第125話 後悔は自分で思っている以上に重くのしかかる
いろいろなアイテムを鑑定してみたが、アイテムの詳細な説明は内容が非常に適当だった。
細かく説明が出てくる物もあれば、一言で済まされている物もある。
まぁ、物のすべてに詳細な説明を付けるとなると非常に面倒で、鑑定魔法を作った担当の神様的な存在は、アイテムの説明が途中で面倒臭くなったのだろう。
実際はどうなのか知らないが、そう思っておくことにする。
とりあえず風魔法と土魔法を入手しながら、ドワーフのおっさんにランダムスキルオーブを見せた。
もしかしたら『レア度3のスキルオーブ』なら、ドワーフのおっさんが欲しがっている錬成魔法を入手できる可能性があるけど、自身で見つけることに対してこだわりがあるのか、一度も『売って欲しい』とは言われなかった。
正直これ以上スキルを入手しなくてもいい気がしているので別に売っても良かったのだが、『欲しい』とも『売ってくれ』とも言わないのならば、遠慮なく私が使ってしまおう。
あ、隊長さんは新しくスキル欲しいです?
「私はいらないな。スキルに頼るよりも剣で斬った方が速い。」
……そうですか。
でも、もう少し魔法関係のステータスを上げてもいいんじゃないの?
(魔力)132の(超感覚)87とか、(筋力)の1211と比べると低すぎるんじゃない?
もう少しバランス良く鍛えた方がいい様な気がするけど……。
まぁ、剣に特化した成長をしてきたから119レベルまで強くなった可能性もあるし、私が何か言うことではないよね。
一芸に秀でればなんとやらって、元の世界で言われていたような気がするし……。
エルフちゃんや在庫ちゃんは新しいスキルを欲しがるだろうか?
……在庫ちゃんは新しいスキルを覚えてもいい気がするな。
魔法主体で戦うのなら、スキルはいくつかあってもいい様な気がする。
ランダムスキルオーブは今は使わず、持って帰ってからどうするか考えようかな。
そういえばエルフちゃんと在庫ちゃんには、欲しがるか分からないが人形のお土産を買ったけど、隊長さんには何も買ってないな……。
滅茶苦茶お世話になってるし、何かプレゼントでも送ろうと思うのだが、何を送ればいいのかな……?
剣は勿論私が作ってプレゼントする予定だ。
だが、もう少し女性扱いをする様なプレゼントも送った方がいい様な気がする。
普通ならアクセサリーを送ると思うのだが、隊長さんは全然装飾品を付けないんだよなぁ~……。
なにか欲しいものはないか聞いてみるべきか?
モテるイケメンならば己のセンスでプレゼントを選んで、確実に女性を喜ばせると思うのだが、いかんせん私はエロゲのモブ顔主人公。
プレゼントを選ぶセンスなど期待できない。
ここは素直に聞いてみよう。
「ソフィーアは今、何か欲しいものはある?」
「そうだな……。しいて言うのなら、君との子供が欲しいかな。勿論、手伝ってくれるのだろう?」
……そう、私はエロゲのモブ顔主人公。
プレゼントで喜ばれるものは1つしかないのであった……。
……もっと頑張ろう。
その後は特になにもなく、隊長さんと仲良く街を散策するだけに終わった。
途中で見つけた良い匂いが漂っているお店に入り、結構美味しい夕食を楽しむ。
エルフの国での食事もなかなか美味しかったけど、エルフの国では食材そのものの美味しさで料理がおいしい感じだが、やはりここは流通拠点の港町。
食材は普通だと思うのだが、豊富な調味料で上手く素材の味を引き出している印象だ。
まぁ、その分普通の人の収入じゃ、毎晩食べるのは無理そうなお値段だったが、今の私にとっては大した額ではない。
周囲の席にいる人たちが食べていたおいしそうな料理を次々と頼み、隊長さんと共に楽しい夕食を終えるのだった。
さて、既に陽は沈み宿へ向かって移動しているのだが、鈍い私でも気づくほど、どこからか悪意を感じた。
周囲を見渡してみると、こちらを見ている人相の悪い男がそこそこの人数見受けられる。
男女問わず、すれ違う人全員が振り返るような美人さんに、見た目が対して強くなさそうな私。
沢山食事をしていたことから、お金も結構持っていることが分かっているだろう。
つまり絶好のカモだ。
ほらほら、遠慮なく襲ってきてもいいんだよ?
捕まえて拷問して、組織の拠点を聞き出して、その金をすべて奪うつもりでこの街に戻って来たのだから……。
家なんて正直ついでだ。
わざと人通りの少なそうな路地へと入ったところ、大勢の男たちに前後から挟まれた。
せっかくなので、新たに入手した土魔法で路地への入り口を完全に封鎖しておく。
これで逃げることは出来ないし、外から入ってくる心配もないだろう。
さて……どうやって死なない様に無力化しようかな?
