメリットは非常に大きいので2匹ともガンガン冷やしていく。

は~い、おねんねしましょうね~。

冬眠の時間よ~。

そして永眠するんだよ!


1匹はさっきと同じように私が土魔法で顎の下から大槍アッパーカットで処理し、もう1匹に隊長さんが歩いていく。

寒さの為か犬が伏せをする様な格好で眠ってしまったドラゴンを、隊長さんは思い切り蹴飛ばし、横向き寝になったドラゴンの喉に大剣を振り下ろした。

これで終わりだろう。


「お、終わった……のか?」


ボーイッシュボインちゃんもいつの間にか来ていたようだ。

正直役に立たないだろうから街中で離れても気にしなかったのだが、なにをするつもりで来たのだろうか?


まぁいい。

今考えるべきはドラゴンの死体が消えないことだ。

つまり、このドラゴンたちはダンジョン産ではない……。

これだけの数のドラゴンが野生のドラゴンとか、もしかしたらこの大陸は魔境なのかもしれない。

仕事は終わったし、一休みしたらさっさと帰りたいなぁ……。


とりあえずドラゴンの魔石を回収しようと、解体用でしか使っていないアダマンチウム製のナイフで非常に時間をかけて腹を開いていく。


1匹目は非常に大きな魔石だった。

2匹目も1匹目よりかは少し小さいが結構な大きさだ。

3匹目、魔石と共にスキルオーブを見つけた。


……スキルオーブって、ダンジョンの宝箱か、ダンジョン産モンスターしか落とさないんだよね?

でもダンジョン産モンスターは、死んだら魔石のみを残して死体が消える……。

……神様に聞いてみよ~っと!


今は何も考えず、帰ることにしたのだった。

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