第122話 クナイ欲しいです、マジで。
大襲撃から1週間。
今のところ第2の大襲撃は確認できず、隊長さんとただイチャイチャするだけの、のんびりとした生活を送っていた。
魔王馬モンの口ぶりからてっきりすぐに次の大襲撃が来るのかと思っていたが、来ないのならば一旦人間の国に戻ってもいいのかもしれない。
そのことを隊長さんに伝えると、『魔除けの聖遺物』の復元がもうすぐ終わるので、完了次第一緒に行こうという話になった。
逃げるつもりはないが、逃がすつもりもないらしい。
私と隊長さんはイチャイチャしているだけで特に変わったことはないが、エルフちゃんと在庫ちゃんは少し生活に変化があった。
エルフちゃんは特注で作って貰ったバーベルやダンベルで、毎日筋トレを行うようになった。
毎日だ。
超回復なんて魔法で一瞬。
食べて筋トレして食べて素振りしてという生活を、ダンベルが届いた5日前から毎日行っている。
大襲撃の時に1人であっさりとモンスターを倒せたことで、強くなりたいという気持ちにブーストがかかったみたいだ。
まぁ、私の回復魔法の経験にもなるし、頑張って欲しい。
在庫ちゃんも似た感じだ。
家事は今でも続けているが、魔法の訓練を毎日行うようになった。
物理魔法で敵を倒すことに愉しさを見出してしまった様だ。
大襲撃の際に体力不足も自覚したそうで、ランニングして食べて魔法の練習をして休んでという生活を繰り返している。
2人の今後の成長から目が離せないね。
……さて、私もそろそろ働かないとなんだか落ち着かなくなってきた。
至極当然当たり前のことだが、働かないと収入が無いのだ。
『モンスターを狩ってお肉を売る』のが最も私の得意とする労働だが、大襲撃の影響でこの国周辺のモンスターはマジでいなくなっている。
今の状況では、自分で食べる分しかお肉を獲得できないだろう。
となると次に出来る労働としては、錬成魔法を使った武器作りだ。
アダマンチウム合金はもうほとんどないが、鉄なら最近買ったので、材料に結構余裕がある。
ここ最近は作っていなかったし、感覚を取り戻す練習がてらナイフでも作ってみよう。
そんな訳で庭に移動。
時刻はお昼を過ぎた頃。
庭にはエルフちゃんがいて、エルフちゃんは今ベンチプレスをしている様だ。
大胸筋を大きく鍛えて欲しい。
まずはいつも通り鉄のインゴットに魔力を流し込み、錬成魔法を発動して鉄を柔らかくした後は、モミモミ捏ねていく。
エルフちゃんがバーベルを上げる・モミモミ。
エルフちゃんがバーベルを下げる・モミ。
……作業がなかなか捗らない。
「ちょっといい?」
「なんっ!ですか?」
「ベンチプレスをするのなら、バーベルを一気に上げてゆっくり下げるのが効果的だった記憶があるよ。スクワットの時と一緒。重いのは分かるけど、ゆっくり下ろすことを意識してみて。あと呼吸。上げるときに息を吐いて、吸いながら下ろす様にしてみて。」
「分かりっ!ましたぁ~。」
素直なエルフちゃん、一気にバーベルを上げ、凄くプルプルしながらゆっくり下げる。
多少無理して怪我しても私が治せる様になったので、重量を本当にギリギリまで重くしているのだ。
この世界の昔の人も、同じようなことをしていたのだろうか……?
とりあえず作業に戻る。
捏ねた鉄をナイフの形に変えていく。
今回は某バトルロイヤルゲームで、『5万円出せば確実に無料で手に入る』と言われていたクナイみたいな形のナイフにしようと思う。
実用性があるかは分からないが、どうせ練習なのだ、気にしないでおこう。
2人とも一切喋らずに、庭では事故防止のために作ったセーフティーと、エルフちゃんの下げるバーベルが軽く接触する金属音が響くのだった。
「出来たのか?」
いつの間にか隊長さんが来ていたようだ。
久しぶりだが意外と集中していたようだ。
今は・・・おやつタイムを過ぎた頃かな?
