第123話 私の運はカンストしてます。

私がハイ師匠にD:KATANAプロトタイプを納品した数日後、何のトラブルもなく無事に『魔除けの聖遺物』は復元された。

復元した『魔除けの聖遺物』を起動する際、ハイエルフの方々に呼ばれ、私と隊長さんもその場に同席したのだが、何も感じないまま『聖遺物は無事に起動しました。』と言われたので、拍子抜けしたほどだ。


私には何も感じられなかったが、思っていたよりも『魔除けの聖遺物』は効果が強いらしく、今後この街周辺でモンスターを狩ってお肉を得ることが出来なくなる程、効果範囲が広いらしい。

動物は出来るだけ殺したくない私としては、お肉を獲りに行くのが少し手間になったが、モンスターがこの街に近づけなくなっただけではなく、1つ大きなメリットがあった。

この『魔除けの聖遺物』の効果範囲内では、動物が魔物化することも無くなるらしいのだ。

つまりペットが飼えるようになる。

……あ、あの亀はデカすぎるので結構です


この発表はその日のうちに国中に広がり、2日後にはペットを連れたエルフさんを複数確認出来た。

鳥や狼は分かる。

……その狐、どこにいたの?

エキノコックス大丈夫?

あ、魔法でどうにでもなるんですかそうですか……。

羨ましい……。


そんな感じで、以前から飼えなくとも動物に餌をあげて可愛がっていたエルフさん達の間でペットブームが巻き起こっていたが、私と隊長さんは聖遺物の復元から5日後、人間の国に出発することにした。

エルフちゃんと在庫ちゃんは、トレーニング熱中週間で、留守番してるそうだ。


(正直もうあの家とかどうでもいいかな?)っていう気持ちはあるのだが、買ってしまった以上キッチリ責任をもって処分すべきだろう。

金庫だけ回収して、家は家具ごと売るつもりで、街へと移動するのだった。




それほど急がず、帰りに捕まえる動物を探しながらゆっくりと移動したのだが、3日目の昼には街へ到着した。

私も移動が随分速くなったものだ。

大襲撃で街が滅んでいるなんてこともなく、少し見ないうちに、以前建設中だった城壁はほぼほぼ完成しており、門の設置も完了していた。

隊長さんが人間に化けるための魔道具を発動していることを再度確認し、誰も並んでいない城門へと近づく。


「ん?君は……生きていたのか。随分長い間帰ってこないから、何かあったのかと思っていたぞ。」


一切覚えていないが、この門番さんは私の知り合いらしい。


「ちょっと他の国に行ってまして、こちらの女性に捕まったんですよ。活動拠点をこの女性の住んでいる街に移すので、この街に残していた家を片づけに戻ってきました。」


「そうか……おめでとう。君が以前、大量の食糧を獲って来てくれていたことには感謝している。この街は海運の重要流通拠点で、珍しいものが入ってくることも多いから、たまには遊びに来るといい。」


……顔すら覚えていない相手にここまで感謝を伝えられると気まずくなっちゃうね。

この街の領主宅を襲撃したり、城門に穴を開けたりしたことを知らないのだろうか?

まぁ、知らないから感謝しているのだろうが……。

とりあえず、さっさと街に入ってしまおう。


城門から以前の穴開き城壁までは、流石にまだ全然建造物は建っておらず、真っすぐ街の中へと向かう。


まず来たのは宿屋だ。

宿屋に来た理由は勿論宿泊するためだ。

流石にそこその期間放置していた家は、掃除しないと埃っぽいだろうからね。


「あ、お久しぶりですね。いらっしゃいませ。お食事ですか?」


以前と同じ受付さんだ。

なんだか懐かしいな。


「いえ、宿泊で。部屋は2へ……はい、2人部屋でお願いします。」


隊長さん、2部屋取ろうと考えただけで、そんなにプレッシャーをかけないで欲しい。

まぁ、既にお互い恥ずかしがるような関係でもないので、わざわざ2部屋取る意味はないし、セキュリティー面から考えても一緒の部屋がいいのだろう。

でも、街に入ってからこの宿に入るまで、周囲の人に凄く注目されたんだよな~。

やっぱ人間に化けようと、隊長さんの美貌は周囲から非常に注目されるのよ。

隊長さんと一緒にいる私もそこそこ凝視されるから、非常に居心地が悪かった。

人間の国で一緒に行動してると、トラブルの予感しかしないんだよな~。


とりあえず料金を払って2人部屋に案内してもらう。

相変わらず綺麗な宿屋だな~。


「良い宿だな。部屋にはゴミ1つ落ちていないし、ベッドのシーツも綺麗だ。」


隊長さんも気に入ってくれた様子で一安心。

普通にまっすぐこの宿に来てしまったが、着いてから(そういえばこういう場合、もっと高級な宿屋で部屋を取った方がいいのかな?)と思ったのだ。


「私は家の確認に行くけど、ソフィーアはどうする?」


「もちろん一緒に行くぞ。」


……なんだか隊長さんがすごく楽しそうだ。




「ここが君の家か。大きくはないが、1人で住むにはちょうど良さそうな広さだな。」


家は無事だった。

ドアが開いた形跡すらなかったので、泥棒には入られなかったようだ。

埃をかぶった金庫を回収し、家の権利書なども回収する。

これでもうこの家には用がない。

次は不動産屋だ。


「いらっしゃいませ。……おや?以前家を購入された……?」


「はい。拠点を別のところに移すので、家の売却をしようと思ってここに来たのですが、ここでは買取も行っていますか?」


「承りました。契約の際の契約書や家の権利書などはお持ちでしょうか?」


「これです。」


家はこの場で買い取って貰えるらしく、家の売却手続きは非常にスムーズに行われた。

売却額は金貨75枚。

購入額が金貨250枚だったので3分の1程度の値段だ。

でも元の世界では、家の価値など無価値同然の場合がほとんどだったような……?

