第128話 ドラドラドラドラ再び
隊長さん・ボーイッシュボインさんと共にハイ師匠についていき、やはり今回も大きな樹の前にある広場にやって来たのだが……何か変だ。
あの自称:神様のいる神域ほどではないのだが、なんとなく神域に近い感覚の違和感を感じる。
ついでに、ハイエルフの方々が勢揃いだ。
ハイエルフってこんなにたくさんいたんだね……。
若干ロリショタが多いのが気になるけど……。
「捧げるように言われたモノを渡してもらえますか?」
「は、はいっ!」
ボーイッシュボインさんからハイ師匠へと例の円柱が手渡され、ハイ師匠からハイエルフの方々へと渡る。
……なんだか盛り上がっている様だ。
念話で会話しているのか声は聞こえないけど、動きは非常に盛り上がっている様に見える。
ハイエルフの方々が盛り上がるなんて、あの円柱は一体どんなものなのだろうか?
やっぱり非常に強力な聖遺物?
ハイ師匠の言葉を待つ。
「そちらの状況は理解しました。すぐに人員を送りたいところですが……。現状、私たちの国にいるエルフの兵たちはあまり練度が高くありません。私の他に、歴代最強の巫女と、歴代最高の武器職人の2人を連れていきます。すぐに行きますので、少々お待ちください。」
『歴代最強の巫女』と『歴代最高の武器職人』……?
一体誰なんだろうな~?
……ハイエルフの方々全員から一斉に見つめられた。
もしかして心が読めるのだろうか?
それともこの空間にいるからか?
心の声が駄々漏れだなんて……恥ずかしいっ!
「事は急を要します。他の大陸にある精霊樹が、モンスターの襲撃によって脅かされているそうです。あまり時間はありません。」
……今から他の大陸に出発しても間に合わないよね?
精霊樹が襲われているから助けに行きたいのは分かるけど、いくら私でも大陸間弾道ミサイルよりかは移動が遅いよ?
「心配ありません。こちらからの一方通行となりますが、移動手段は用意されています。」
そう言ってハイ師匠はさっきの円柱を掲げる。
円柱の物体は表面に深い青紫色の光を浮かべながら、上下2つに分離してしまった。
ハイ師匠は1つを地面へと置き、もう一つを空へと捧げるかのように高く掲げ……大きく振りかぶって投げてしまった。
なんかの儀式かと思ったらまさかのワインドアップ投法。
一体何をしているのだろう?
非常に長い沈黙が流れ、ハイ師匠が遥か彼方まで投げ飛ばしてしまったモノを探しに行こうかと思い始めた時、地面に置いた円柱の片割れが急に強く光を放ち、私は見知らぬ場所に立っていた。
「いらっしゃ~い!急に呼ぶことになっちゃって悪いね~!さすがにちょっと大きなモンスターに襲撃されちゃってさ、この国の兵士達だけじゃ間違いなく滅びそうなんだよね~。」
……とりあえず周囲を観察してみる。
エルフの国では陽もほとんど沈みかけていた夕食時だった。
だが、ここは真昼間だ。
間違いなく私と隊長さん、ボーイッシュボインさんにハイ師匠は、『転移』したのだろう。
「察しがいいね~。私が転移出来る魔道具を作ったんだよ!凄いでしょ!……その腕輪!昔私が奇跡的に生み出せた『収納の腕輪』じゃん!どこで手に入れたの!?」
なるほど。
このお方が神か。
転移出来る円柱に、大きさに制限はあるが今のところ無制限に物を入れられるインベントリを作ったお方……。
拝まねば!
「随分熱心な信者さんだね~。その通り!私が『発明の神』として崇められるデヴェロプだよ!『ヴェロ』って呼んで!」
「ニートです。よろしくお願います。」
「え?お前の名前って「シャラップ!」……。」
まったく……鑑定持ちの相手をするのは疲れるぜ。
どうやって口封じをしておくべきか……。
別に名前を知られたことに関しては問題だとは思っていないけど、こいつ口が軽そうというか警戒心が低過ぎるというか、こんなやつが『鑑定』持ってると、個人情報を自覚がないままあちこちに広められそうで怖いな。
何とかして黙らせる方法を見つけないと……。
そういえば何しにここへ来たんだっけ?
