第126話 デジャブ?
拠点の制圧作業は非常に順調に進んだ。
まぁ、私と隊長さんの実力を考えれば、それは当然のことだろう。
だが、地下に降りたときに1つ問題が発生した。
明らかに裏組織とは関係がなさそうな捕らわれていた人間がいたのだ。
歳は10歳くらいで性別は女、少し汚れてはいるが質の良い布で作られた服を着ている。
手足をロープで拘束されていて、暴行を受けた形跡はない。
恐らくゴロツキ共が、どっかの良家から身代金目的で誘拐してきたのだろう。
女の子とは完全に目が合ってしまったのだが、その時はゴロツキの処理を優先したために一旦スルーし、上の階に戻って金目の物や金庫の中身は全て奪いインベントリに収納した後に、仕方なく地下へと戻って来た。
だがこういう時はどうすればいいのだろう?
拘束を解いて助けるのは別にいいのだが、その後この子を家に送り届けないといけない場合は非常に面倒臭い気がする。
「この娘どうします?」
「とりあえず拘束を解いてもいいんじゃないか?自力で家に帰れるなら放っておけばいいし、帰り方が分からないのなら話を聞いてアドバイスするくらいでいいだろう。流石に家まで送り届けるのは勘弁して欲しい。」
そうだよね。
薄情かもしれないが隊長さんはエルフで人間に化けている身。
街の中を歩くだけでクッソ目立っているような気はするが、わざわざ自分から目立つような行いはするべきではないだろう。
私としても、報酬もなく献身的に人助けをする様な精神は持ち合わせていない。
無責任かもしれないが拘束だけ解いて、あとは放っておこう。
拘束を解くために近づくと、女の子は身を捩らせて非常に怖がっている様子。
大声を出されるとうるさそうなので、拘束を解く前に一声かけておくべきだろう。
「今拘束を解いてやるから大声は出すなよ。拘束を解いた後は好きにすればいい。自力で逃げられるのなら逃げればいいし、ここに留まるのも自由だ。ただ1つ、私達についてくるような真似だけはするなよ。その場合は君を処分しなくてはいけなくなる可能性がる。」
一応私が敵ではないことを理解してくれたようで、少しでも私から距離を取ろうと身を捩らせていた女の子は大人しくなったので、普通に近づいて拘束を解いてやった。
喋ることが出来ないように口に布が詰め込まれているが、両手が自由になったのだから自分でなんとかするだろうし、私は何もしない。
あとは1人で頑張ってね。
私と隊長さんはもうここに用はない。
女の子は置いて、宿へと帰ることにした。
宿で隊長さんとの熱いバトルを繰り広げた翌朝。
宿の外には大勢の兵士が詰めかけていた。
どこか非常に懐かしい気持ちになったが、一体何があったのだろう?
なぜか私の顔を見た途端震え始めた兵士を捕まえて、何の騒ぎか聞くことにした。
「なにかあったの?」
「こ、この宿に、お、王女誘拐の容疑者が宿はきゅしている可能性があるとの報告が入りまして……。」
……昨日の女の子はお姫様だったのだろうか?
それにしては布の質がいいくらいで、至って普通の服装だったような……?
王族といえばもっとこう、隠しても隠し切れないオーラの様なものがあるかと思っていたのだが、実際は一般人と大差がないのかもしれない。
とりあえずもう少し詳細な通報内容を聞いてみる。
「つ、通報ではなく報告です。王女様は監禁場所から自力で脱出され、この街で巡回中だった兵士に無事保護されたのですが……。『非常に美しい女性と若い男がいた』との証言をなさいまして、その2名を王女の誘拐・監禁の容疑者として身元を調査をした結果、昨日からこの宿に非常に美しい女性が宿泊しているとの報告があり、急ぎ身柄の確保にやって来たのですが……申し訳ありません。」
詳しく教えてくれた後に何故か謝って来た兵士さん。
大丈夫、特に怒ってないよ。
……まぁ、確かに私は女の子を助けてはいない。
ただ拘束を解いただけだ。
人によっては拘束を解いただけでも『助けてくれた』と証言してくれる場合もあるが、王女という身分では安全な場所まで連れて行って保護されるまで付き添わないと『助けてくれた』とは証言しないのだろう。
正確な証言が出来て偉いね!
次に会ったらデコピンで攻撃しよう。
それにしても、『非常に美しい女性と若い男がいた』という証言だけで私達を指名手配するなんて、この街の捜査機関は無能の集まりか?
『どんな奴は分からないけど、とりあえず捕まえて情報を吐かせよう!最悪真犯人が見つからない場合はそいつらに罪をかぶせればいいよね!』みたいなノリで組織を運営しているのだろうか?