エルフちゃんは筋トレを止めて素振りをしている。
前は私が武器を作っている最中は、ず~っと付きっきりで見ていてくれたのに……。
少し寂しいわぁ~。
「変わった形のナイフだな。投げナイフか?」
どうなんだろう?
昔見てた忍者が主人公の子供向けアニメでは投げて使っていたけど、ゲームでは突きモーションだったような……?
私は買わなかったから分からないんだよな~。
まぁ、刃物として使えればどうでもいいかな?
握った感じ結構使いやすそうだし。
使い方は自由です。
隊長さんは気づくのが遅れるほど自然と私の手からクナイを取っており、軽く振りながら握り心地を確認している。
錬成魔法で武器を作る際、『何が一番の強みになるか』と言われれば、間違いなく『グリップの良さ』だと答えるだろう。
基本的には私の手に合わせて最もフィットする太さや形状にしているが、錬成魔法を使えば簡単に微調整が出来る。
柄に革や布を巻く必要がなく、非常に繊細な感覚でモノを扱うことが出来るようになるのだ。
まぁ、柄と刀身を一体化にせず、握るところだけを木材で作れば加工も簡単でいいのかもしれないが、とりあえず錬成魔法での最大の特徴は握りやすさの追求が出来ることだろう。
「なかなかいいな。使いやすそうだ。」
隊長さんから合格が貰えたぞ~!
まぁ、ダメ出しされたことがあるのは薪割り君の見た目くらいだけど……。
そういえば何か用かな?
エルフちゃんの指導に来たって感じではないけど。
「その……。別に断ってくれてもいいのだが……。師匠がな、君に剣を作って欲しいそうだ。ただの鉄から作られたカタナであれ程の切れ味が出せるのなら、希少な素材で作れば神器に近い品質の武器が作れるのではないかと期待していてな……。」
……そういえばKATANAってただの鉄から作ったんだったっけ。
アダマンチウム製だったら魔法付与をしても折れることはなかったのかな?
まぁ、ハイ師匠にKATANAの様な切れ味特化の剣を作るのは別に問題ないのだが、問題は希少な素材を使って武器が作れるかどうかだ。
隊長さんの剣とかマジで必要ではなかったお手入れが大変だった。
主に武器の形成をする錬成魔法は、希少素材に対して効果が薄い可能性が非常に高いのだ。
一度実際に材料を確認して、実際に作れるかどうか試してみてから引き受けるべきだと思う。
「渡されたのはこれなんだが……。」
そう言って隊長さんが出したのは、非常に見覚えのあるドラゴンの牙だった。
以前、恐らくステータス不足で挫折したが、今ならいけるだろうか?
前に少しだけ加工したもので試してみよう。
……あ~、いけるかも?
相変わらず錬成魔法の効果は薄くなるけど、前よりはだいぶ加工しやすい気がするような?
