第127話 やぶへびにならないといいな……。

ビッグボアのお肉はそこそこの量を確保出来たが、ペットにしたいと思える動物とは一切巡り会えないまま、私と隊長さんはエルフの国へと帰って来た。

私は『ペットは大事な家族の一員』だと思うタイプなので、『可愛い動物なら何でもいい』という考えはないのだ。

街中でペットを連れ歩いているエルフさん達を羨ましく思いながらも、特に何事もなく隊長さんの屋敷へと到着した。


「お帰りなさいませ。」


屋敷に戻ると在庫ちゃんが出迎えてくれた。

エルフちゃんは……今日も筋トレを行っている様だ。

微かに金属同士がぶつかる音が聞える。

そういえば、私がいない間は筋トレ後にちゃんと治癒魔法を受けたのだろうか?

普通に怪我に繋がるので、後で聞いておかなければいけない。


とりあえず在庫ちゃんに露店の玩具屋で買った人形を1つ渡し、椅子に座らせる。


「これは……?」


「露店で買い物をしたときに銀貨が足りなくて金貨で支払ったんだけど、当然ながら露店ではお釣りとして渡す大量の銀貨は持っていないくてね。お釣りの量を減らすためについでに買ったんだよ。」


「そうなんですか。……私が貰ってもいいんです?」


「やっぱりいらなかった?」


「……いえ、初めて人形を手に取ったので……。ありがとうございます。大切にします。」


……意外と喜んでもらえた様だ。

まぁ、人形の値段は普通の収入からしたらちょっとお高いもんね。

子供の頃に買って貰えなかったとしても不思議ではない。

さて……本題だ。


「今からちょっとエアリアに魔法を使うから、リラックスしてね~。大丈夫、怖くないよ~。」


「分かりました。」


素直な在庫ちゃんを魔力で包み込み、鑑定魔法を発動!


____________


Lv.11(45%)

・HP(体力):39/40(120)

・MP(魔力):108/112(120)

・STR(筋力):15(120)

・MAG(超感覚):101(120)

・SEN(器用さ):15(120)

・COG(認識力):10(120)

・INT(知力):73

・LUC(運):8


スキル

・物理魔法(30/100)


____________


……ふむ。

典型的な魔法使いだね。

(魔力)と(超感覚)だけが高くて、他は少し低い。

……(運)が8って酷くない?

大丈夫?


「今のは……?」


「新しく『鑑定魔法』を覚えてね。エアリアのステータスを見させてもらった。」


「鑑定魔法……ですか?」


「そう、鑑定魔法。」


『鑑定魔法』を知らないのだろうか?

まぁ、知らなくても別に不思議ではないか。

『鑑定魔法』という存在は知っていても、持っている人が1人もいなかった結果、ステータスの存在自体を認識していない人が多いのだから。


「とりあえず、(筋力)と(器用さ)と(認識力)のステータスが低すぎるね。(筋力)と(器用さ)は魔法で戦うならそこまで必要ないだろうけど、(認識力)は鍛えた方がいいと思うよ。」


「それはどうやって鍛えれば……?」


……(認識力)ってどうやって鍛えるんだろうね?

あれかな?

ビジョントレーニングとかすればいいのかな?

やり方知らないけど……。


とりあえず聞えなかった振りしてスルーして、次はエルフちゃんのことを鑑定しに行くのだった。




……エルフちゃんが凄い重量のバーベルを上げてる。


この短期間でどうやってここまでパワーが上がったんだ?

やっぱり筋トレして魔法で回復するやり方が原因だろうか?

見た目的にはゴリゴリのムキムキマッチョになったりはしていないのだが、あの細い腕であの重量はヤバいだろう。


とりあえず声をかける。


「ソフィーナ。ちょっと今から魔法をかけるけど、気にしなくていいからね。」


「え?……分かり……ました。」


そんな訳で鑑定をほい!


____________


Lv.19(19%)

・HP(体力):54/114(200)

・MP(魔力):131/131(200)

・STR(筋力):182(200)

・MAG(超感覚):98(200)

・SEN(器用さ):120(200)

・COG(認識力):132(200)

・INT(知力):55

・LUC(運):50


スキル

・風魔法(24/100)

・水魔法(32/100)


____________


……なんか高水準な感じ?

(筋力)だけ高くなっている気がするけど、これはここ最近の筋トレの成果だろうか?


「えっと……。帰っていたんですね、お帰りなさい。今、何をしたんですか?」


「『鑑定魔法』を手に入れたからソフィーナを鑑定してみたんだけど、(筋力)だけ結構高くなってるね。私と隊長さんがいない間も筋トレを結構頑張ったの?」


「その……。『無理をしたら駄目』と言われていましたけど、日に日に持ち上げられる重量が重くなってくるので楽しくなってきてしまって……。あ、治癒魔法は毎日ちゃんと受けていましたよ。」


……エルフちゃんが筋トレに目覚めてしまってる。

ヤバいな……。

勧めたのは私だけど、ゴリゴリのムキムキエルフちゃんなんて見たくないでござる!