……モンスターの襲撃か。
仕事は別に引き受けてもいいけど報酬は?
私は高いぜ~。
「報酬か~……。う~ん……。そこのスラエラはどう?おっぱい大きいよ?」
「食肉加工場に持って行くのが面倒なので他の物でお願いします。お金でもいいですがこの腕輪みたいに凄く便利な魔道具が欲しいです。」
「人間の肉を食べると病気になるからやめておいた方がいいよ?とりあえず報酬は便利な魔道具ってことで考えておくね。」
「よろしくお願いします。それでどこのどいつを屠ればいいんです?」
「ついて来て。」
そう言って神は歩き出してしまった。
そういえば私は魔道具を報酬に働くことを決めたが、隊長さんとハイ師匠はどうするのかな?
協力要請に応じて来たんだから仕事はするだろうけど、報酬の交渉はまた後でやるのかな?
そんなことを考えながら神の後を追う。
……ここって普通の人間の街じゃない?
でも人間は多いけど、獣人とかエルフの姿も確認できる……。
多種族国家かな?
隊長さんは『人間と決別した』って言ってたけど、ここは違う大陸だからノーカンかな?
一瞬で転移したから別の大陸って感じがしないけど。
神は非常に眺めの良い高台で立ち止まった。
遥か数キロ先まで見渡せる高台から見たモノは、1匹1匹が非常に大きな、翼のないドラゴンの大群だった。
それにしても城壁っぽい壁の少し先から透明な魔力の壁みたいなものがあるけど、あれってなんだろう?
「あれはこの国の地下を流れる地脈のエネルギーを魔力に変換して壁として発現させる魔道具だよ!魔力をエネルギーに変換するのではなく、エネルギーを魔力へと変換するのに凄~く苦労したな~。」
あのデカさのドラゴンが侵入できないってことは滅茶苦茶凄そうだけど、これなら急いでくる必要はないよね?
もしかしてエネルギー切れとかするのかな?
でも地脈をエネルギーに……。
地脈って地中深くを流れるマグマのことかな?
「エネルギーは切れなくても、魔道具が長期間の使用に耐えられそうにないんだよね~。あのドラゴンが壁を攻撃するたびに、壁の修復に莫大なエネルギー変換が必要だから変換器が持たなくて……。そんな訳で、あのドラゴンを何とかしてくれないかな?」
……1匹なら何とかなりそうかな?
あのタイプのドラゴンは前にダンジョンで倒した記憶があるし。
前より大きくで強そうだけど、私もあの時より圧倒的に強くなってる。
勝てない道理はないね。
さて……どうやって攻撃するべきか……。
「壁の内側から一方的に攻撃することは出来ます?」
「それは出来ないね。攻撃するときはあの壁の外に出ないといけないよ。この指輪に魔力を通している間だけ壁を素通りできるから、今渡しておくね。」
どうやら内側から魔法で一方的に攻撃することは出来ない様だ。
ちょっと不便だけど、一方通行の壁は流石に作れなかったのだろう。
指輪に魔力を通している間しか壁の行き来が出来ないというのは少し不便だが、安全上仕方がないのだろう。
指輪を受け取り、どうするか考える。
……とりあえずもう少し近くで観察したいな。
「な、なぁ……何とかなるのか?」
……そういえば、結局こいつは何なのだろう?
特別な目を持った神のパシリ?
戦闘力は低いの?