「頼めるか?」
若干上目遣いの隊長さん可愛い。
『魔除けの聖遺物』が復元されるよりも時間はかかると思うが、急いで人間の国へ行く必要は全くないのだ。
私のドラゴン素材を武器にする練習が出来るし、引き受けよう。
「剣の形状はKATANAと同じですか?それとも両刃ですか?」
「カタナと同じでいいと思う。あれは見た目からして素晴らしい出来だった。」
隊長さん、KATANAをずっと欲しがってたけど、そこまで惚れ込んでたのか……。
今度飾る用にプレゼントしようかな。
普段、本当にいろいろとお世話になってるからね。
そんな訳で、まずはハイ師匠のKATANAを作ることにする。
隊長さんはエルフちゃんの指導に行ってしまった。
私が集中して取り組めるように、気遣ってくれたのだろう。
さて、ドラゴンの牙を冷静に観察して、1つだけ気づいたことがある。
それは牙の表面と内部では、材質も硬さも違うということだ。
表面はちょっと洒落にならないくらい硬いが、中はただめちゃくちゃ硬い。
魔力の通りの悪さも、異常に効果が薄いのは表面だけで、内部は普通に加工できそうなくらい柔らかくなりそうだ。
そこでまずは、錬成魔法の効果の通りやすさの違いを基準に、牙の材質を2つに分離してみることにした。
少し加工しやすい方を芯に使い、ガッチガチの硬い方は芯を包み込むような形で刃として形成し、より刀に近い造りで、KATANAを作るのだ。
間に夕食を挟みつつ、深夜まで分離作業は続いた。
1日で完成まで持って行くつもりは一切なかったが、まさか牙を2種類に分離するだけで夜中まで時間かかるとは思わなかったよ……。
先は長くなりそうだ。
翌朝。
朝食を食べた後はさっそくKATANA作り。
お昼ご飯までに、芯となる部分の形成まで終わらせるつもりで頑張りたい。
比較的錬成魔法で加工が容易なこともあり、作業は順調に進んだ。
だが、KATANAの芯として使うには、どのような形状が一番適しているのかが分からない。
最初からKATANAの形にした芯の上に硬い派の材質を被せるのか、少し丸みを持たせてとにかくKATANAを折れにくくするための芯として形成するべきなのか……。
私は後者を選んだ。
芯は、あくまでも芯。
折れないための工夫が最も重要なのだ。
お昼ご飯が出来る前に、出来るだけ角が出来ないように形成した芯が完成した。
午後からが本番である。
昼食を挟んでお昼過ぎ。
いよいよ難関の刃作りだ。
魔力を繊細かつ大胆に浸透させ、錬成魔法をかけていく。
……やっぱりクッソ硬ぇや。
だが加工できない程ではない。
少しづつ、丁寧に、焦ることなく、まずは捏ねていく。
なんだか少しづつ柔らかくなってきたような……?
……気のせいか。
捏ねる作業も無事に終わったので、硬さの戻った芯を包み、少しづつKATANAへと形を整えていく……。
夕食の時間までに終わらせることは出来なかった。
KATANAとしての形が整ったのは、翌日の夕方だった。
これからやっと研ぎ作業だ。
焼入れ……?
材料が鉄ではなく、ドラゴンの牙なので、焼入れは行いません。
歯は熱に強かったような記憶はあるけど、歯を焼いたからといって硬くなるイメージはないからね。
安っぽい材料ならお手製魔導やすりを使って磨くのだが、今回の研ぎはすべて手作業で行う。
ハイ師匠に渡すKATANAなのだ、妥協は出来ない。
荒い砥石から順番に、KATANAを研いでいくのだった。
「そんな感じで、一週間かけて研いで完成したのがこちらです。どうぞお納めください。」
真面目に毎日何時間も頑張って、完成まで1週間もかかったD:KATANAプロトタイプを、ハイ師匠へと引き渡す。
「そうですか。」
滅茶苦茶苦労したことを伝えてもハイ師匠の反応は薄いが、実際の刃を見て、どのような評価が下されるのだろうか?
凄くドキドキである。
ハイ師匠が鞘からD:KATANAプロトタイプを抜いた。
……名前の長さは気にしないで欲しい。
それで評価はどうだ?
表情は完全に固まっている。
これは良い兆しなのか悪い時のリアクションなのか……。
緊張しながらハイ師匠の言葉を待つ。
この場には私とハイ師匠しかいない。
隊長さんは『見たら欲しくなる』と言って、ハイ師匠を連れてきた後は、部屋から出て行ってしまった。
「神器では無いようですね……。」
10分近く待たされた言葉は、残念な結果だったようだ……。
少し落ち込みそう。
「むしろ神殺しの武器ですね、これは。非常に素晴らしいという言葉では到底足りない程の完成度です。『あなたは今、生きている生命の中で最も優れた武器職人である』と、私が保証しましょう。ありがとうございました。」
……大絶賛だった。
この後、マジで部屋の中に山が出来るほどの大量の金と、武器に使えるらしい見たことない金属を沢山受け取った。
もう一生、死ぬまで遊んで暮らせそうだ。
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