新たに入手した『風』・『土』・『水』の魔法を使ってもいいけど、こういう場合には物理魔法の方が効果が高い気がする。
在庫ちゃんが練習していた、物理魔法を射出しての斬撃に挑戦してみるのもいいのかもしれない。
最近物理魔法は全然使わなくなって、スキルレベルが伸び悩んでいるからね。
「わりぃけど金目の物とお「誰が話してもいいと言った?私がする質問の答え以外を声にした場合、こいつのように頭と体を別々にするぞ。」」
何が起こったのか分からないまま地面へと転がっている首を見て、男たちの間に動揺が広がる。
私が少し魔力を放出しただけで、私と男たちの間にどれだけ差があるのか把握できたのだろう。
そうか、威嚇するなら魔力をぶつけるだけでも良かったんだね。
最近は無駄やロスのない、省エネな魔法の使い方ばかりしていたから、最初の方で覚えた『魔力を放出されるとプレッシャーを感じる』ということを、完全に忘れていたよ。
でも、魔力の放出をしても全然何とも思わない、感受性の悪いやつも結構いるみたいだからなぁ……。
まぁ、今はこいつらの処理を優先するか。
「まず最初の質問。随分と大人数だけど、全員同じ組織の人間?」
……誰も答えない。
仕方ないので2人、頭と体がさようならさせる。
「質問に答えなかった場合、適当に2人選んで処理するからね。1人か2人は拠点へ案内させるために生かすから、質問には素直に答えた方がいいよ?それじゃあ心優しい私はもう1度質問してあげよう。全員同じ組織に所属している人間?」
「お、俺たちは、この街を拠点に活動している『シータワゴ』のメンバーだ……です。」
「そうか。素直に答えてくれたお礼に、君の命は助けてあげよう。拠点のある建物の場所も知ってるよね?」
「は、はい。」
「よろしい。それじゃあ、他のやつは全員用なしだな。」
「ウォォォォォ!」
背後のいた男が、叫び声をあげながら突っ込んで来て、張っていた物理魔法の壁に激突しそのまま倒れた。
こうも見事に自滅されると、殺すのがもったいないような人材に思えてくるから不思議だ。
まぁ、倒れた状態のままそいつの首も切り離したのだが……。
そこからは一方的な展開だ。
私を倒そうと突っ込んでくるやつは首を斬り落とし、『命だけは助けて欲しい』と許しを請う奴も首を斬り落とし、逃げようと土魔法の壁を叩いたり登ろうとするやつの首も斬り落とした。
流石に20人くらい処理したので、少し血の臭いが臭い。
「それじゃあ、拠点に案内して。」
「わ、分かりました。」
質問に答えた1人の男を先に歩かせ、組織の拠点へと向かう。
男のズボンは濡れており、正直近づきたくなかった。
「なぁ、やっぱり君、人間に対して容赦がなさすぎないか?あまりにも対応が違うと思うのだが……。」
そんなことを歩きながら隊長さんが小声で聞いてきた。
私としては、相手が人間だからといって厳しく対応しているつもりは一切ない。
確かにエルフの国では、何かあっても出来るだけ殺さないように気を付けていたが、そもそも悪意を向けてくるエルフがクソゴミカスエルフ1人しかいなかったのだ。
悪意がないのなら、1度くらいは口頭での注意に留めて、『次同じことをしたら容赦しない』って感じの対応をする。
悪意さえなければ1度くらいは許せるのだ。
だが、悪意を持って攻撃してくる相手に対して、容赦や許しは必要だろうか……?
元の世界でも過激派と擁護派に分かれそうな話題だ。
どちらが正しい・正しくないというものではなく、線引きの非常に難しい問題だと思う。
悪意なく犯した犯罪に対して、情状酌量の余地があることは誰にでも分かるし、よっぽどの被害でもない限りは罰金や償いで赦されてもいいと思う。
だが明確な悪意を持って犯した犯罪に対し、私は許しが必要だとは一切思えないタイプだ。
赦す必要が無いのならば、犯罪に応じた罰を即座に与えるべきだろう。
勿論容疑の段階ではなく、『確実に犯罪を犯した』と確定している場合にのみだ。
今回私と隊長さんを襲おうとした男たち。
金を払えば見逃すという感じではなく、力が無ければ私は金を奪われた後で殺され、隊長さんも欲望のままに襲われる結果となっていただろう。
……私も隊長さんも、あの程度の人数でどうにかなるような実力ではないが……。
まぁ、大事なのはあいつらが犯そうとした犯罪の大きさだ。
あの男たちは遠巻きに私と隊長さんを物色していたのではなく、犯罪を犯すために行動を開始したのだから、犯そうとした罪に応じて罰を与えることは当然の対応だろう。
でなければ『未遂』なんて罪状が存在するはずがない。
『やった』と『やろうとした』は、結果は違えども、どちらも罪なのだ。
『被害がない(なかった)』からといって許すとしよう。
そうなれば非常に高い確率で再び犯罪を犯し、別の知らない誰かが被害に遭う羽目になるだろう。
私は、『私が見逃したから』という理由で別の誰かが被害に遭う結果となったことを知れば、間違いなく後悔する。
取り返しのつかない後悔だ。
それが嫌だから、今回の男たちは、案内役のこいつも含めて皆殺しにするつもりなのだが……。
『嫌い』とか『なんとなくムカついた』みたいな感情的な理由ではなく、しっかりと考えたうえで処罰するのだから、分かってもらうことは出来ないのだろうか?
「……そうだな。『まだ何もしていない』のではなく、実際に行動を起こした以上、何かしらの対処はするべきなのかもしれないな……。本当にそうだ。見逃した結果後悔することは、確かにあるもんな……。」
無事、隊長さんに分かって貰えた様だ。
少し嬉しい。
「こ、ここです。」
建物の入り口前で、案内役の男が立ち止まりそう告げる。
以前の賞金首の時よりも、だいぶ裏家業の建物っぽい雰囲気だ。
案内役だった男に建物に入って貰い、背後から首を斬り落として処理をした後、私と隊長さんは建物にいるすべての敵の殲滅を開始するのだった。
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