「スラエラは一応、この国にある精霊樹を管理する巫女だけど、戦闘力はかなり低いよ。特別な眼も貴重だけど、精霊の声を普通に聞けるヒトはかなり貴重なんだよ!ダブルで貴重な超珍しい娘なんだよ!」
……ダブルで貴重な存在を『おっぱいが大きい』という理由で『報酬にどうか?』と聞いてきたのか……。
ある意味最大限の報酬なのかもしれないけれど、他人を勝手に報酬にするのはどうかと思うよ?
とりあえず戦闘の役に立たないなら今は無視だ。
……そういえばあのドラゴンの情報は見えるのかな?
「あのドラゴンの詳細な情報は分かる?」
「え……?え~っと、『5凸リザードドラゴン』って名前で、スキルは『火魔法』と『風魔法』を持ってるな。ステータスの数字は見えないけど、『全身が分厚い鱗に覆われており、弱点は顎の下』って書いてあるぞ。」
……有能!
この距離でモンスターの情報が分かるとか普通に便利だわ。
私の手の平クルックルしちゃう。
とりあえず……。
……名前考えたやつ適当過ぎるだろ!
『5凸』ってなんだよ!
私は意味が分かるけど、普通分かんねぇよ!
もしかして説明文考えたのは異世界からの転生者か転移者じゃないの?
まぁ、今はそのことは置いておこう。
大事なのは『弱点は顎の下』ということだ。
人間でも顎の下に攻撃されるのは普通にヤバいと思うのだが、あのドラゴンを見た感じと、『全身が分厚い鱗に覆われている』という説明から、顎の下くらいしか刃物が通らないのだろう。
動物ならお腹の皮が柔らかかったりするのだが、そこを言わないということは腹の皮までぶ厚いか、筋肉や脂肪が多すぎて致命傷になる程の傷を負わせることは難しいのだろう。
そもそもどうやってお腹を攻撃すればいいのか知らんけど……。
だがどうやって顎の下に攻撃を加えるか……。
通常の4足歩行状態ならともかく、壁を壊そうと立ち上がっちゃっているんだよね。
どう頑張っても頭に手が届かないや。
となるとやはり、魔法で何とかするしかない。
今の私なら魔法を高速で射出できるし、ドラゴンの顎の下にピンポイントで魔法を当てるだけのエイム力もあるだろう。
何の魔法を試そうか……。
候補としては『物理魔法』・『氷魔法』・『土魔法』だが……。
『物理魔法』は強度が心配だ。
隊長さんが素手で壊せる程度の強度しかないということは、いくら弱点とはいえ、ドラゴンに高速でぶつけたときに衝撃で自壊して魔法が解けてしまう可能性があるだろう。
もしそうなってしまった場合はあまり意味がない。
1度は試してみてもいいが、結果を見てから判断するべきだろう。
とりあえず候補1で。
『氷魔法』は魔力の消費量が多すぎる。
表面を凍らせるのではなく、氷の大槍を作って射出しなければならないので、1発1発が相当な魔力消費量となるはずだ。
全部のドラゴンを一撃で倒せるのなら魔力は足りるのかもしれないが、1匹に対して複数回攻撃しなければならない場合、間違いなく魔力が枯渇するだろう。
……まぁ、ドラゴンを全て私一人で倒す必要はないだろうから、候補としては2番目だ。
そして最後の候補は『土魔法』。
土なんてどこにでもあるので、そこから大槍の素材分を回収すれば非常に低コストでドラゴンに攻撃を加えることが出来るだろう。
問題はスキルレベルの低さだ。
『物理魔法』のスキルレベルは今53。
『氷魔法』は31。
それに対して『土魔法』は1のままだ。
スキルレベルが上がることによるメリットをあまり感じたことはないが、攻撃の威力に関係がある場合、このスキルレベルが足を引っ張る可能性があるだろう。
まぁ、一応試してみるのもいいかもしれない。
候補3だな。
「なぁ!大丈夫なのか!?何か言ってくれよ!」
……うるさいボーイッシュボインだなぁ……。
その胸揉みしだくぞ。
今はとりあえず無視するのだった。
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