非常に多くの兵がいるのだが物音1つしない程静まり返った宿屋前。
仕方がないので兵士たちに声をかける。
「無実の私と私の連れを拘束するのと、無能な上司を拘束するの……どっちがいい?答えによっては全員処分するよ?」
兵士たちは一糸乱れぬ動きで回れ右をし、綺麗に隊列を組んだまま去って行ってしまった。
『個人』としての力はエルフの兵士たちの方がまだ高いのかもしれないが、『兵隊』としての統率された動きは人間の兵たちの方が優れている様な気がした。
「今度は何があったんです?」
宿屋に戻ると受付さんが聞いてくる。
隊長さんも受付で待っていた。
私が話してくるから待っているよう言ったが、一応念のため待機していたようだ。
「昨日偶然出会った女の子が王女様だったらしく、無関係なのに勘違いされて厄介ごとに巻き込まれそうだった感じですね。誤解は解け、無能は自浄してくれそうなので何も問題はありません。お騒がせしました。」
「そうですか……。少し前から『軍の捜査が杜撰だ』と噂になっていましたが、王女様が関わっている件ですらまともに捜査しないなんて……。この街になにもなければいいのですが……。」
噂になる程酷かったんかい。
まぁ、現状の科学レベルでは、証拠に基づいた捜査なんて不可能なのだろう。
勘と経験と過去の事例で適当に容疑者を捕らえ、拷問によって自白を促す。
私のイメージはそんな感じだ。
実際はもっとひどい可能性もあるが……。
「本当に何の問題もないのか?」
隊長さんも聞いてくる。
そういえば『非常に美しい女性』という情報で隊長さんを捕らえに来たんだよな。
案外欲にまみれた糞野郎が『非常に美しい女性』と聞いて、手籠めにするために兵を送っていたりして……。
まぁ、実害が出るようならもう1度街を滅ぼしかければいいか。
新しい城壁とか、蹴るにはいい感じの厚さだし。
「次があったら滅ぼすだけです。自浄作用が働いているうちは、少しは様子を見てもいいのかもしれません。」
「……そうか。ならいいのだが……。」
「とりあえず今日も商店を回って、なにもなければ今日中に出発しましょうか。もう特にこの街に用はないですし。」
「分かった。では行こうか。」
今日も隊長さんにガッチリと腕を組まれながら街を歩く。
最初にやって来たのは、この街に初めて来た時、最初にビッグボアのお肉を買い取ってくれたお肉屋だ。
ここの加工肉は美味しかった記憶がある。
今でも美味しいといいのだが……。
「いらっしゃい!ん?あんときの兄ちゃんか?最近見なかったが……隣の美人は恋人か?」
「そうですよ。お肉を大量に買いたいんですけど、朝一から品切れにしても問題ないですか?」
「すまねぇが最近この街周辺ではあまりモンスターの肉が獲れなくなっていてな。あまり供給が追い付いていないんだ。だから全て買い占めるような注文は断っている。悪いな。」
「この街に来る途中で狩ったビッグボアが1匹ありますけど……。」
「全部買い占めていいからビッグボアを売ってくれ。金なら払う。」
見事な手の平返しだ。
とりあえず加工場にお邪魔させてもらい、ビッグボアをインベントリから取り出す。
サイズが本当にギリギリだった……。
インベントリに入れるために、初めて隊長さんに協力をお願いしたね。
インベントリの存在を隠すのはどうしたって?
……まぁ、肉のためなら仕方がないから……。
この件はくれぐれもご内密に……。
「少し小ぶりだが、解体前のビッグボアか……。すげぇな、見事に心臓を一突きだ……。よしっ!それじゃあ肉と金を用意するから、少し待っていてくれ。ついでに閉店の看板も出さないとだな……。」
肉屋のおっさんから結構な額のお金と大量のお肉を受け取り肉屋を後にした。
この量なら毎日食べても2週間は持つだろう。
やっぱりインベントリに入れておけば腐らないからいいね。
正直もうスキルは必要ないかなって思ってたけど、インベントリが使えるようになるスキルは欲しいね。
出来れば収納出来る大きさに制限がないやつ。
そんなことを考えながら、次にやって来たのは鍛冶屋。
せっかくだからこの街の鉱物を買い漁りに来たのだ。
「らっしゃい。お?生きてたのか。台車のパーツを受け取って以来1度も見なかったからてっきり……。あぁ、女に引っかかったんだな。すげぇ美人じゃねぇか。おめでとう。」
「どうも。ここって金属そのものも売ってます?自分でも鍛冶をするようになったんで、結構大量に欲しいんですけど。」
「一応売ってはいるが……。なんか作ったもん見せてみろ。それで売る量を考える。」
非常に上から目線のおっさんだ。
そんなおっさんに最新作のクナイを見せつける。
ほれほれ。
なかなかいい出来じゃろう?
……なんか言えよ。
「これ、本当にお前が……?形は変わっているが、凄い切れ味だな……。」
「まぁ、研ぎだけは結構頻繁にやってますからね。それはただの鉄ですからそこそこの切れ味ですけど、素材がいいともっとギラッギラになりますよ。」
「……普通の鉄しか売ってねぇが、それでもいいか?量は好きなだけ買ってくれていい。」
『好きなだけ買ってもいい』とのお言葉に甘えて、在庫をすべて買い取らせてもらった。
それでもさっきのビッグボアの売上金は余ったが……。
ビッグボアってやっぱり金になるんだなぁ……。
帰り道でも積極的に狩って行こう。
美味しいお肉はいくらあってもいいからね!
さて、鍛冶屋での買い物も終わったので、もうこの街に用は無くなった。
隊長さんの興味を引くものも特になかったようだ。
『珍しい物』には縁がなかったのだろう。
スキルオーブは大量にゲットできたが……。
いつかまた来よう。
数ヶ月しか滞在していなかったし、絡まれたり喧嘩売られまくったり指名手配されたりと、正直まともな思い出は少ないけれど……。
それでも、この世界で最初に暮らした街だ。
故郷と思えるほどの思い入れはないが、また来ようと思えるだけの出会いはいくつかあった。
隊長さんと手をつないで歩きながら、何度も振り返って遠ざかる街の景色を目に焼き付けるのだった。
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