土地の価値はともかく、家の価値はすぐに無くなるイメージだったので、3分の1戻ってくるのはマシな方なのではないだろうか?


「ありがとうございました。」


こうして不動産屋をあとにした。

終始笑顔だったので、儲けが良かったのだろう。

まぁ、金貨250枚で売って、金貨75枚で買って、何もすることなくもう1度金貨250枚で売り払えば大儲けになるだろうが……。


「次はどこに行くんだ?」


隊長さんが聞いてくる。

正直もうこの街に用はない。

観光してお土産を探すくらいだ。

ずっと隊長さんに付き合って貰っているし、隊長さんが喜びそうなところにでも……。

……何も思いつかねぇ。

私、この街のことあんまり知らないわ。

隊長さんはこの街で行きたいところある?


「そうだな……。露店や商店を見て回ろうか。門番の言っていた珍しいものが見つかるかもしれない。」


そう言って隊長さんは腕を組んできた。

それもなかなかガッチリと組んで、手は恋人つなぎだ。

流石に少し気恥ずかしい。

街を歩くほぼほぼ全員がこちらを注視している様な気さえしてくる。

だが、誰も近づいて来ないのはなぜだろう?

こういう場合、ちょっとオラついた陽キャが『君可愛いね~。そんな奴放っておいて、俺たちと遊ばな~い?』みたいな感じで、絡んでくるかと思っていたのだが。


「近づこうとしているやつは結構いるぞ?少し威嚇したら動けなくなる程度の雑魚だから無視していてるが。」


……気づかなかった。

ところで威嚇ってどうやるの?

私も絡まれること多いから、威嚇の仕方は覚えたいんだよね。

魔力を全開で放出するのは効率が悪いし……。


「威嚇の仕方か?……君には難しいかもしれないな。」


難しいのか……。

がるるる~ってやっても全然怖がられないもんね。

やはり顔なのだろうか?

それとも体格?


「いや、君は感情をあまり出さないタイプだろう?『こいつ邪魔だな』と思っても、気にしていないようにふるまう感じで……。威嚇は敵意を、意識して相手にぶつける感じだから、君みたいに理性と感情を切り分けているタイプだと上手くできないと思う。なにか強い感情が表に出ているときは出来ると思うんだが……。」


くっ!

元の世界で培った愛想笑い習慣が、こんなところで足を引っ張るとは……。

強い感情か……。

食欲とか?


「ああそうだな。君が肉を焼いている間、周囲になかなかの威圧感を放っているから、その時だけは皆邪魔しないように注意しているぞ。あと武器を研いでいるときも結構な威圧感があるな。よっぽど集中出来れば、威嚇も出来るんじゃないか?」


……いちいち集中するのは面倒臭いので、威嚇は隊長さんにお任せしよう。


誰にも邪魔されることなく、商店を次々と見て回る。

私は今のところ、これといって珍しいと思えるものが見つからないのだが、隊長さんはいくつか気になったものがあるようだ。

インベントリを持った私という最強の荷物持ちがいるので、遠慮なく大量買いしている。


露店の並ぶ通りに来た。

錬成魔法が手に入った時のように、スキルオーブが売っていたりしないだろうか?

そういえばドワーフのおっさんがこの街の露店を調べると言っていた様な……。


「珍しいな。私と同じように魔道具で誤魔化しているが、あれは恐らくドワーフだぞ。それにエルフも数名確認できる。露店で何かを探しているのか?」


そういえばあの時はエルフちゃんしかいなかったのか。

私が武器作りに使っている錬成魔法なんですがね、ドワーフさん達が喉から手が出るほど憧れている魔法なんですよ。

それを私が露店で入手出来ちゃったという話を聞いて、エルフに協力を呼び掛けたうえでこの街の露店を調べると、以前言っていましてね……。


「スキルオーブが露店に?まぁ、知らなければ売ってしまうのも仕方ないか。『鑑定』の様なスキルを入手できるスキルオーブがあるのなら、大金を払ってでも手に入れるのだが……。」


そうだよね~。

魔石を壊しました~、経験値を入手できたと思いま~す、でもレベルが上がったかどうかは私には分かりませ~んって状況じゃ、いろいろと不便だよね。

スキルオーブを壊しても、何のスキルが手に入ったのか自分では確認できないから、ただの宝石としか思われずに露店で売られる状況になったんだと思うし……。


「私達も見て回るか。」


隊長さんと共に露店を回る。

そして10分後、露店で普通にスキルオーブが売られているのを見つけてしまうのだった。

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