そろそろ筋トレではなく、技を磨くように誘導しなければ……。


「そ、それじゃあそろそろ薙刀を総鉄製にして、素振りで技のキレを出すように練習した方がいいかもね。レベルを上げないともう少しで(筋力)が伸び悩みそうだし……。(体力)ももう少し鍛えてもいいかも。」


「鑑定魔法ってそんなことまで分かるんですね……。分かりました。上げられる重量が伸びなくなってきたら少しづつ技の練習を増やしていこうと思います。」


ふぅ……。

エルフちゃんがゴリゴリになるのは阻止できそうだぜ。


エルフちゃんにも露店で買った人形を1つ渡し、少し部屋で休むことにした。




しばらくのんびりと部屋で休み、(そろそろ夕食かな~?)と思ったときにタイミングよく扉がノックされた。


「ニートさん。夕食の用意が出来ました。」


在庫ちゃんが部屋まで知らせに来てくれたようだ。

部屋を出て一緒にダイニングへと移動する。


「来たか。熱いうちに一緒に食べよう。」


隊長さんの笑顔が眩しい。

テーブルの上に並べられている料理を見る。

……非常に元気になりそうなものばかりだ。

今夜も熱い激戦になりそうだね!


しばらくは和気藹々とした食事が続いていたのだが、途中で来客が来たようだ。

こんな時間に誰かな?


「食事時に申し訳ない。ソフィーアさんに至急報告することがありまして……。」


「どうした?内密な話か?それともハイエルフの方々に伝言すべき内容か?」


「どちらとも判断がつきませんが……今、この国の城門に1人の人間が来ています。敵対する意思はない様で、兵士たちの目の前で武装を完全に解除し、とにかく『精霊に会わせて欲しい』の一点張りで……。」


「『精霊』か……。精霊に導かれた者なら無下に扱う訳にはいかないが、どうしたものかな……。分かった。とりあえず今から城門へ行こう。」


人間が城門へ来たのか……。

私と隊長さんを尾行したわけじゃないよね?

数日間気づかれずに尾行されるとは思えないし……。

それに『精霊』か……。

少し気になるな。


「私もついていっていいです?」


「ん?まぁ、問題ないが。何か気になるのか?」


「私とソフィーアの後をついてきた可能性を考えまして……。」


「……そうだな。何かあった場合は手伝ってほしい。」


そんな訳で城門へ移動。

城門が近づくと、何か大きな声で言い合っている声が聞こえてきた。


「頼む!入れてくれ!この街に『精霊の樹』があるんだろう!俺は精霊にここへ来るように言われて来たんだ!」


「確認が取れるまで人間の貴様を入れることは出来ない!入りたいのならば大人しく待っておけ!」


「急がないと街が滅ぶんだ!頼む!もうあまり時間に余裕はないんだ!」


……何やら差し迫った事情がありそうだ。

城門の上へと登って姿を確認してみると、肌はしっかりと日焼けしており、髪は短く服装も男物で、後ろから見たら少し小柄な男かと思ってしまうような格好だが、地面に落ちている胸当てにどうやって詰め込むのか想像がつかない程大きく盛り上がった胸が女性であることを主張している人間だった。


「あれだな?……見たところ女だな。本当に1人しかいなかったのか。」


「少なくとも城門付近に近づく者は他にいませんし、目の良い者が周囲を見渡しても、他には誰もいないようでした。」


「陽も落ちかけているからあまり目は当てに出来ない。警戒は怠るなよ。私はあの者と話してくる。」


「よろしくお願いします。」


隊長さんが不気味な仮面をつけて人間へと近づいていったので、私も紙袋を被って後に続く。

紙袋を被るとなんでこんなに落ち着くんだろうね?


「精霊に用があるようだが、どうやってこの国へ来た?」


「あんたは……。あんたが責任者みたいだな。この国には船で来た。小さな小舟だが、教わった通りに海に出ると、この近くに流れ着いたんだ。」


どうやら私と隊長さんが尾行されたわけではないらしい。

とりあえず一安心。

さて……ついてきた以上少しは協力するかな。

魔力を放出して鑑定魔法を……。

……弾かれた?


「ん?お前今俺に何かしたか?……この『鑑定魔法』って奴か?」


「……ステータスが見えるの?」


「ああ、見えてるぞ。ヨメイ……?人間なんだな!」


……こいつから魔力の放出は一切感じなかった。

となると可能性としては、特別な目を持っているか、『鑑定魔法』ではなくもっと上位の鑑定系スキルを持っているかだ。

少なくともこいつは私の名前と種族まで見えている様だが、私の鑑定魔法では名前も種族も出なかった。

……厄介だなぁ。


「……どうやら普通の人間ではないみたいだな。この国と敵対する意志はあるか?」


「ない!ここへは精霊に『精霊の樹』へ行くように言われて来ただけだ。それとこれを預かって来た。これを『精霊の樹』に持って行けば、助けてくれるって……。」


女が手に持って差し出してきたのは、手の平に乗る程の大きさの円柱状の物だった。

石を素材に作られている様だが、私は石に詳しくないのでよく分からない。

ただこれを見たときに『魔除けの聖遺物』を初めて見た時と同じような印象を受けた。

もしかしたらこの女は妄想や幻覚ではなく、本当に精霊に言われてここへ来た可能性が高いのかもしれない。


……それなら私は関係ないかな?

適当なタイミングで帰るとするか。


「その者は問題ありません。」


ハイ師匠も出てきた。

なんだろう?

結構な大事なのかな?


「私について来てください。ソフィーア・それにあなたも。」


……なんで私も指名するんだよ~!


ハイ師匠に逆らう気は一切ないので、大人しくついていくのだった。

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