第120話 仕事が無いでござる。
先に弓兵の方々が攻撃をしたことから想像できた通り、魔法部隊の方々の魔法射程は弓よりも短い様だ。
引き付けて引き付けて、(そろそろ近接職の方々が対応する準備をした方がいいのではないか?)と私が思い始めたタイミングで、やっと魔法での攻撃が開始された。
1つだけ完全に予想外だったのは、1人で1つの魔法を放つのではなく、全員で1つの大規模な魔法を発動したことだ。
放たれたのは白い光。
肉眼でもハッキリ見える、直径1メートルは越えるであろう太くて白っぽいレーザービームがモンスターの大群へと突き刺さり、一瞬の間をおいて爆発した。
正直凄まじい威力である。
直線状に伸びたレーザービームの通過地点付近にいたモンスターは全て消滅しており、爆発した周辺のモンスターも一掃されている。
昨日ダメダメだった近接職の皆さんに、先ほどの正直戦果としては微妙な弓兵の皆さんを見ていたので、30人程度しかいない魔法部隊の方々に対してほとんど期待していなかったのだが、完全に予想裏切られたような形だ。
恐らく個人個人で見るのならば、ステータスの高い私の方が強いだろう。
しかし複数人で発動する合成魔法……良い物を見させてもらった。
魔法部隊の方々には脱帽だ。
帽子被ってないけど。
先ほどの弓兵の方々が倒したモンスターは、多めに見積もっても全体の5パーセント程だと思うが、魔法部隊の放った一撃は、全体の2割ほどを消し飛ばした。
あと数発同じ魔法を放てば、今回の大襲撃は何事もなく着実に終結を迎えるだろう。
……あ、魔法部隊の方々は今の1撃で魔力切れになっちゃったんですね。
お疲れ~っす!
そんな訳で、大きな戦果を挙げた魔法部隊に続けと言わんばかりに、近接職の方々が次々と城門から外へと飛び降りている。
全員装備をしっかりと身につけているのに意外と身軽で、着地時に足首を挫くマヌケは現れなかった。
……少し残念だ。
外へ出た近接職の方々は、思い思いにモンスターへと攻撃を開始する。
近くにいる味方と協力はしているようだが、組織的に陣形を組んで行動したりはしないのだろうか?
戦場は完全に乱戦状態となっており、正直(個人個人の実力が低いのだから、乱戦に持ち込むのはやめた方がいいのではないか)と思ったのだが、意外にも近接職の方々は順調に雑魚モンスターを処理できているようだ。
昨日との違いはいったい何なのだろうか?
「今前に出て戦っているのは昨日の隊ではないからな。あれは普段からこの国の周辺でモンスターを狩っている5番隊だと思う。個々の実力もしっかりとあるし、咄嗟の連携が上手い印象だな。あれが基準になっていれば、この国も安心安泰なのだが……。」
そう言われてよく見ると、昨日のクソゴミカスエルフはまだ城門のところにいる。
この期に及んでサボっているわけではないだろうが、正直そのまま余計なことはせずに大人しくしていて欲しい。
エルフさん達はしばらくの間順調にモンスターを処理し続けてきたが、モンスターの中に中型と思われる大きさのモノが混じり始め、少しづつ処理のペースが遅くなっていった。
まだ6割以上はモンスターが残っているし、その中には多数の中型と、1匹だけ明らかに存在が浮いている大型モンスターの姿が確認できる。
助力するのならそろそろいいタイミングなのではないだろうか?
「半数は倒して欲しかったですが、そろそろ潮時ですね。私はあの大型付近を片づけます。ソフィーア、少しの間防衛を頼みますよ。」
ハイ師匠はそう言い残して城壁から飛び立った。
そう、完全に空を飛んでいるのだ。
空中に足場を作っているとか、ムササビスーツみたいに滑空しているとかではなく、普通に空を飛んでいる。
ハイエルフになると空も飛べるようになるのだろうか?
少し羨ましい。
だが、今注目すべきはハイ師匠が空を飛べることではなく、その戦いぶりだ。
隊長さんが全面の信頼を寄せる実力とはいか程のものか、見逃さないように瞬きを我慢して観戦することにした。
ハイ師匠が今、ゆっくりと大型モンスターの目の前に降り立つ。
周囲数十メートルにいた全てのモンスターが一瞬細切れになって消滅した。
……意味が分からない。
ハイエルフになると着地するだけで周囲のモンスターを細切れに出来るようになるのだろうか?
結構真剣に観察していたから、動きを見逃したりとかはしていないはず。
もしやイタリアマフィアのボスみたいに、『KATANAを抜いて斬る』という過程の時間を消し去ったのだろうか?
もしそうなら流石に化け物過ぎると思うのだが……。
というか死んだら即消滅するダンジョン産モンスターが一瞬細切れ状になったのを確認できたということは、死ぬよりも早く周囲全てのモンスターを細切れにしたということだろう。
……いくら何でもヤバ過ぎない?
隊長さ~ん!
何が起こったのか教えて~!
「いや……私にも何が起こったのか分からないぞ……。少なくとも私の知っている師匠は普通に斬ってモンスターを倒していたのだが……。ハイエルフになっただけあって凄まじいな……。」
隊長さんも今の現象は初めて見た様だ。
『ハイエルフだから』という理由で納得していることから察するに、ハイエルフとは理不尽の塊なのではないだろうか……?
今後のハイエルフさん達との付き合い方を、もう少し真剣に考えるべきかもしれない。
……塩焼きそばは週1ペースでいいかな?
