第121話 終わり!閉廷!以上!みんな解散!
この世界に来てからなんだかんだいろんな生き物を見てきた。
こちらの言葉をしっかりと理解している神獣の亀はいたが、言葉を話すモンスターと出会うのは初めての経験だ。
雰囲気的にはモンスターとしか思えないのだが、もしかすると亀以上の神獣だったりするのだろうか?
それとも、この世界の馬モンスターは喋るのが普通なのだろうか?
「馬モンって神獣だったりする?」
返答はなかった。
なぜなら馬モンは私の目の前で変身を始めたからだ。
首がどんどん伸びていったかと思えば、ジッパーを下げたかのように馬の頭が割れて開き始め、開いた首の付け根からヒトの上半身の様なものが出てきた。
もしかすると馬に化けていたケンタウルスだったのかもしれない。
少なくとも見た目で言えば、私の知っているケンタウルスが近しい。
ケンタウルスから馬へと変身するときはどうなのか知らないが、馬からケンタウルスへと変身するのは見た目が非常にグロかったので、今後目の前で変身するのは是非とも止めていただきたい。
とりあえずどうしよう……。
この喋る馬モン、多分間違いなく敵だよね?
『忌々しいエルフめ』とか言ってたし。
処すのは当然だが、喋れるだけの知能があるのなら、何かしらの情報を聞き出せる可能性が高い気もする。
一旦隊長さんの方へ逃げてもいいだろうか?
「貴様は人間か?エルフと人間は決別したと聞いていたのだが……。長い時を経て、再び交流を持とうというのか……。」
「用件があるのなら名前とご身分をお願いしま~す。」
今は私に注意が向いている様なので、刺激しないように武器は抜かず、逃げるようなこともせず、とりあえず話を聞いてみようと思ったのだが、どこからともなくハイ師匠が飛んできて、馬モンに対して強烈なドロップキックを食らわせた。
吹き飛んでいく馬モン。
ダンジョン産モンスターではない可能性があり、馬刺しとして食せる可能性がまだあるので、食品価値を落としかねない攻撃はやめていただきたい。
「まさか世界中を探し回っても見つからなかった魔王に、国に戻ったことで出会えるとは思ってもいませんでした。我らの信仰のもと、神の御言葉通り、魔王は抹殺します。」
「忌々しいハイエルフめ……。ここで私を殺しても無駄だ。この体は私の本体ではなく今回の襲撃の為に用意した分身。エルフの国を滅ぼすことは出来なかったが居場所は知れた。第2第3の侵攻で、必ずや貴様らを1匹残らず滅ぼしてやろう。」
凄く台詞が魔王っぽい!
ちょっと感動。
それにしても、ハイ師匠の言った『神の御言葉通り魔王は抹殺』って……。
魔王が私の敵であることは分かったのだが、だいたいの物語の場合、魔王は人類の敵であって神の敵ではないイメージだったけど、なにか魔王と因縁でもあるのかな?
今度会ったときにでも聞いてみよう。
「剣を借りてもいいですか?」
ハイ師匠がそう聞いてきたので、素早くインベントリからKATANAを取り出して手渡す。
そして全力で逃げた。
だって絶対離れていないと危険だと思ったもん。
隊長さんのいる位置まで撤退し、振り返って確認してみると、既に細切れにされた魔王の残骸が切断面から青い炎を吹き出しながら燃え尽きようとしており、剣を振り抜いた姿勢のハイ師匠が持つKATANAは、途中でポッキリ折れていた。
……KATANA~!
私、まだ1回も実戦で使ってないのに……。
馬刺しは儚い夢だったし、KATANAは折れるし、今日は厄日なのではないだろうか?
大襲撃が来てるのに吉日な訳はないのだが……。
それにしても、なんで今回は折れたんだ?
魔王の馬モンは意外と頑丈だったのか?
いや、細切れになった馬モンから青い炎が出てるし、ただ斬ったのではなく、何かしらの技を併用して斬った結果、KATANAが耐えきれずに折れたのかもしれない。
そういうことは自分の剣でやって欲しいものだが、元の世界でも他人の物を勝手に使用したうえで破損させる常識知らずが身近にいたので、こういう場合は諦めるしかないだろう。
『ハイ師匠が実際に使用し、魔王を斬った際に折れた』と広告すれば、もっと高額なプレ値がついて売れるかな?
「何かあったのか?……あぁ、剣が折れたんだな。」
落ち込んでいる私と、ポッキリと折れてしまったKATANAを持つハイ師匠の姿を見て、隊長さんは何があったのか察してくれたようで、慰めるように後ろからハグをし、頭を撫でてきた。
少し恥ずかしい。
落ち込んでいても仕方がないので、気持ちを切り替えることにしよう。
とりあえず折れたKATANAを回収するため、隊長さんと一緒に、手に持った折れたKATANAを眺めているハイ師匠の元へと移動する。
近づく頃には魔王馬モンは燃え尽き、後には1つの魔石と、1つのスキルオーブが残されていた。
「すみません。属性を付与して斬ったら折れてしまいました。」
……意外にも素直にハイ師匠に謝罪された。
もっと『折れる剣が悪い!俺は悪くねぇ!』みたいな感じのノリで来るのかと思っていたが、ハイ師匠は常識と良識ある大人だった様だ。
落ち込みはしたが、正直KATANAを折ったことに対して怒ってはいなかったので、素直に謝罪を受け入れ、KATANAを受け取りインベントリに入れる。
ところで『属性を付与して斬る』って私でも出来たりするのだろうか?
魔王馬モンの切断面から吹き出ていた青い炎が結構格好良かったから私もやってみたい。
なにか特別なスキルが必要なのかな?