いや、レシピをどこかの飲食店に教えておくべきなのかもしれない。
大襲撃が終わったら隊長さんに相談しよう。
ハイ師匠は、帰りは空を飛ばずに歩いて帰ってくるようだ。
普通に真っすぐこちらに歩いて来ているように見えるが、周囲のモンスターは次々と消滅していっている。
KATANAすら抜かずにモンスターを斬っているかの様だ。
結局、ハイ師匠が城壁に戻ってくる頃には、大襲撃のモンスター達はその数を2割以下にまで減らしているのだった。
ハイ師匠強過ぎワロタ。
「このくらいやれば後は任せても大丈夫でしょう。久しぶりに暴れることが出来てスッキリしました。そういえばこれを。なかなか良い剣でした。」
そう言われてKATANAを返してもらった。
『ハイ師匠が実際に使用した』ということでプレ値つくかな?
隊長さんが物凄く欲しそうな顔をしているが、このKATANAより遥かに高性能な大剣を持っているのだから我慢して欲しい。
一応念のため鞘から抜いて、刀身の状態を確認してみる。
……問題ない様な、なんか少し雰囲気が変わった様な……?
前は『芸術品』って感じだったのが、『私、モンスターの生き血を吸ってパワーアップしたんですよ』って感じになっている気がする。
気のせいかな?
もしかしたら疲れているのかもしれない。
刀を鞘に戻し、インベントリに入れておいた。
「もうここを離れても問題ないだろうし、私達も少し狩りに行くか。ソフィーナに経験を積ませてやらないといけないしな。」
そんな隊長さんの提案により、隊長さん・エルフちゃん・在庫ちゃん・私の4人で、しばらく狩りをすることになった。
と言っても、隊長さんは指導役で、実際に戦うのはエルフちゃんと在庫ちゃんだけだ。
私は後ろで応援する係。
エルフちゃんは初めての大襲撃であり、初めての薙刀実戦だ。
だが日頃の鍛錬の成果が出ているのか、昔はウサギ1匹に苦戦していたエルフちゃんが、狼モンスターをサクッと倒すことが出来ていた。
あれからたった数ヶ月しか経っていないのに、こんなに立派に成長しちゃって……。
今のすれ違うように移動しながら斬るやつ格好良かったね。
もう1回やって。
在庫ちゃんの方は、正直芳しくない。
物理魔法の使い方が一般的過ぎるのだ。
私は物理魔法でナイフや剣を作り出す様な使い方をしていたが、それをするには近接戦が出来なければならない。
在庫ちゃんは運動が苦手なようである。
突っ込んでくるモンスターに対して、物理魔法で壁を作り動きを止めるところまでは素晴らしいのだが、肝心の攻撃が物理魔法を飛ばす使い方なので、なかなかモンスターが死なないのだ。
モンスターに物理魔法が当たった時の音や反応を見る限り、在庫ちゃんの攻撃は、元の世界の一般男性が殴る力よりかは威力が出ていると思うのだが、自身と変わらないか、自身より大きいモンスター相手に、一般男性(ちょっと強め)の人が一方的に殴り掛かったとしても、なかなか相手を殺すことは出来ないだろう。
どうせなら飛ばす物理魔法の形を、もっと刺さりやすい形状にしてから飛ばせばいいと思うのだが、丸い形に対してこだわりでもあるのだろうか?
「在庫……エアリアちゃん、丸い形の物理魔法しか飛ばしてないけど、何か形にこだわりとかあるの?」
「えっ?……形ですか?」
「どうせ飛ばすなら刺さりやすい形にした方が有効的だと思うんだよね。矢の様な形状にしてモンスターの目玉を抜いたら、もっと簡単に倒せるんじゃないの?」
在庫ちゃんは私が言ったことを頭の中でイメージしている様だ。
10秒ほど経過したところで、放出した魔力を細く先の鋭い矢の様な形状へと変化させ、近くにいた兎モンスターに射出した。
矢は見事に首に突き刺さり、数秒後にモンスターは消滅。
あまりにもあっさりとモンスターを倒せたからか、在庫ちゃんが少しマヌケな表情だ。
「大きい方が強くモンスターを攻撃できると思ってました……。」
「普通の属性魔法ならそうかもね。」
『大きい』イコール『強い』。
分かりやすい考え方だし、正しい場合も多いだろう。
たぶん私の使える火魔法や氷魔法は、ただただ魔力をいっぱい注ぎ込んで発動しただけでも、なかなかの被害を与えられると思う。
物理魔法は他の魔法と比べて、あまりにも毛色が違いすぎるのだ。
魔力を多く使っても、大きさが変わるのがほとんどで硬さはあまり変わらないし、壁として使う以外は、使い方を工夫しないといけない面倒な魔法なのだ。
そう考えると物理魔法をナイフ代わりに使っていた私は天才的なのでは!?
……固定観念がなかったから自由な発想が出来ただけだろう。
在庫ちゃんも順調にモンスターを倒し始めたので、本格的に私は暇になってしまった。
モンスターはあと1割程。
向こうにいる中型っぽい大きさのモンスターでも倒しに行こうかな?
そう思っていると、向こうからこちらにやって来てくれた。
サイズがデカイだけで、見た目は本当にただの馬だ。
ダンジョン産でなければ馬刺しが食べられるんだけどなぁ~……。
「忌々しいエルフがこれほどの力を持っているとは……。今回の侵攻は失敗の様だな。」
……馬が喋ったー!!?
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