「属性の付与は魔法さえ使えれば誰にでも出来る技ですよ。ただし、複数の属性を付与するとなると、非常に難易度が上がります。先ほど私が使用したのは『火』と『浄化』を混ぜた付与です。」
ほぉ~。
付与自体は私でも出来そうだな。
今度練習しよう。
「ニート。師匠の言う『誰にでも出来る』は信用しない方がいい。少なくとも私は出来なかった。」
「それは剣の鍛錬ばかりを行い、魔法の鍛錬を一切してこなかったあなたに問題があります。今からでも魔法の鍛錬を始めますか?あなたは非常に優秀なので、100年ほどなら付きっきりで稽古を見て差し上げますよ?」
「いえいえ、ハイエルフになられた師匠に100年も稽古を見て頂くなんて恐れ多い。どうせなら私ではなく、兵士としての質が下がってしまったこの国の兵たちの指導をお願いしたい。」
いい笑顔の2人は放っておくことにして、少しだけ気になっている魔王馬モンの魔石とスキルオーブを拾う。
スキルオーブを遺したということは、あの魔王馬モン分身体はダンジョン産のボディーだったのだろう。
馬刺しは最初から食べられなかったんや……。
「おや、スキルオーブを残していましたか。剣を折ったお詫びに、そのスキルオーブはあなたの好きにしてもいいですよ。」
……そう?
それじゃあハイ師匠さんのお言葉に甘えて……。
グヘヘ。
全く同じとはいかないだろうがまた作り直せるKATANAとは違い、ダンジョンで魔物ガチャが必要なスキルオーブの方が私にとっては価値が高いけど、好きにしていいと言うのなら使っちゃおう!
……呪われてたりしないよね?
落としたのは魔王だからなぁ……。
そんなことを考えながらスキルオーブを壊す。
にーとは『回復魔法』をてにいれた。
……なんで魔王から回復魔法がゲットできるねん。
馬モンと回復魔法の関係が分からないよ。
もしかしたら馬モンはスリップダメージ系のスキルを持っていて、それが反転して回復魔法のスキルオーブを落とすとか?
……まぁ、なくはないか。
とにかく、わ~いやったぁ~!
回復魔法があれば、もう怖いものはあまりないぞ~!
この世界に来てからほとんど怪我してないんだよな~。
しばらくの間はエルフちゃんの筋肉痛でも直してスキル経験値を稼ぐか。
「なんのスキルオーブだったんだ?」
「回復魔法でした。まぁ、大当たりじゃないでしょうか?」
「回復……?『治癒魔法』ではなく『回復魔法』か、珍しいな。」
……『治癒魔法』と『回復魔法』って、同じものじゃなかったんだ。
聞けば『治癒魔法』と『回復魔法』、どちらも怪我をした際に使えば問題なく治すことができるらしい。
違いとしては、魔法で体の治癒力を活性化させて傷を治すのが『治癒魔法』で、同じ効果だが治癒魔法よりも魔力を多く使い、一瞬で治った状態にするのが『回復魔法』らしい。
昔の鑑定持ち転移者の遺した手記(この世界の言語版)に、そう書いてあるそうだ。
そういえば前に日本語版を貰ったけど全く読んでないな……。
まぁ個人的には、魔力を多く消費するデメリットがあるとしても、瞬時に傷を治せる『回復魔法』の方がありがたい気がする。
KATANAは折ったがスキルオーブをくれたハイ師匠に、心から感謝しておこう。
「そろそろ今回の大襲撃も終息を迎えそうだ。小型のモンスター達はこちらを襲うのをやめて逃げ始めたみたいだし、私達はそろそろ戻ろうか。」
「了解です。」
昨日まであれ程心配していた大襲撃もこれで終わりか……。
隊長さんが心配していた通り魔王の仕業だったみたいだけど、何の問題もなかったな。
ハイ師匠が強過ぎたんだ……。
そういえば第2第3の侵攻があるとか言ってたような……?
国の位置がバレたのは色々と不味いのではないだろうか?
私が魔王なら人間の国にエルフの国の存在と位置を伝えて侵攻させて、疲弊したところを一網打尽にしちゃうかな~。
そんなことされてもハイ師匠が今後も防衛に協力してくれるのなら何の問題もないだろうけど、魔王本体を探して世界中を旅していたみたいだし……。
ハイ師匠がいないときに攻められると、隊長さんの言う『頭のイカれたハイエルフ』に頼るしかないだろうし……。
「魔王に関しては心配ありません。『魔除けの聖遺物』が復元できれば、モンスター達はこの国には近づくことすら出来なくなります。魔王本体なら攻め込んでくることも可能でしょうが、その時はハイエルフの全員で袋叩きにしてやりますので問題ありません。」
……そういうセリフは『魔除けの聖遺物』の復元が終わってから言うべきですよ。
そういうセリフを言うと、『修理するためにはあれが足りてない』って感じになって、大急ぎで実力と暇のある誰かが復元するための材料確保に行かないといけなくなるんですから。
「そもそも魔王がいたことに気がつかなかったのだが……。」
隊長さんが1人困惑していた。
まぁ、馬モンの馬形態を見て魔王だと認識するのは困難だろう。
私も最初は喋るだけのただの馬モンだと思った。
なんなら馬刺しにするか、捕まえて調教して売り払おうかとも考えていたくらいだ。
私がハイ師匠から逃げるまで熱心にエルフちゃんに指導していたみたいだし、馬モンが変身したことに気づけなくても不思議ではない。
そういえばエルフちゃんのレベルは上がったかな?
こうして、初めての大襲撃は特に何事もなく生き残ることが出来たのだった。
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